アイス人とジュース人
前作、アイス人~冷たいアイスが暑苦しい!!~の続編になります。
※前作を読んでいなくてもわかるように書いたつもりでしたが、読んでいないとわかりずらい部分があるかも知れません。すいません。
俺の名前は鈴木冷一。
公立校に通う高一だ。
「冷一が高一。
れいいち が こういち。韻を踏んでるyo!yo!
……ぶふっ!」
などと、実の父親に何処に笑いどころがあるのか全くわからない持ちネタにされている。
寒いからやめてくれと伝えれば、
「『冷』一だから、寒くていいんだよぉ」
などと言い、父に反省の色はみられない。と言うか嫌がっている俺を見て楽しんでいる風ですらある。
来年になれば使えないネタなので、なんとか今年を乗り切って行きたい。……使えないよな?使わないよな?な?
ハッ!?
しまった。あまりの非現実的な今の状況に、意識が訳の分からない所へ行っていた。
今は父さんなんてどうでもいいんだ。どうでも。
「だから、最初にアイス人の声聞こえる人であるお兄さんと会ったのは私なんだから、私先輩だと思うんだよね!
ね!お兄さんっ!!」
「ええー?でも冷一、アイスよりジュース飲む回数のほうが多くない?割合的な部分で言ったらー、うちのほうが先輩だと思うんだけどー?」
「れ、冷一だなんてっ!呼び捨てだなんてっ!
なんて羨ま……、馴れ馴れしいっ!」
「今、アイスちゃん本音ダダ漏れだったからー。ヤバい、マジ可愛いんだけどー」
増えた。
なんか、いつものように、四ツ谷シャイダー(炭酸飲料)を自販機で買ったら、アイス人の時のように(要約すると、アイス買ったらアイスの妖精みたいのが出てきた)開けた瞬間声が聞こえて、で、増えてた。アイス人っぽいのが。
「……君、もしかしてジュース人?」
「うち、ソフトドリンク人ねー。宜しくー」
「お兄さんっ!ジュース人でいいですよっ!昔からジュース人でしたから!」
「アイスちゃんノリ大事だからその辺。マジでー」
どうもアイス人がご機嫌斜めで、ジュース人はわが道を行く、と言うか、ギャル感がある。
アイス人と同じで手のひらサイズ。背中の羽は長い髪の裏に収納も可能だそうだ。どうなってんだろ。
金髪でメイクもバッチリ。花柄のセットアップを着こなしている。ミニミニなのに、ショートパンツからスラリと伸びた足が眩し……、いや、アイス人、なんでそんな凄いジト目で見つめてくるの。
違うから、そんなんじゃないから。
変な意味とかないから。本当に。本当にー。
「てか珍しくなーい?見える者が、違う種族を二人も見えるなんてー。普通の人には見えないのにー」
「ほらっ、その辺はお兄さん、才能溢れる感じありますし!」
「天才って奴ー?凄くない?」
「凄いです凄いです!さすがお兄さんっ!
だからアイス食べましょ!」
「アイスちゃん無理やりすぎぃー。今冷一、シャイダー飲んでるからー」
「ムキィィ!!お兄さんっ!一体アイスとジュースっ!どっちのほうが大事なんですかっ!!」
「……アイス人、お前は何の話しをしてるんだ」
「だっ!だからっ!!どっちのほうが、す、すすす、すすすっ!!」
「アイスちゃんが暑さにやられちゃったんだけどー」
アイス人が壊れた。
大事とか、何処からそう言う話しになったのか……。
「アイスとジュースで選べる訳ないだろ」
みんな選べる?俺は無理。
夏にアイスとジュース。
「うん、やっぱり無理。どっちも好き」
「なななな、なんて罪深いお人だっ!お兄さんっ!!」
アイス人が両手で顔をかくしながら、きりもみして飛び回っている。
「わっ、危ないから!」
「別にー。クリームソーダとかー、コーラフロートみたいにソーダフロートで良くない?」
「!! ジュースちゃんっ!!頭いいっ!」
「頭いいとかはじめて言われたんだけどー!テンションあがるー!」
アイス人とジュース人が手と手を取って喜んでいる。
「なんかよくわからんけど、また賑やかになりそうだなぁ~」
この時俺は、ここが自販機の前だと言う事を忘れていた。
そして、俺をみつめる、小学生達がいる事にも気づかなかった。
「……あの男の人、一人でずっとぶつぶつ言ってるね」
「選べないとか、どっちも好きとか言ってる。目がキョロキョロしてる」
「先生に言う?」
「言う?」
「あ、ちなみにお兄さん。また独り言をぶつぶつ言って目線が定まらない不審者扱いされてますよ。あっちの子ども達に。先生に言う?って相談してますよ」
「だっからー!そういうのは早く言えって前も言ったよなぁぁぁっ!?」
アイス人もジュース人も、他の人には見えていないので、うっかり外で会話をしようものなら、空に向かって一人ぶつぶつと呟く変な人(不審人物)になってしまう。ヤバい。ヤバい!
