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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第八章 王者・無双編

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710/721

710 それぞれが抱える理由


「なんだ貴様は!」


 女たちは突然の闖入者に驚き、そして怒った。

 このような場所で、このような状況に首を突っ込むとはイカレている。

 しかし男の姿、格好を見て落ち着きを取り戻した。

 見るからにぼろを着た浮浪者である。


「このような場所ですし、ここに見合う者が住み着いていてもおかしくはありませんね」

「隅でうずくまっていればいいものを。出てきたこと後悔するなよ」


 ハニーが手にした装置を向けるとメインクーンを撃ったのと同じ光線が男に向けて発射された。

 男は剣先を地面に向けて縦に構え、片手は手の甲で刃の腹を支えて光線を受け流した。

 膝を落とし、腰を据えて光の奔流に立ち向かった。

 逸らされた光線は直角に天井へと向きを変え、砕かれた石の破片がパラパラと零れ落ちただけだった。

 反射神経が良いだけではなく、度胸も据わっている。

 なにより声ひとつあげずにいなすのはなんとも豪胆な性格による。


「ただの浮浪者と侮ってはだめね」

「オドントティラヌス! そいつを殺せ。飢えを満たすがいいぞ」


 先ほどはメインクーンというご馳走を取り上げられて不満だった怪物も、新たな餌の出現に驚喜したようだ。

 象よりでかい巨体を震わせて男に突進を開始した。

 角を振りたくり、その振動でメインクーンは投げ出される。

 男は少女を抱えるとヒラリと身軽に突進を躱した。

 地下水道の壁に巨獣が激突しさらなる地響きを起こしたが、天井からいくつか石の欠片が降った。


「聖獣オドントティラヌスとはな。聖なる川を清澄にするため汚物を食い尽くすと言われたが、今は使われる身か。哀れな」


 少女を突き飛ばすと男は巨獣に相対して長剣を構えた。


「ほう、お前、オドントティラヌスを知っているのか」

「かつてはわが祖国を流れる大河の主でもあった。このような場所で見るには忍びない」


 長剣を正面に向けて構えると、男は裂帛の気合をほとばしらせた。

 ビリビリとした圧が空気を一変させた。

 誘われるように巨獣は再び男へ向けて突撃する。

 牛の頭を下にして、三本のブレードのような長い角で突っ込んでくる。

 男も避けようともせずに剣を突き出し角の一本を砕いて見せた。

 左側の角を砕かれ身体が右に寄った巨獣は男の左側を走り抜けてまたしても壁に激突した。

 男は振り向きざまに剣を一閃するが怪物の下半身は固い鱗でおおわれた魚尾である。

 象のような巨体を持つ怪物の、固い鱗でおおわれた魚の尾ひれがフルスイングで男を攻撃した。

 男は大地に足を踏ん張りその一撃を受けきって見せた。

 怪物は怒り狂った咆哮を挙げて獣の腕を振りたくり、恐ろしい牙を鳴らして噛みつこうとし、残った二本の角を突き出して男を追い詰めようとした。

 女たちもその交戦を呆気に取られて見ていた。


「なんだこいつ? ティラと渡り合っているぞ」

「というよりも遊ばれてない? あいつの方が余裕ある感じに見えるよ」


 朦朧とする意識の中で地面に這いつくばりながらのメインクーンも同じ感想だった。

 この女たちの正体も不明だが、長剣を振り回すこの浮浪者の男もまた得体が知れない。

 男の剣がまたもう一本、怪物の角を斬り飛ばしてみせた。


「こんなのを相手にする必要はないわ。ハニー」

「どういうことだよマネー」

「撤退よ。ことを急く必要はないわ」

「同感だ。目撃者が増えるだけ動きにくくなる」

「ティラをこんなことで失うのもイヤよ」

「メリー。ウィリーも」


 金色のスーツを着たハニーだけは未練があるようだったが、他の三人は厳しい目でそんなハニーを見つめていた。


「わかったよ」


 ハニーは光線を天井に向けて乱射した。

 続いていた振動の結果天井の一部が崩落し轟音とともに土埃を巻き上げる。

 いくらかして埃が晴れると女たちと怪物は姿を消していた。

 メインクーンは少女と男が近寄って来るのを立ち上がれずに見ていた。


「生きているか。よかったな」


 それだけ言って背を向けて歩き去ろうとした。


「ま、待つにゃ」


 メインクーンはありったけの声を絞り出して男を呼び止めた。


「お前、誰にゃ? 何が目的……」

「助けたのは単なる気まぐれだ。気にするな。オレの目的はお前に何も関係ない」

「……そ、んなこと」

「今この街には多くの者がそれぞれの理由を抱えて集まっている。その全てがひとつに収斂するなんてことはない」


 男は歩き出した。


「オレは過去の過ちを清算するためにここにいる。お前も、あの者たちも、何も関係はないのだ」


 メインクーンはこらえ切れず、とうとう意識を失った。



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