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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第八章 王者・無双編

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742 双美姫の正体


「ちょっと行ってくる」

「大丈夫なのですか!」


 ひとりで行こうとするウシツノをダーナは不安そうに見つめた。

 ホブゴブリンチームを下した白髪の老騎士グッド・ロウから話がしたいと呼び出された。

 ただしウシツノひとりだけだ。

 当然ダーナは危険だと止めようとした。


「大丈夫だよ。大闘技会に出場している間の私闘は禁じられているんだし」

「それはそうですが……」


 とはいえウシツノが「では行かない」などと言うはずもなく。

 ダーナは黙って見送るしかなかった。

 ウシツノは会場裏手の巨大な倉庫を訪れた。

 会場設営に必要な資材などが山積みにされてはいるが、大会が始まってからはあまり人影のない場所となっていた。


「よう来なさった」


 先に老騎士と双子の姫騎士が待っていた。


「次の対戦相手の呼び出しに怖気ずくことなく現れるとは。あの者がこの場に居たら、さぞそなたをなじった事であろうな」

「あの者?」


 老騎士が誰のことを指しているのか、ウシツノにはわからなかった。


「お久しぶりです! ウシツノ様」

「ご無沙汰しております」


 双子はにこやかに挨拶をしてきた。

 そこに敵意など微塵も感じられない。

 今もってウシツノは彼女らに覚えがなく戸惑いを隠せずにいた。


「その、君たちはエルフ族なのか?」


 ウシツノは尋ねた。


「あら、ウシツノ様はエルフ族とお知り合いなのですか?」

「いいや。オレにエルフ族の知り合いはいないよ」

「ではわたくしたちはエルフ族ではありません」

「でも君たちはエレメンタルアーツを使っていたのではないのか? あれはエルフの戦法じゃないか」


 アナトリアの受け売りだがウシツノはそう詰問した。


「いいえ。わたくしたちはエレメンタルアーツなるものを存じ上げませんわ」


 クリスはキッパリとそう断言した。

 確かに、アナトリアは「似ている」と言っただけで、彼女たちの戦法をそうだと断定したわけではなかった。


「その、申し訳ないんだが、オレには君たちが誰なのか、わからないんだ」

「えーッ! ひどぉい! ウシツノ様ったら女の子のことスグ忘れちゃうタイプなのぉ?」

「あ、いやっ……そんなつもりは」


 必死に記憶を探ったウシツノだが、結局彼女らのことはわからずじまいだった。


「じゃあこれを見れば思い出してくれますよね! じゃん! お弁当箱です。わたしが作りました」


 アリスの方が小さめの弁当箱を取り出すとウシツノに押し付けた。

 受け取るか迷ったが、別に食べる必要はないと思い手を出すと、アリスはニヤニヤしながら弁当箱のふたを開けた。


「な、なんだこれ?」


 ウシツノは驚いた。

 中身はきれいに並べられた草が入っていただけだった。


「食べてください」

「え! いや……って、ゲコォ」


 躊躇したウシツノの口にアリスは無理やり草を詰め込んでやった。


「どうですか? 味、しませんよね? 思い出しましたか?」

「グェ……これ、海草か? ん、もしかして……」


 ウシツノがアリスを見ると彼女はにんまりとほほ笑んだ。

 途端に顔が半透明の青色になる。


「ウンディーネ! 君、もしかして水仙郷にいたあの……」

「そうですよ、ウシツノ様! 毎日私の盛りつけた海草サラダを食べてくれてましたよね」

「すると君も?」


 アリスだけでなくクリスもまた肌が水へと変化していった。

 双子の姫騎士は水精だったのだ。

 だからホブスラストの打撃を受けても精神世界の住人である彼女らにダメージを与えられなかったのだ。


「わたくしは獣神ガトゥリンとの戦いの際、グランド・ケイマン様に従軍したウンディーネです」

「そうだったのか!」


 ホブメンを斬った剣を見せてもらうと、刃の部分が薄い水の膜でできていた。

 精霊力を込めると必殺の際にとんでもない切れ味を発揮するらしい。


「武具ではなく水精の術技(マギ)なんですけれども。ハイドロスラッシャーと呼びます」

「じゃあオレには使えないんだな。残念」


 一瞬、武器オタクな一面が顔をのぞかせたが、マギとあっては専門外だ。


「でも、それじゃあそちらの御仁は?」

「ふぉっふぉ! まだ気付かぬのか、わしじゃよ」


 突然老騎士の首が長く伸びたかと思うと頭部だけが巨大な亀のそれになった。

 年老いてはいるが知性をたたえた眼差しを忘れるわけがない。


「まさか! キボシ様ァ? 何故あなたまでがこのような」

「ふぁふぁふぁ。今のわしらはアカメ直属の諜報組織〈PUCK(パック)〉の一員じゃよ。シーカーとして各国の情報を収集するのが役目なんじゃ」

「ありていに言えばスパイ活動でございますが」

「スパイだって! にしてもキボシ様までどうして」


 キボシは一万年近く生きている巨大種族、霊亀族トルトゥーガの老翁だ。

 三人とも指輪の魔道具を用いて人間の姿に変身しているらしい。

 といっても正体が巨大な亀であるキボシ様はその指輪を奥歯に嵌めているそうだが。

 あらかじめ設定した姿に変身できる指輪でイマジナリーリングというレアアイテムらしい。


「覚えていますか? ハイランドの王位継承を騙ったゼイムス王子。実は彼は盗賊都市マラガの盗賊ギルドに所属していましたが、ハイランドには魔道商人と偽っていました。彼の遺品からいくつも魔道具が出てきまして、アカメ様が接収されたのです」

「その中のひとつがこのイマジナリーリングなんですよ」


 確かハクニーも姿を変える指輪を使っていたが、あれは一度使用すると着脱不可なうえ、身体の一部しか変形できなかった。

 彼女らが使う指輪はもう少しランクが上の物なのかもしれない。


「まっこと、この齢になってこれほど自由に世界中を出歩けようとは愉快愉快じゃて」


 大笑いするキボシ様を見て、確かにあの図体では旅はしんどいものだったろうなとウシツノも思った。


「ところでウシツノ様、わざわざわたくしたちが正体を明かした理由なのですが」

「まさか二回戦でウシツノ様のチームと当たるとは思ってなくて、それで早々に事情を打ち明けようと思ったんです」

「事情?」


 アリスとクリスが一転、神妙な面持ちになる。


「わたくしたちはある任務を請け負ています。それはシオリ様の安否を確認し保護することです」

「安否? 保護だって! ちょっと待ってくれ。シオリ殿はカレドニアにいるんじゃないのか?」


 シオリは平穏を取り戻したハイランドの首都カレドニアで穏やかに過ごしていられる。

 そう思ったからこそウシツノは旅に出る決心がついたのだ。


「実は……」


 ウシツノがカレドニアを出立して以来の出来事はまさに寝耳に水だった。

 それをこんなタイミングで聞かされることになろうとは。


「アカメのヤツ……」


 これ以上にないほどの渋面となっても仕方あるまい。


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