第1話 異世界の街、マミルス
昨日のあの瞬間を、僕は未だに説明することができない。それはもう、僕が地球でノーベル賞を取った物理学者だったとしてもむりだろう。
と、言っても僕はノーベル賞を取った物理学者なんかではなくまあ普通の範疇に収まる中学2年生だった。友達もまあまあいて、裕福ではなったが金には困っていなかった。
つまり、楽しい青春を謳歌していたわけだ。しかし、それはずっと続くものではなかった。というか、普通の人より早くに終わりを迎えた。
僕は、その日早帰りだったために公園で友達とゲームをして遊んでいたのだ。そして、遊び疲れ帰ろうとした時には6時を回っていた。
後1日で、10月である。もうあたりは薄暗い。まるでこの世の形が変わるようにあやふやな先の見えない暗さだ。
徒歩でバス停まで行く。
まだ2、3度しか通ったことのない道だが直線なので迷うことはないはずだった。
しかし、僕は迷った。
なにをどう迷ったのかはわからない。
ただ分かるのは、気づいた時にはアスファルトだった路面はタイルのようなつるっとしたものに変わっていた、そして、道には分かれ道ができた。
僕は、何かに吸い寄せられるように曲がり道に入っていった。
何かに取り憑かれたような、ふわ〜って感じだ。
途中まで来て道は戻れないことに気付いた。
「あ、、、」
僕は、泣き喚いた。
もう、人生は終わったのだと思った。
しかし、僕は歩みを止めない。もう戻れないと知ったから。
体感では1時間くらい泣きながら歩いていた気がする。
ふと携帯を見ると、まだ2分しか経っていなかった。
この道はいつまで続くのだろうか、そんなことを考えるようになった。
しかし、その道は終わらない道ではなかった。
出た先はなぜかまだ太陽が沈む寸前で、僕の来たはずの道はやはり跡形もなく消えていた。
場所はもちろん住宅地ではない。後ろには森前には草原が広がっている。
そして、かなり遠いが塔が見える。3kmぐらい先だろうか。
しかし、それよりも重要なことがある。それはつまり、僕の10メートルほど前にいる、同い年ぐらいの女の子のことである。身長は僕と同じくらいあるから体格は女子の中では平均的だろう。
さて、ここで問題なのは彼女が僕と同じ境遇なのか。もしくは単にこの近くに住んでいるだけなのか。この距離では服装はあまりよく見えない。
話さなければ、彼女のことはわかるわけはない。
話そう、と思いたいところだが残念ながら僕は人見知りなのでちょっと無理。というわけで僕は彼女の方を見ているしかできない。
辺りが薄暗くなった。僕は少し怯える。あの道に迷ったときと同じような明るさである。
突然彼女が少しずつ何も言わずに近づいてくる。なにをされるかわからないので一応、身構えておこう。
ある程度近づいてくると、彼女の容姿が分かるようになった。服装は地球のものによく似たワンピース。瞳の色はよく分からないが、黒っぽいし髪も黒い。そして、顔はモデルほどとまではいかないが結構かわいい。日本人とよく似た顔立ちだからもしかすると、同郷者かもしれない。
彼女は、僕と50cmほどの距離まで近づいてきて、初めて言葉を発した。
「あなたは、、、雷様ですか?」
「、、、はい?」
今雷様とか聞こえた気がするんだが。一体何のことだろう。
「ひっ、、あなたは雷様でございますか?」
なにを勘違いしているのですか?僕は極普通の中2ですよ?
「いえ、違いますが」
「では、あなたは誰でしょうか?」
「高橋翔真、中二です」
「ちゅうに?何ですか、それは?」
なるほど、言葉は通じるのに中学校を知らない。ここに来てやっと僕は言葉が通じることに気がついた。
ここは、夢にまで見た物語の世界か?
