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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第八章 王者・無双編

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701 闇の力、恐怖の力


 ダッシュからの超加速。


 全身に炎をまとったアマンは倒れたクラーケンの口へと飛び込もうとした。

 されどのたうち回るクラーケンの手足が行く手を阻む。


「拒むなら逆に引き寄せられればいい」


 ニヤリとした笑いを見せるとアマンの炎が黒く変色し始めた。

 赤々と燃えていた身の回りが黒い熱気をほとばしらせる。


「む」


 タイランは知らず、地面に着いた足元がアマンへ向けて摺った違和感を覚えた。


「黒い炎は闇の炎」


 タイランのそばに灰猫のジャックと、その背にフクロウが一羽舞い降りた。

 先のセリフはこのフクロウが発したものである。

 女の声だった。


「久しぶりね、赤い鳥の騎士様。私のことを覚えているかしら」

「しゃべるフクロウに知り合いはいない」


 とはいえ聞き覚えのある声だとは認識していた。

 同時に良い関係は築けない性格であろうと予測もついた。


「私の髪を切ったあなたを私は忘れはしないわよ」

「オーヤか」


 ヒトをおちょくる声音は相変わらず、だが姿はフクロウとあって、この魔女の得体の知れなさにますますの警戒心が芽生えた。


「大丈夫よ。当面はあなたの敵にはならないはずよ」

「当面の話だろ」

「未来を憂いて禍根を断つならタイミングが重要。今はその時でないのは自明」

「だといいがな」

「あなたとの会話は楽しいわね」


 ホーホーホウとオーヤは笑った。

 ヒトとフクロウの合いの手のような笑い声だった。


「黒い炎は闇の力よ。誰のことかはお分かり?」


 話を戻すとオーヤは測るようにタイランに尋ねた。


「黒姫、か」

「ご名答」


 黒い炎をまとったアマンが一直線にクラーケンへと迫っていた。

 いや、むしろクラーケンの方からもアマンへ向かって行っているように見える。


「黒は闇。闇は恐怖。恐怖は全てを引き寄せる。興味、関心、好奇心。代償が何かも考えず」

「重力に引かれる、いや、惹かれるわけだ」

「その通りよ。黒姫の闇は全てを渇望する重力。あの娘が表向き、諦念しつつも欲深であることをあなたは見通せていたかしら」


 あの娘とはもちろん深谷レイのことであろう。

 ゴズ連山で共にした期間は短いながらも、タイランはレイをシオリと比較して、より承認欲求の強い性格であろうと見ていた。

 そこはシオリとは徹底的に違う面である。

 シオリは他者への慈しむ気持ちが強すぎるきらいはあるが、レイは自己擁護からくる他責思考が根底にあった。


「だからあの娘は黒姫に適任なのよ。欲深な人間であることが大事なの。全てを手に入れようとする」

「重力の闇か。光すら逃さない……」


 その闇の力をアマンが使える。


「あの若者は闇と炎、黒姫と紅姫の力を?」

「アサインメントされているのよね。とんだ拾い物だったわ」


 ズンズンと走るアマンにクラーケンも近寄っていく。

 距離が縮まるほどに引き寄せ合う力は強くなる。

 最初は周囲にいた者たちも同様にアマンに引き寄せられるかと思ったが、気が付いた時にはその引力は消失していた。

 アマンはほぼ無意識に闇の力を行使していたが、レイの力、黒姫の力は単純に重力を強めるようなものではない。

 先のオーヤの解説を咀嚼すれば、黒姫の引き寄せる力は「求めるもの」に限定されてしかるべきである。

 それはアマンが実証している。

 アマンに引き寄せられているのはアビス・クラーケンだけなのだ。


「てやッ」


 最後のひとっ跳びで炎のアマンはクラーケンの体内へと飛び込んだ。

 周囲が固唾をのむ中でクラーケンの動きも止まる。

 異変はすぐに現れた。

 クラーケンの身体が内側から強い力で潰れ出したのだ。


「体内にブラックホールがいる、みたいに想像すればいいかしら」


 アマンの黒い炎が内側からクラーケンの身体を吸い寄せているのだ。


「それではアマンも潰れてしまうのではないか」


 タイランの心配は杞憂に終わった。

 クラーケンの身体が一斉に燃え出したのだ。

 小さく収縮するよりはるか手前でアマンに宿る紅姫の炎がクラーケンを焼失しているのだった。

 後には何事もなく立つアマンの姿があるだけだった。

 いや、腕にひとつ、燃え残ったクラーケンの足が一本、丸太のように太く長い一本が取り残されていた。

 びちゃびちゃと跳ね回っているが命はとうにない。

 その足を掴んでアマンは駆け出すと大きくジャンプした。


「ほらよッ! 終わったぜ」


 力いっぱい投げつけるとクラーケンの足は観覧席の最上段に座る妖精女王の目の前で、試合会場に張られた結界に遮られて地面に落下した。

 だが空中にある不可視の結界の膜にはクラーケンの血液なのか体液なのか、汚らしい粘液が付着したままで、その向こうに不敵に笑む女王がふんぞり返ったままでいた。


 試合場に残った戦士の数は十分に本選で戦える戦士のみになっていた。

 客席も生き残った戦士たちもこれ以上動く気配はない。

 アマンの奮戦、そして彼がほぼ無傷であることが他の戦士たちのよからぬ考えを霧散させていた。


 妖精女王ティターニアもそれを承知したようで、予選の終了を告げた。

 本選に残った顔ぶれは、どれも謎めいた者ばかり。

 その中でタイランとオーヤは共通の者を気にかけていた。


 アマンとクラーケンの戦いをサポートした気品ある少年である。

 彼らの姿は予選終了と同時に消えていた。


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