「選べない、どっちも好きー、のあたりを聞いてたみたいだからー、ジュース選んでるフリしたらー?」
「それ採用!!あー!え、選べないなー!どれ買おうかなー!?」
自販機に小銭を入れて、適当に押す。
ボク悪い高校生じゃないよー、怪しくないよー、と思いながら。
買ったスポドリを取り出していると、自販機の当たりスロットがピピピと鳴り、
「ピラリラリリーー!!」
と聞いた事のない音がした。
777と数字が並び、当たり!やったね!の文字と交互に点滅している。
ジュース人~~!今当てるところじゃねえよ~~!!
しかし冷一は気づかなかった。
後方でこちらを監視している子ども達が盛り上がっている事を。
「あ、あの変な奴、当たってる!」
「初めて見たー!凄い!」
冷一は、早くこの場を離れたいのに!とまたスポドリを押す。
「ピラリラリリーー!!」
今度は111が揃っていた。なるほど、確率変動中か。ってバカ。
「もう要らねえわ!!!」
思わず冷一が一人でツッコミを入れていると、
「すげ~……!」
と言う声が聞こえた。
振り返ると二人の子どもが当たり!!の文字を覗き込むように見ていた。
キラキラした目で。
「もう大丈夫だと思うー。アイツすげー!とか言ってたからー」
偉い!ジュース人マジ偉い!!
「ねぇ、いっぱい当たり出たんだけど、ジュース飲む?」
と聞いてみると、
「知らない人から貰っちゃダメって約束してるからいらない」
と返事が来た。
なかなかしっかりしてんな。
そして、さっきまでキラキラした目を向けていたのに、とたんに怪しい人を見る目に戻ってんな!やっちまった!
「もうっ!せっかくジュースちゃんが頑張ってくれたのにーっ!」
「はぁ、冷一ィィ」
すいませんすいません、あああ。
いたたまれない気持ちでスポドリを押す。
子ども達とアイス人、ジュース人の目線が痛い。
結局シャイダーを飲みながら、スポドリ3本を通学カバンに入れて帰路についた。
地味に重い。結露も気になる。当たったのに悲しい。
子ども達はいつのまにかいなくなっていた。頼むからすげーお兄さん認識でいて欲しい。
アイス人とジュース人は割と仲良くやっているようだ。
ただ、ジュースを飲んでいるとわかりやすくアイス人がふくれっ面になり、逆にアイスを食べているとジュース人の機嫌がなんとなく悪かったりと、ちょっと面倒なので、もっぱらクリームソーダかコンビニフラッペを選ぶようになった。
うまいからいいが、やっぱりちょっと面倒くさい。
「やっぱり、いっその事お祓いを……」
「お兄さんっ!?」
「冷一ィィ!?」
「嘘だよ。フラッペ飲みたい」
「コンビニ行きましょうっ!」
「たまにはシャイダーも買ってよねー」
今年の夏は本当に暑い。
このまま、賑やかに乗り切っていきたいと思う。
ちょっと賑やか過ぎるけど。
〘ご注意〙四ツ谷シャイダー(サイダー。炭酸飲料)は冷一お気に入りの飲み物である。宇宙刑事ではない。
お読みいただきありがとうございます。