「いや、なんでもないです。13歳です。あと、半月ほどで14歳になります」
「そうですか、私はレイ・タクオードです。この前14歳になりました」
ふむ年は近いのか。
「あの、ここはどこでしょうか?」
言ってから僕はその質問が変だったことに気づく。それではまるで僕が、テレポートしたことになる。驚かれてしまうかもしれない。
「ここはですね、アーデミナル公国のバディウ首長国の国境線近くです」
レイさんは平然と答える。僕だったら結構驚くと思うのだが。
そして、アーデミナル。全く聞いたことのない国だ。これが異世界ってやつだろうか。見た目は、あんまり変わらないようだ。
チート能力なんかを僕も持っていたりするのだろうか。そうすれば僕の勇者人生が始まるのだが。
「結局あなたは何者なんですか?」
僕の妄想はいとも簡単に終わりを告げた。
「普通の人間です。あなたと同じですよ?」
「そんなわけないです。さっきまで大雨だったのにあなたが現れてからは雨が降って来ないじゃないですか?」
なるほど、状況が読めてきた。
大雨の中で、俺が突然現れて雨が止んだ。
不審に思ったレイさんがしばらく観察してから話しかけてきたのだ。
「それは、まあたまたまじゃないですかね?」
それにしてもよく突然現れたことに気付いたな。一番気付きにくい時間帯だった気がするが。
「それにしてもよく気付きましたね。僕だったら気付きませんよ」
ちょっと饒舌になって、僕の方から話しかけた。
「はー、雷が鳴ったんですよ。その森の前に落ちて。それで見たらあなたが」
うーん、確かにこれは僕を雷様と思っても仕方ない状況だな。
記憶にはないけど。
「なるほど」
レイさんはまたなにも言わずに黙ってしまった。
レイさんの顔が月明かりに照らされ始めた頃、僕はふと思った。
「あの、あなたは帰らないのですか?」
レイさんと呼ばなかったのは勇気がなかったからだ。
「、、、」
レイさんがはっとしたような顔をした後、悲しい顔へと変わっていった。それはもう、
「もう、帰る家は無くなってしまいました」
やっぱりそんなところか。家出してきたとか。
そんなこと言われても、、、という感じなのだが。無視もできない。
「あのですね、母と父がいないので、祖母の家にいたのですが、、、今日の昼頃に強盗がでておばあちゃんは、、、、」
もう最後の方は言葉が出ていなかった。
多分、よほど追い詰められていたのだろう。僕は随分と泣いて、多少はすっきりしたがレイさんはずっと現実を受け止められていなかったんだろう。様子を見ると服は部屋着っぽいし靴は履いておらず足はかなり傷ついている。家を飛び出してきたんだろう。
レイさんには、今まで泣く様子はなかった。僕が雷と一緒に現れたことに驚いていたんだろう。だからそっちに手一杯だったが今になり心にゆとりが生まれた。
散々泣いた後、深夜までレイさんは何か考え事をしていた。
僕の方はなぜかしっかりと眠ることができた。多分時差の問題だと思うけど。
朝、僕はとてもスッキリとした状態で起きることができた。あれだけ泣いて、よく寝たのだから当然といえば当然だろう。泣くことには精神を安定させる効果もあるらしいし。
僕はよく考える。熱くならないように、冷静になって。
今更どうこう言っても遅い。もうあの道を見つけることすらできないのだ。この状況をどうにかできるわけはないのだ。
ならば、いつものスタンス通り、異世界での暮らしを楽しんでやろうではないか!異世界についてはゲームや小説なんかで多少は知識がある。それを駆使すれば勇者だって夢じゃない。
もう太陽は完全に登っている。
しかし、僕はそれどころではない。もうお腹が空いて仕方がないのだ。
もう昨日の昼ごはんを食べてからなにも食べていない。
ふと、横を見るとレイさんがまだ寝ていた。
早起きそうに見えたけどな。
「あ、あのーレイさん?」
「ん、んー」
レイさんは黒髪に黒目という日本人の顔立ちによく似ている。
レイって名前も。
もしかすると同郷の人がいたのかもしれない。
伸びをしたレイさんはお腹に手を当てると
「、、、お腹空いた」
と一言。
寝起きの第1声がそれなんて。大分、変わった人だな。
まあ、頼れそうだしいいけど。
「レイさーん?お腹空いたんですけど。お金とか、持ってませんか」
レイさんは、ゆっくりと右手を上げた。
手のひらが下を向いている。
そして、手を振る。
頼れると思っていた人は頼れなかった。
「すっからかんです」
「僕もです。どうしましょうか?」
レイさんレイさん、なんで家からお金持ってこなかったんだよ。
まあ、強盗に襲われたとか言ってたからお金がなかったんだろう、そうだろう。
とりあえず、街に入れば仕事もあるだろう。
もうお腹が空いて死にそう。さっさとお金を稼がないと。
