704 フェアリーズカジノ
ミナミが寝込んだ翌日、メインクーンは単身街へと繰り出した。
姫神の力に隠された謎を解明する足掛かりとして、予選で目立ったあの炎のカエルことアマンの所在を改めるつもりであった。
大闘技会運営本部が用意した宿泊施設は利用していなかった。
そちらは利用資格のあるウィペットが確認済みだ。
「ウシツノに聞いたらいいんじゃない?」
レッキスの意見はもっともだったがそれも難しかった。
理由はリオが話してくれたが、大会に強制参加している剣闘士は期間中外部との接触を著しく制限されるとのことだった。
一番の理由は大会を隠れ蓑に姿をくらませることがあるためらしい。
剣闘士としての生活から逃げ出したいと思っている連中もそれなりにいる。
他にも八百長を持ちかけられるケースや、より直接的な犯罪に手を染めてしまうのを防ぐ意味もあるらしい。
「けど本当の所は他国からの観戦者も多い時期なので、内情を暴露されるのを嫌っての処置でしょうね」
リオから聞いて驚いたのが、剣闘士はみな弱毒性の薬を投与されており、一定期間内に解毒薬を飲まなければ衰弱していくという話だった。
解毒薬を得るには試合で勝つしかなく、外へ逃げても特別に調合された毒を抜く方法は知られていない。
調べるには時間と金が必要となるが、妖精女王の手の届かない地域まで逃げる時間と支払える金、その両方を持って脱走が成功する確率は極めて低い。
忘れてはならないのはアーカムは大魔境と呼ばれるほどの荒野なのである。
装備も準備も、ましてや健康なくして踏破できるエリアではないのだ。
「まあウシツノとのコンタクトはおいおい考えるとして、今接触するとすればあのカエル小僧か赤い鳥だな」
「この街にいくつ宿があると思ってるんにゃ。しらみつぶしに出来る数かにゃ」
「オレらみたいに宿屋でなく知人宅に居候してるケースもあるんだぞ」
「にゅう」
ジト目でシャマンを睨むクーンだったが、いざ探索に出るならばひとりの方が身軽でよい。
情報を得るためとはいえ、この街の盗賊ギルドは最悪の雰囲気に近かった。
出来れば関わりたくないところだが、そうも言ってられないかもしれない。
それにミナミの看病にレッキスとシャマンは残った方がいいし、ウィペットとクルペオも別行動で情報収集を任せてある。
リオとラゴを危険に巻き込むのは論外として、残ったクーンは彼女にしかできないやり方を選択するしかないだろう。
「くれぐれも気をつけろよな」
いつになく心配げに声を掛けてきたシャマンの姿が印象的だった。
「いかんにゃ。意味もなく感傷的になってるにゃ」
盗賊としての直感が自分の行動に制限を掛けそうで、今はそのアンバランスな立ち位置に揺らいでいるのだ。
まずは無難に赤い鳥を探すことにした。
鉱山都市コランダムで鳥人族は珍しいだろうし、案外すんなりと見つかるかもしれない。
メインクーンは大会に関心を持つ者が多くいそうな場所、賭け屋の中でも最大手と言われるフェアリーズカジノへと足を運んだ。
一見するとそこは表向きよくある酒場にしか見えない。
確かに店舗は大きくテラスも満席でヒトの出入りも活発だ。
だが建物は焼煉瓦を積み重ね、太い木材を梁に屋根は藁葺きである。
半地下都市でもあるこの街では決して珍しくない光景だが、看板も地味でここが最大手とは想像しにくい。
しかし一歩中に踏み込むと客の多さにたじろいだ。
酒場としては繁盛していて昼間から酔客も多い。
店の奥にはカウンターがあり、右手にはステージで踊り子たちが愛想を振りまいている。
左手側には巨大なスクリーンがあった。
ライブ配信される試合の模様をこれで観戦できるのだ。
今は何もついていない真っ白な壁に過ぎないが、こうした魔道具を大量に用意できるアーカムの財政力を意外と思わざるを得なかった。
客の間をすり抜けながら会話に耳をそばだてるが、仕事のボヤキや口説き文句よりも大闘技会の話題が多かった。
そうでなくては来た甲斐がないのだ。
さて人の流れを観察すると一定数がカウンター横の階段を地下へと降りていく。
人相風体は様々で、特に誰かが咎められる様子もないことからメインクーンも地下へと降りてみることにした。




