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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第二章 魔都・動乱編

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084 喪失


 それからの日々はあっという間だった。

 姫神として覚醒した私は、すぐさま王国の誇る〈翡翠(ひすい)の星騎士団〉に所属することになった。

 記憶が曖昧なままの私は人々に必要とされ、感謝されることに充足感を得ていた。

 エルフによる人さらいは度々発生し、また国外には危険な魔物や地域が多くあることも知った。

 なかでも気になったのは東の浮遊石地帯にいるらしい金姫と、南の魔境に潜むという藍姫という二人の姫神に関してであった。

 状況から見て、自分と同じように別の世界から迷い込み、辛い思いをしているかもしれないと思った。

 幸運にも私はハナイ様という崇高で慈愛に満ちたお方に拾われ、ここまでなに不自由なく時を過ごせた。

 姫神は争い合うなどとも聞かされたが、必ずしも歴史は繰り返すものではないはず。

 どうにかしてその者達と会いたいと思った。

 そんな折だった。

 騎士団長にまで上り詰めていた私の下に新しい情報が入ったのだ。


 亜人ばかりの住まう西の辺境大陸(ノーマンズランド)で、異常な白い閃光と黒い渦、赤い爆炎が目撃されたという。

 私の焦燥は日々増すばかりだった。


 姫神とはなんなのか。

 私たちは出会えば戦うしかないのだろうか。

 その答えを知りたかった。

 その備えが欲しかった。


 そんな私に助言をしてくださったのは、意外にも大司教のライシカ様だった。

 ライシカ様はこの国の、政治の大部分を担っている尊いお方ではあるが、どこか私やハナイ様への人当たりが強いと感じることが多かった。

 おそらく異邦人である私の振る舞いに、いささか至らない部分があったのだろう。

 そう思っていただけに私の力となる助言を与えてくださったのには驚きを隠せなかった。


「偉大なる年代史家エンメという者をご存知か?」


 知らない名だった。


「その者は人間らしくないほどの長い時を生きており、千里眼を用いてこの世界のあらゆる事象を書き留めているという」

「姫神に関してもですか?」

「エンメ以上の智慧(ちえ)ある者を私は知らぬ。彼に知らぬことはないであろう」

「どこにいるのです? その者は」

「エスメラルダにおる」


 私はその日のうちにエンメの塔へと赴く事にした。

 他の姫神の事を把握できれば、この国の安全を守ることも容易くなる。

 ハナイ様の居るこの国を、ハナイ様の信じる未来を、ハナイ様の喜ばれるお姿を、私は守って見せるのだ。


 そして、私が留守の間に、ハナイ様のオールドベリル大聖堂がエルフに襲撃されたのだった。






 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 ──地上へと落下しながら、私はなぜかこの数か月の事を思い出していた。

 ひどく、ゆっくりと落ちているのだな、と妙な感想まで抱いていた。

 どんどん遠ざかるハナイ様の姿。

 やがて私は、地面に落ちた。


 ハナイの体は柱状と化したクリスタルに覆われ完全に固まっていた。

 クリスタルの中で輝く裸身と流れ出た鮮血が、皮肉にも美を際立たせ、完璧なオブジェとして完成されていた。

 静かに目を閉じたハナイはピクリとも動かない。

 マユミはそっと、クリスタルに触れてみる。

 冷たい。

 生きているのか、死んでいるのか、わからない。

 マユミはとても悲しかった。

 さっきまでの底知れぬ闘争心が嘘のように消えていた。

 五本に分かれた鞭がハナイを内包したクリスタルに巻きつくと、まるで重さを感じさせずに巨大なオブジェを持ち上げた。

 そしてその場を立ち去った。


 マユミが閉じ込められていた部屋で倒れていたスガーラが目を覚ました。

 周囲に人の気配はなく、里での戦闘音ももはや聞こえてこない。

 女王の一撃を受けて痛む胸を抑えながら、何とか立ち上がると、破壊された壁から外を眺める。

 壁の外には頭を吹き飛ばされた巨人エントの残骸が横たわっている。

 そばにはこれも破壊された檻と不気味な虫の死骸。


「ハナイ様は何処へ……」


 あたりを見渡したスガーラは、そこで地上に横たわるナナの姿に気がついた。


「ナナ様ッ」


 ぐったりとしたまま動かないナナの元へ、エントの残骸を伝い降りていく。

 ナナは意識があるが茫然自失としていた。


「ナナ様、ナナ様!」


 大きな怪我がないことを確認しつつ、ナナ助け起こそうとした。

 ナナは自分の手を見つめていた。

 開いたり閉じたりを繰り返していた。


「……ている」

「はい?」

「……のこって、いる」

「なにがですか」


 ナナの両目から涙が溢れだした。

 ナナの両手にはハナイの身体を両断した感覚が確かに残っていたのだ。

 それはとても消えそうにない。


「ナナ様……」

「帰ろう……スガーラ」


 ナナに敗北感や屈辱感はなかった。

 あるのはただ、深い深い、喪失感のみだった。


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