問題は、レイさんだな。
レイさんがいれば、何かあった時に頼もしいだろうけど、、「一緒に行きましょう」なんて言えるわけがない。
仕方ない、一人で行くか。
「それじゃあ、僕は街に行って仕事を探してきます。それでは」
ここでついてきてくれるのが一番いいだがな。
「待って下さい。あなたは1人ですよね?」
「まあ、はい」
お、まさか。
「私は困っていましてね。是非良ければ連れてて行ってもらえないかなーなんて」
願ってもない幸運。
願っていなかったわけではないが。
「本当ですか、ありがとうこざいます」
「後、1ついいですか?敬語をやめなさい。私もやめるから」
僕が敬語を使うのには特に理由もないのだしいいか。
「う、うん」
「よしっ、それじゃ街に行きますか」
昨日の大泣きした雰囲気はレイさんからすっかり抜けていた。
どうやら明け方まで考えこんでいたようだ。
寝言だと思って起きたらレイさんの独り言だったりした。
街は全体的に茶色か黄緑色な感じだ。おそらく民家の煉瓦の色だろう。
街にはすんなり入ることができた。
街に入る門は3つ。大通りの門は人が多かったが僕達がいたのは裏門と呼ばれる門だったので並ぶ人はいなかった。
街に入るとレイさんが
「君、やるならアルバイトだよね?」
当たり前のことを尋ねてくる。アルバイト以外なにがあるというのだ。
「もちろん」
「じゃあとりあえず、セントラストに行こうか」
「レイさん、質問です。セントラストってなんですか?」
知らない単語は出てくるんだな。言語は同じなのに。
「街に大体1つある警察や政府の派出所的なものがあるところです」
「なるほど」
セントラスト、要は市役所と警察署を混ぜたやつか。
セントラストは街の中心部にあって、遠くから見えた塔の正体だった。
等の中は、活気にあるれていた。しかし、それは政府区域についている飲み食いできる、所謂居酒屋のような場所だけで警察区域の方は整然としていた。
それにしてもさっきから気になるがレイさん。
この人、あたりをキョロキョロと見渡している。
大丈夫なのだろうか。
「もしかしてこの街のセントラスト?に来たことないん、ないの?」
「それが、、ないんだよね」
そういえば、昨日一人でなんか言ってたな。「もしかするとこの街にはいるかも」とかなんとか。
恐らく、レイさんは父と母を祖母と一緒に探していなんだろうな。勝手な予想だけど。
それに言葉が通じればなんとかなるだろう。
「あっ、ちなみに私はもうカード作ってあるから作るのは君のだけだよ」
作ってあったのか。紛らわしい。
「はいはい、そうですか。どっちにしろ受付を探さないといけないけどね」
「そうだね」
そうして僕達は30分も中を彷徨った挙句、ようやく受付を見つけることができた。受付は3階にあったのだ。通りで見つけることができないわけだ。3階にもかなりの人の数がいたが、騒いでいるというわけではなかった。
3階は、1階の内装が木で出来ていたのに対し、石のような黒っぽい色合いとなっていた。何というか事務所って感じがする。
受付の人は、アランという30歳ぐらいの女の人だった。特徴といえば巨乳であるぐらいか。恐らくイメージアップのためだろう。
「すいません、アメルカードを作成したいのですが」
アメルカードは、日本でいうところのマイナンバーカードらしい。
「お2人ですか?」
「いえ、このショウマ君だけです」
「分かりました、ではこちらへ」
事務的な会話で何の面白みもない。
だからといって、フレンドリーすぎるのも困るけど。僕が案内されたのは、小さい部屋だった。
「では、指紋をとらせて頂きます」
そう言って、アランさんは判子のインクと少しつるっとした紙を持ってきた。
この国ではもう、印刷技術が発達しているのだろう。指紋という言葉が出てくるなんて、、、犯罪なんかしたらすぐ捕まりそうだな。
「分かりました」
僕が指を紙に押し付けると紙にしっかりと残った。擦っても消えなさそうだ。どうやってやったのだろうか。
「はい、これで終わりです。受付前で30分程お待ち下さい」
待っている間は、ずっとレイさんと話していた。レイさんは、僕に色々と教えてくれた。ありがたい。
そうしていると、30分はすぐに過ぎ去った。
「タカハシさん、カードが出来ました。紛失すると罰金を取られますのでご注意下さい」
げっ。
「罰金ってどのくらいなんですか?」
「5700ミストですね」
5700ミストって、、、
大体1ミストが日本で言うと10円ぐらいらしい。まあ、物の物価とかを聞いた感じだとだが。
ちなみにその下にミルって言う単位があってそれはミストの100分の1だ。
そんなことを教わって、賢くなった僕はアルバイトをするためレイさんと共に街へ繰り出した。
是非是非評価よろしく‼️




