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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第八章 王者・無双編

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709 人質


 下水から姿を現した怪物は象を超える巨体だった。

 三本の角を高々と掲げて咆哮する牛の頭部に、肉食獣の腕を振り、だが下半身は鱗に覆われた怪魚である。

 体を伝う汚水を激しく振りたくって地面に腕をかけると腕力だけで巨体を広場に乗り上げた。


「ぎゃあッ、汚いのは勘弁してェ」


 メインクーンに担がれていた未熟な少女が身をよじって暴れるので、糸を解いて地面に放り出した。

 どのみち荷物を担いで戦える相手ではなさそうだ。


「私は化け物退治は専門外なのに……」


 どこで誤ってしまったのか。

 この状況は盗賊(シーフ)として最悪の結果と言える。


「やれッ、聖獣オドントティラヌス! 殺さなければどれだけ痛めつけても構わないぞ」

「ギャオォォォッッッッッ」


 巨大な鉈を振り下ろすような腕の一撃をメインクーンと少女は横っ飛びで交わした。

 どうやら少女のすばしっこさは常人以上と見て、メインクーンは自分の行動に集中することにした。

 とはいえどう見ても凶暴な獣でしかないこの怪物を相手に手持ちの武器では心許ない。

 となれば目標はこっちではなく。


「くっ」


 桃色のスーツを着た、ウィリーと呼ばれていた女が苦悶の息を漏らした。

 突然身体を締め付けられて動けなくなったのだ。

 メインクーンの不可視の糸はとっくに拘束を完了していた。


「この化け物を下がらすにゃッ。でないと全身を輪切りにしてやる」


 メインクーンの警告とともにウィリーを縛る糸が一層きつくなった。


「おっと、ほかの奴も動くにゃッ。そのまま離れた位置にいるにゃ」

「糸使いなのか、このネコマタ。油断したな、ウィリー」

「く、嫌みを言う暇があったらどうすべきか行動しなさいよ、ハニー」

「動くにゃッ」


 桃色のウィリーにせっつかれて他の三人が動くのを押しとどめる。

 メインクーンは悟られまいと必死なのだが、彼女の糸が拘束できるのは一度にひとりだけなのだ。

 達人の域に登れば同時に複数を縛めることもできようが、彼女はまだその域にない。

 その意味で自分も未熟なんだと少女をチラリと見て自戒する。

 とにかく今はこのひとりを人質にしてこの場を離脱する。

 金色のハニーと呼ばれた女が身動ぎした。


「その場を動くなと言ったにゃッ」

「ああ、この場から動く必要はないさ」


 腰元から挙げたハニーの手に握られた奇妙な装置から一条の光線が放たれた。

 矢ではない。

 ナイフでもない。

 呪文の詠唱を要する魔法ですらない。

 握った装置に指をかけると機械的な発射音とともに光線がほとばしったのだ。


「ぎゃうッ!」


 目で見て避けれる速さではない。

 瞬間的に右肩に照射された光線は非常に熱く、肉を貫通して背中から出ていった。

 力が抜け操作していた糸がほぐれたのでウィリーは自由を取り戻しニヤッと笑った。

 メインクーンは撃たれた衝撃で三メートルほど後退し、下水道のへりから足を滑らせた

 汚水の流れに落ちると息を求めてすぐさま水上に顔を出す。

 目の前にオドントティラヌスが大口を開けて噛みつこうと待ち構えていた。


「頭は嚙み砕かないでよ! 殺しちゃったら人質にならないんだから」


 そのひと声が通じたのか、怪物は口を閉じると三本角をメインクーンに引っ掛けて頭上へ高々と持ち上げた。

 右肩をやられたメインクーンは左手で短刀を怪物のうなじに突き出すが、硬いう鱗にはじかれて刃が欠けただけだった。


「よしよし、いい子ね。ティラ」


 怪物の腕をさすってやりながらウィリーは角に引っかかって弱っているメインクーンの頬を叩いた。


「わたしを辱めてくれたお礼よ」

「これで人質を確保できたな。もうすぐ金姫の因子を手にできるぜ」

「……金姫、ミナミのこと……?」

「ハニー。うれしいのはわかるけど余計なことは言わないで」


 白いスーツの女が金色の女をたしなめた。

 どういうことだろうか。

 こいつらの真の狙いはミナミかもしれない。


「ハハッ。マネーはオレが先に因子を手にしそうで嫉妬してるんだな」

「先ほども言いましたよ。私は別に焦ってはいませんから」


 どうにも見えてこない。

 朦朧とする中で、それでもメインクーンはひとつでも情報を仕入れようと意識を保ち続けた。


「それに話したって誰も聞いちゃいないさ。あ、と、あそこでチビが震えてるな」


 女たちが見た先に、隅で縮こまって怯えている未熟な少女がいた。


「誰だか知らないけど、まあ後で面倒にならないように始末しておきましょう。お願いね、メリー」

「ふん」


 白い女、マネーという女に言われ、メリーと呼ばれた銀色のスーツの女が少女に近寄った。


「わ、わ、わぁっ! 来ないで! やめてお願い許して」

「あきらめな、お嬢ちゃん」


 メリーの手刀が突き出された。

 硬い金属のぶつかり合う音が響いて全員が目を見開き驚いた。

 メリーは繰り出した手刀を引いて距離を開けていた。

 少女の前にひとりの人物が立ちふさがっていた。


「だから忠告したろうに。尾けられているぞ、と」


 そこに立っていたのは全身を汚いぼろで覆い隠したあの浮浪者だった。

 メインクーンに忠告して姿を消した、あの男がこの場に立っていた。

 そしてメリーの手刀を防いだであろう、その男の得物は特別に目を引いた。

 長さが百八十センチはあり、柄に持ち手ともなる鍔が上下に二つも付いている特殊な剣。

 メインクーンはその剣が、ある地方でメルパッターベモーと呼ばれたものであることを知っていた。



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