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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第二章 魔都・動乱編

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086 エルフはどこだ?

挿絵(By みてみん)


 エスメラルダの王都エンシェントリーフ、その中心にそびえる法王の宮殿がざわついていた。

 その日、早朝から執務室にこもり、各地域の予算計上に関する書類に目を通していたライシカだったが、慌ただしく駆け込んできた若い侍従によってその作業は止められた。


「なんですか、騒々しい。いかなる時も粛々と、平常心を保ちなさいと言っているでしょう」

「も、申し訳ありません、ライシカ様。ですが、その、ナナ様が、近衛兵団と共に、帰還いたしまして……」

「二日前の深夜に城を飛び出したのは知ってます。そうですか、ようやく戻ってきましたか。それで?」

「た、ただいま謁見の間にて、おひとりでお見えになっておりまして……」


 ようやく書類から顔を上げたライシカは侍従の顔を見た。

 ひどく汗をかきながら、しどろもどろと言った体で、まるで落ち着きがない。


「ひとり、と言いましたか?」

「は、はい。さ、左様でございます。ナナ様おひとりでございます。近衛兵は宿舎へと……」


 最後まで聞かず、ライシカは椅子から立ち上がった。


「すぐに向かいます」

「は、はい!」


 侍従はようやくお役御免とばかりに、急いで部屋を出て行った。

 ドアが閉まるのを見てからライシカの頬が緩む。


「ひとり、ね。どうやらハナイは無事では済まなかったようね。ふふふ」


 クローゼットを開けて、謁見用にマントを取出し羽織る。

 姿見で身だしなみのチェックをしながら、しかしあの侍従の慌てようにいささか疑問を覚えていた。

 その答えは謁見の間へ入った瞬間に察することとなる。


 ライシカは法王の御前たる謁見の間の空気がひどく重たいことに気が付いた。

 予想通りにハナイが戻らなかったことで気落ちしているのかと思ったのだが、そうではなくピリピリと殺気立っているのだ。

 銀姫は無礼にも法王を前に膝を着かず立っていた。

 背後から見て、無気力そうにその場にただ立ちつくしていた。

 ひどく憔悴しているのがわかる。

 おそらく激しい戦闘があったのだろう。

 そのために軽い興奮状態を引きずっているのかもしれない。

 先に集まった廷臣たちは皆、極力距離を開けようとして壁際に居並んでいた。

 ライシカの入場で幾分、廷臣たちの空気に安堵が加わったようでもある。


「遅れて申し訳ありません、法王猊下。なにぶん仕事が立て込んでおりまして」


 法王サトゥエは何も言わず、ただナナの様子に目配せした。

 それを合図にライシカはナナへの詰問を開始した。


「銀姫殿。此度の無断での出陣、いかように取り繕うおつもりか」

「取り繕う?」


 力なくナナが問い返した。

 その声は小さく、耳を立てねば聞き取りずらいほどだ。


「左様。そなたにも言い分はあるであろう。発言を許可しますよ」

「……特に何も」


 目に光がなく、声はますます小さかった。


「罪を認めるというのですか。全面的に?」

「そんなことより、ここにエルフはいないのか?」

「エルフ?」


 ライシカも徐々に不安を覚え始めていた。

 姫神だ、銀姫だ、とはやし立てられ、その気になっていたあの小娘が、どうも何かが違う。

 諦観というか、殺伐とした殺気のようなものを纏っている。

 そして非情な違和感も覚えていた。


「つけ上がるではない! 今はエルフの話などしていなッ……」


 激高した廷臣のひとりがライシカとナナの会話に割って入ったのだが、すぐに口をつぐんでしまった。

 ナナの背中から銀色の長い柄が伸びていた。

 その先が大きなハサミの形をしていた。

 交差した二枚の刃が廷臣の首を両側から挟んだ位置で止まっている。

 周囲から悲鳴が上がり、廷臣は青ざめた顔で固まっていた。


「私はエルフの話以外どうでもいい。奴らを一匹も残さずこの世界から駆逐するのだ」


 その時になってようやくライシカは違和感の元に気がついた。

 銀姫が平時のスタイルではないのだ。

