743 シオリの行方、アカメの行方
「ゴルゴダへ行ったのか! そこでオーヤとズァがいた……」
アカメが体験したという戦いの話を聞いて、ウシツノは途方もない思いに捕らわれてしまった。
自分の旅を修行の旅と思っていたが、規模で言えばアカメの方がよっぽど大きな戦いをしていたのではなかろうか。
「ゴルゴダ行は突発的なことだったらしいですよ。だから準備もままならなかったって言ってました」
「それで、それ以来シオリ殿はカレドニアに戻らなかったんだな?」
「そうなんです」
「アカメ様はシャマン様たちと共に地上へ生還された後、おひとりで戻られました」
アリスとクリスが交互に事情を説明する。
「それでずっと考案していた諜報組織を創設したんですよ」
「それが〈PUCK〉です」
「パック……」
メンバーは様々な能力を持った者をスカウトしたそうだが、全体を把握している者はごく僅からしい。
アリスとクリス(という名で呼び合っているがもちろん本名ではない。精霊に個人名を呼び合う習慣もない)、それにキボシ様も能力と知恵を買われたのだが、そもそも本人たちも乗り気であったため、こうして前線にまで出張っているそうだ。
「シャマンたちも大会に参加していた。後でどうにか話を聞きたいところだ」
そうは思うが大闘技会開催中は不正を疑われないためにも、選手同士や一般人との会合はなるべく避けるようにとのお達しがあった。
「でもどうして君たちまで大会に参加しているんだ?」
「それです! ここからが本題なんですよ」
今までは前哨戦だったのか、とウシツノは軽いめまいを覚えた。
「シオリ様がいま、この街にいるはずなんです」
「なんだって!」
めまいも忘れる情報だった。
シオリまでもがこの街にいる。
とりあえず無事なのかと気になった。
「しゃべるフクロウを連れた癒し手の少女、という噂を聞いたことはありますか?」
「しゃべるフクロウ? いや、ない」
「辺境ではこの数ヶ月、結構な話題になっていたんですけど」
闘技場で戦いに明け暮れていたため、外界の噂話にめっきり疎くなっていた。
というよりバンと離れ離れになってからより一層、世俗に疎くなったと言える。
「その少女こそがシオリ様だろうとアカメ様はお考えになりまして」
「そこでわたくしたちが足取りを追ったのですが、ピエトローシュ山の辺りで見失ってしまったのです」
その山がどこにあるのかもウシツノにはわからなかった。
「ただ直前、シオリ様には同行者がいました。しゃべるフクロウとしゃべる灰猫、そして炎を操るカエル族の若者です」
「アマンかッ」
「おそらく」
アマンも大会に参加していた。
チームメイトはフクロウと灰猫だった。
「だからシオリ殿も一緒かもしれないってことか。ならアマンにすぐ会って……」
「ところがそのアマン様が滞在している場所がわからないんです」
「え? どこかの宿屋か、ああそういえば選手には宿舎が割り当てられていたっけ」
「なのでわたくしたちも選手として潜入を試みたのですが、いませんでした」
アリスとクリスがそろって残念そうな顔をする。
「報告は以上です。目下、わたくしたちはシオリ様の行方を全力で探している次第なんですよ」
「アカメはどうしてるんだ?」
アリスとクリスの残念そうな顔がより一層深みを増した。
「それなんですが、おかしいんです」
「もうとっくにこの街にまで来ていていいはずなのに、いまだに到着なさらないんです」
「妖精女王からもハイランドからの貴賓として招待を受けてるんですよ」
アカメに関しては三人ともなんの情報もないらしく、心から不安そうだった。
「何か事故にでも巻き込まれたのではないかしら」
「連絡は取れないのか?」
「アカメ様には常に通信兼護衛としてメンバーがひとりついています」
「風使いの少年でウェイフェオンっていうんです」
「その彼からの定時連絡も途絶えています」
「直前の報告だとドワーフ族による最新鋭の飛空艇に乗っていくって言ってたんですよぉ」
「ひ、飛空艇……」
それはいったい何なのだろうか。
「アカメ様の心配はありますが、わたくしたちはシオリ様の捜索を続行することにしています」
「そうか……わかった」
「ウシツノ様」
「え?」
「お気を付けください。この大会、何か裏で企んでいる者がいます。それも複数」
それはウシツノも漠然と抱えていた想いだった。
「多くの思惑が複雑に絡み合っているようです。わたくしたち精霊は人々の感情をよりダイレクトに傍受しますので、そう確信できるのです。敵は多くあります。どうか、ご自分の道を見失わぬよう」
アリスとクリスの前にそれまで黙っていたキボシ様が進み出た。
「ウシツノや」
「はい」
「そなたは難しく考えることはない。勝利することだけを目指すといい」
「ですが……」
「ハイランドの剣聖を敵に回しては厄介。そう世界に知らしめることが、シオリ嬢ちゃんやアカメや多くのそなたの想い人を守ることに繋がるじゃろう」
それはこの街でウシツノがリオを保護していることと同じことだった。
確かに剣を振るうのが自分にできる唯一だ。
「わかりました。何かあれば言ってください。この剣を存分に役立てて見せます」
「頼みましたぞ」
キボシたち三人を見送ってから、ウシツノも試合会場に戻ることにした。
「もういいぞ」
その前に隅の暗がりに声を掛ける。
息をのむ気配がして、バツの悪そうな顔をしたダーナがウシツノの前に現れた。
「気付いていたのですね、すみません」
「いいさ。心配してくれてたんだろ。まあ、こういう事情らしいけど、しばらくは大会に専念するさ」
おそらくキボシ様たちもダーナの存在には気付いていた。
そのことに触れなかったのは、彼女を敵とみなさなかったからだ。
精霊はヒトよりもずっと感情を読み取る感受性が強い。
ウシツノを思いやるダーナの心に偽りがない証拠だろう。
なのでウシツノもダーナを全面的に信用することにしたし、全力で大会に臨む決心もした。
試合場はAブロック一回戦第三試合の真っ只中だった。
試合を観戦していたアナトリアはウシツノたちの姿を認めると試合を指差し一言、
「不思議な少年だ」
と言った。




