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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第二章 魔都・動乱編

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079 スガーラ潜入

挿絵(By みてみん)


 集落の外から激しい戦闘音が聞こえてくる。

 エルフの大半が駆り出されたらしく、集落の中は静けさが漂っていた。

 ひとり潜入に成功したスガーラは、ほどなくしてさらわれたハナイの侍従たちを発見した。

 彼女らが閉じ込められた小屋の見張り番はさしたる腕前とは言えず、スガーラの剣が永遠の眠りにつかせた。


「スガーラ様!」

「シッ! 声を立てずに」


 周囲を警戒しつつスガーラは見張り番から奪った鍵で小屋の中へと入りこんだ。


「助けに来ました。みんな無事ですね?」


 見たところ全員ケガ等はなさそうだった。


「ハナイ様が集落の中心にある巨大な樹に連れていかれたのです」

「わたくしどもよりハナイ様を」

「どうかハナイ様を」


 スガーラは迷った。

 自分なしの侍従たちだけでこの場を脱出できるだろうかと。


「スガーラ様」


 察した侍従が毅然とした態度で言葉を紡ぐ。


「大丈夫です。わたくしどもの事は気にせず、どうかハナイ様を……」

「お願いします。あの方はこれからのエスメラルダに必要な方」

「スガーラ様、どうか」


 スガーラは侍従たちの覚悟に感じ入った。

 彼女らのことは心配だが、ハナイが最重要人物であることも確かだ。

 スガーラは感情より、理屈で判断することにした。


「わかりました。今この集落の中は手薄です。少々危険ですが、無事を祈ります」

「スガーラ様も。サキュラ神のご加護のあらんことを」


 小屋を出ようとするスガーラに、侍従があわてて声をかけた。


「それとスガーラ様、ここへ来る途中女性がひとり、共にさらわれてきました。その方もハナイ様と一緒に巨大樹へ」



 スガーラはコクンと頷くと外を確かめ滑るように小屋を出た。

 そのまま素早く物陰を伝い集落の中心である居大樹を目指す。

 直後、大音響と地響きが起きた。

 振り向いたスガーラの視界に人型に動く巨大な木が倒れていた。

 その巨木の下敷きとなり、今しがた出てきたはずの小屋が倒壊していた。


「あ……」


 一瞬強く目を瞑り、哀悼を捧げると、スガーラはそれ以上振り返らず、集落の中心を目指した。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 大きな揺れが起きた。


「まただ……」


 マユミはひとり、部屋の中で不安を覚えていた。

 エルフの里の中心、見たこともないほど大きな木の中にあるその部屋へと通されてからだいぶ経つ。

 室内の壁や床は当然木製なのだが、薄紫色のカーペットが敷かれ、その上に簡易的なベッドとテーブルがあった。

 家具と呼べるものはそれぐらいで、他に装飾の類もない。

 窓すらないのだ。

 窓すらないので外の状況もわからない。

 明かりはテーブルの上に置かれたランプがひとつ、煌々と光を放っていた。

 ドアには外からカギがかけられ、勝手に出ていくこともできず、あきらめてマユミはベッドに腰かけ揺れる部屋の壁を見続けていた。

 ふと、手首に巻いた腕時計を見る。

 時計の針は止まっている。

 森で目が覚めた時からずっと動いていなかった。


「たぶんだけど、私が思うにココは日本じゃないんだよ」


 答えなど返ってくるはずもない。

 それでもマユミは耳をそばだてた。



 ズズズッンンンッッッ



「まただッ!」


 今度は今までで一番大きな地響きだった。

 かすかに外から人々の喧騒まで聴こえてきた気がする。



 ガチャガチャッ!



「ッ!」


 不意にドアから音がした。

 マユミが驚いてドアを注視していると、乱暴な擦過音はやがてゆっくりとドアノブを回転する音へと変わり、そっと開いた扉からひとりの女が入ってきた。

 警戒しつつ、慎重に中を改めると女は静かにドアを閉じた。

 剣を鞘に納め、安心させようと両の手のひらを見せて立ち止まる。


「あなたが共にさらわれてきたという人ですね。ハナイ様は何処ですか?」


 入ってきた女はスガーラだった。


「え? あの……」

「どうやらハナイ様はここではないようですね」


 他の部屋にリンクしている扉や通路がないと確認したスガーラの表情は、落胆の色を隠さなかった。

 そしてまた迷ってしまった。 

 ハナイの探索はもちろん続けるつもりだが、目の前のこの女性を連れていくべきか……。

 確実に足手まといとなるうえに、どうしても危険な目に遭ってしまうだろう。

 だがついさっき、自主避難を促した侍従たちがどうなったか。

 彼女らは無残にも救われなかったのだ。

 そして今度は一般人である。

 見捨てることは慈愛の女神サキュラの教えにも背くことになるではないか。

 スガーラも軍人である前にエスメラルダの国の人間である。

 多くのエスメラルダの人々がそうであるように、彼女もまた敬虔なサキュラ教信者であった。


「ここを脱出します。私について来てください」

「え、そんなに危険なんですか、いま?」


 状況が全く分からないマユミにはピンと来なかった。

 そもそも誰を信じるべきかも定かではない。

 ここがどこであるかも知らないのだ。


「何があったんです? さっきから地響きもするけど、これって地震ですよね? 震源地はどこですか」

「は?」


 今度はスガーラがキョトンとした。

 エルフにさらわれた人間のとる態度とは思えなかった。

 エルフがさらったエスメラルダの人々を奴隷として国外に売り飛ばし、不穏な活動の資金を調達しているという話すら知らないのだろうか。

 エスメラルダの人ならそんなはずはないのだ。


(異国人か?)


 そう言えば服装などもエスメラルダの雰囲気とはかなり違って見えた。


「あなた、何処からさらわれてきたのです?」

「私は……」


 マユミが答えようとした時だった。

 突如として部屋の壁が外から破壊されたのだ。


2020年12月5日 挿絵を追加しました

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