 話に聞く姫神の戦闘スタイルのまま、この謁見の間にいた。

 普段から全身を銀の甲冑に包んでいたので、先入観からそう思い込んでしまった。

 ただならぬ雰囲気がそこまで観察する余裕を失わせていたようだ。

 ライシカはほぞをかんだ。

 今の銀姫は全身を銀色のスーツに身を固め、あろうことか手にはクリスタルに輝く剣を捧げ持ったままだ。

 奇妙に背中から伸びた大きなハサミは依然廷臣たちを震え上がらせている。


「そこまでになさい、銀姫殿! ここにエルフはおりません」


 そう注意したライシカの声も少し上ずっていた。

 会話の方向を誤れば、この小娘は暴走するだろう。

 憐れな廷臣の首筋から、銀色の刃が離れ、ナナの背中に消えていった。

 その際、眼光鋭いナナに射すくめられた廷臣は腰を抜かして倒れこんでしまった。


「ならばもう、ここに用はない」

「お待ちなさい」


 背を向けて退室しようとするナナをライシカが呼び止めた。


「そなたがハナイ司教を敬愛し、必死に救出しようと試みたことは罪ではない。だから少し、落ち着きなさい」


 ライシカにとっても銀姫は重要なコマのひとつなのだ。

 姫神などという伝説を頭から信じていたわけではないが、利用できるうちは利用するべきだ。

 手懐けておいて損はない。

 そのためにもこの小娘の琴線に触れる必要があった。

 

「ハナイ司教が愛したこの国を、守れるのはそなただけではないか」

「ハナイ様が」


 予想通り、今の表現は効いたようだ。

 ナナの足が止まった。

 背中越しからでも嗚咽をこらえているのがわかる。


「エルフの掃討もいいでしょう。ですがこの国は他にも危険と隣り合わせなのです。ハナイ司教の事は胸を詰まらせますが、そなたなら遺志を継ぐことができましょう」

「…………」


 ナナは何も答えずに謁見の間を出て行った。

 廷臣たちは胸をなでおろしライシカの元へ集まった。


「よろしいのですか、大司教殿。あの者、危険では?」

「だいぶ精神を病んでいたようです。よほどつらい目におうたのでしょうが」

「そのうち我が国に対し牙をむくようなことも、ありはしませぬか?」


 口々に廷臣たちの意見が飛び交いだす。


「静粛に。我らはサキュラの慈悲の下にいるのです」


 ライシカの声で一同が静まる。


「みなさんの心配はもっともです。ですが年端もいかぬ娘のこと。我らでうまくコントロールしてやればよい」


 皆が周囲の者と顔を見合わせる。

 まだ困惑がぬぐい切れていないようだ。

 仕方なくライシカは別の案件をこの場で披露して皆の気を逸らすことにした。

 どうせ一両日中に報告する予定であったのだ。


「みなさんに私から報告があります。あの者らをここへ」


 ライシカに呼ばれて二人の人物が謁見の間に入ってきた。

 二人とも同じデザインの旅人帽(トラベラーズハット)にマントを着用しているが、色は白と黒で別々だ。

 その帽子の下から現れた顔はヒトではなく、鳥である。


鳥人族(バードマン)ではないですか」

「亜人が、我が国に?」


 にわかにざわつきだす。

 エスメラルダは人口のほとんどが人間であり、亜人自体が珍しいのだ。


「左様。西の大陸北方を領土とするクァックジャードの方々です」

「はじめまして。私はナキ。こちらはコクマル。調停の要請を受け、はるばるこの東の大陸までまかり越しました」

「ふん」


 丁寧なナキに対して、コクマルは慇懃無礼であった。

 それには触れずライシカが続ける。


「亜人戦争はすでに三十年も昔のこと。亜人と人間の(いさか)いも今は昔。それよりも成すべきことがありましょう」

「そ、それは?」


 ライシカはひとつ頷くと、力強く宣言した。


「かねてより、未知の脅威とされてきた南のアーカム大魔境。そこへ送る使者として、この方たちを呼び寄せました」


 一斉に場内がざわつきだした。

 数多くの魔物がひしめき、また藍姫と呼ばれる正体不明の姫神が降臨したと噂される魔境へ調停者を送り込む。

 それはすなわち不戦条約を結ぶということ。

 微妙なパワーバランスを崩しに出たライシカの野望を誰も正確に推察することはできずにいた。


2025年9月23日 挿絵を挿入しました。

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