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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第二章 魔都・動乱編

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098 五商星会議


 自由都市マラガの財政を担う五人の大商人が一堂に会していた。

 窓からは街の外に広がる青い海を水平線まで眺望でき、この部屋が最も高い塔の上層に位置していることを教えてくれる。

 壁にはこの街の歴史を動かしてきた偉大な先人たちの肖像画が多く掛けられている。

 大きな円卓の中央には種々咲き誇る見事な花々と、贅を尽くした菓子が並べられていた。

 その円卓を囲む五人の大商人の中で一番の年長者であるパーファ家の当主がまず口を開いた。


「では各々方、今月の定例会議を始めるとしようか」


 古狸族(ムジナ)であるパーファ家の本業は武器商人である。

 現在の当主ホンド・パーファが代表に就任した三十年前は西と東の大陸間で起きた、いわゆる亜人戦争の最中であった。

 その戦で莫大な利益を得たパーファ家は、その後このマラガの街を仕切る五商星の筆頭として名を連ねる事となった。


「今月は波も穏やかで、たいへん良き日々でありましたよ」


 そう発言したのは魚人族(サハギン)のテーション家当主、ゴンズイだ。

 テーション家はここマラガで最初に海運業を始めた商家で、この街が発展する基盤を築いた。

 そのためこの五商星会議においても常に大きな発言力を有していた。


「ただし、先月のこの場でも申した通り、西の大陸が少々きな臭くなっておりますな」

「カエル族とトカゲ族の連合による宣戦布告ですね」


 ニンゲンの若い女性が応じた。

 エスメラルダ古王国出身、エンジ家当主ヒガはうら若き美貌の持ち主だ。

 敬虔なサキュラ教信徒でもある彼女の主な生業は宝石商である。

 本国エスメラルダよりもさらに東方、浮遊石地帯にて採取される緑砂の結晶を北に住むドワーフ族の細工師が加工して、それをヒガ・エンジの商会がマラガから世界中に流通させている。


「左様。未だ西の辺境大陸にくすぶっておるようだが、奴らがここ、東の大陸へ来るとなれば、このマラガも戦乱は避けられぬだろう」

「そうなればパーファ家の武器がまた盛大に売れていくのでしょうね」


 でっぷりと太った自分の腹をなでながら、ホンド・パーファはゴンズイとヒガの皮肉交じりの会話に耳を傾けていた。


「街の警護団の増員と装備の新調を検討しておくべきですかな」


 そう発言したのは犬狼族(ウルフマン)のライブ家当主、シーズーだ。

 毛むくじゃらで、ずんぐりとした体躯の持ち主だが、目元がとても愛くるしい。

 ライブ家は主に飲食業で財を成している。

 マラガ周辺の食糧生産、流通の最大手だ。


「トカゲやカエル共に大軍を送り出す船があるかね? 三十年前の亜人戦争とて、戦場はほとんどが西の大陸であった」

「左様。このマラガの街が戦場となることはありますまい」

「万一その兆候が現れたとしたら、それから傭兵の募集をかけても十分であろう」

「戦もないのに平時から無駄な食い扶持を囲うこともないですからな」


 実に商人らしいホンドとゴンズイのコスト重視の意見をもって、警護団増員の件は終了かと思われた。


「しばし待たれよ。戦争とは別に警護団の増員については検討していただきたいのですがね」


 そう発言したのは五商星最後のひとり、変色竜(カメレオン)族のサンロ家当主ウサンバラであった。


「どういう事ですかね、ウサンバラ殿」


 ホンドが厭世感を隠しもせずにウサンバラを睨む。

 このウサンバラを快く思っていないのはホンドだけではない。

 実は彼には隠された、しかし半ば公然の秘密とされる裏の顔があることを全員が知っていた。

 それは盗賊ギルドを仕切る幹部としてのウサンバラである。

 実態を把握しきれているわけではないが、近年この街を中心に広がりを見せている麻薬、通称バニッシュを流しているのはこのウサンバラだとされている。


「いやなに……近頃マラガへと入る街道周辺にて強盗事件が相次いでいるのはご存知でしょうか?」

「遺憾ではあるが、今に始まったことではあるまい」

「いやいや、今回はなにか裏がありそうでしてね。特定の商品のみが連続して強奪されているのですよ」

「なにかね、それは?」

「わたくしの口からはなんとも。ただ、わたくしも近々大事な取引のため隊商を呼び寄せていましてね。安心を得たいのですよ」


 薄ら笑いを浮かべながらお茶をすすりだすウサンバラに周囲は沈黙した。

 このカメレオン族が盗賊ギルドの幹部であることは全員が知っていた。

 だがそれを表だって言及したことは実は一度もない。

 なぜならこの街で政治力を発揮するのに唯一必要なものは金だけだからだ。

 合法か非合法か、それよりも問われるのはより多くの金をこの街に流通させたのかどうかだ。

 商人の街だけに財を呼び寄せる者だけがモノを言えるのである。

 みな苦々しく思いながらも現状はウサンバラを通じ、盗賊ギルドの干渉を受けざるを得なかった。

 この街は実質、盗賊ギルドが一番力を有しているのだ。


「ウサンバラ殿の言う強盗とは奴隷解放戦士、と名乗る者の事でしょうか?」

「そのように名乗っているのですか? さすがヒガ・エンジ。わたくしはそこまでは知りませんでした」


 ヒガの指摘にウサンバラは少々大げさなリアクションで答えた。

 だがヒガの発言にホンドの片眉が吊り上がる。


「奴隷? では奪われた商品とは奴隷のことか」

「狙われたのは奴隷商人なのですね。しかしそれほど多くの報告は私は聞いてませんな」

「わたくしもです。奴隷にも様々あるが、それが連続して襲われているとなればもう少し騒ぎになってもおかしくはないですのう」


 ホンドに続いてゴンズイ、シーズーの口ぶりから三人はこの事件そのものが初耳であったようだ。


「ともかく、街道の警備に人員を割いていただきたいものですな」


 ウサンバラにせっつかれては簡単に拒否はできない。

 ホンドは渋々ながらも了承せざるをえなかった。


「わかった。そのように手配しよう。他に何かあるかね?」

「わたくしからは特に」

「では今日はここまでとして……」

「ちょっと待っていただけますか」


 閉会を告げようとしたホンドを遮ったのはのゴンズイだった。


「ちょっとお耳に入れておきたい報告がございまして……」



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