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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第八章 王者・無双編

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697 言うことを聞かないヤツ


「これならどうだッ! フレイムショットォ」


 アマンの右手から回転する火炎弾が発射された。

 狙いたがわずアビス・クラーケンに命中するが、わずかに巨体を揺するのみでダメージが入った手応えはない。


「クソッ! ちょっと焦げ目がついたぐらいかよ」


 クラーケンの目の前に降り立ったアマンは焦げ目を見上げて毒づいた。


「だったら……」


 静かに構えると精神を統一してゆっくりと息を吐く。

 次第にアマンの周囲が熱を帯び、噴き出していた炎が身の内に吸収され始める。

 それと同時に緑色の体色が紅蓮の炎を思わせる赤色に変じていく。

 それと同時に瞳の色も金色へと変わっていった。

 そして…………。


「やめときなさいよ、馬鹿ね」


 スパン、と頭をはたかれアマンの精神統一がほどけてしまった。

 途端に体色が普段の緑色に戻っていく。


「いてぇな。なんで邪魔するんだよ?」


 アマンは頭をはたいて邪魔をした張本人、しゃべるフクロウのオーヤを睨んで文句を言った。

 オーヤは灰猫のジャックの背中に舞い降りて、逆にアマンを睨みつける。

 ちなみにカエル族の中でもとりわけ小柄なアマンの身長は、ジャックの背中に立ったフクロウのオーヤとほとんど同じ目線の高さである。


「あんた、アスモデウスと戦った時みたいに本気出すつもりだったでしょ」

「だって観客が観てるんだぜ? 一生懸命本気出さなくちゃ駄目だろ」

「馬鹿ね。こんなところで手の内をさらけ出してどうすんの! それに無駄なサービス精神なんか捨てなさい」

「けどよ……」

「周りを見てみろ、アマン」


 ジャックがアマンに周囲を見るよう促す。


「何が見える?」

「何って……みんな必死に戦ってるよ」

「戦ってるだって? そうじゃない。駆除されてるだけだ」


 確かに一見、戦士たちがクラーケンに挑みかかってるように思える。

 だが有効打を与えている者は皆無と言えた。

 それどころかクラーケンの一撃ごとに戦士の数は減りつつある。


「これは予選だ。おそらくクラーケンが一定数戦士の数を減らした段階で決着が宣言されるだろう。それまで生き延びればいいんだ」

「はあ? そんなの、消極的すぎるよ」

「だが最適解だ」


 ジャックの言葉にオーヤも同意見のようだ。

 無駄な労力を使う必要はないという態度だった。


「けどよ、本当にそれでいいのか」

「忘れるな。オレたちの目的はピエトローシュの女吸血鬼エリス退治だ。あの化け物イカじゃない」

「私の目的は別よ。今は一緒にいてあげるけど」


 そう言うオーヤだが、アマンが何度尋ねても彼女自身の目的については口を割ろうとはしなかった。


「とにかく黙って成り行きを見てればいい。オレたちなら容易に生き残れるのだ」

「……」


 鼻から大きく息を吐いたアマンの様子は(はなは)だ不満そうであった。

 だからといってジャックもオーヤもアマンのご機嫌を取ろうなどとは露ほども思わない。

 彼らは目的に適うからチームを組んでいるのであって、決して仲間意識から持っているのではないのだ。

 アマンにしても自分からこの大闘技会に参加を切望したのではない。

 だが元来好奇心の塊であるアマンは、故郷カザロ村を出てからここへ至るまでの経緯自体を不思議に思っていた。

 ある日突然のトカゲ族の襲来に始まったこの冒険行も、二人の姫神アユミとレイの保護者を気取り、マグ王の治める冥界セヘト・イアルへと辿り着き、あまつさえ自ら不死人ラー・シャイとなってしまうとは考えてもみなかった。

 そして今は十数年に一度開かれるアーカム主催の大闘技会に参加している。

 田舎の辺鄙な村で勇者に憧れていた長いだけで動きのない時間。

 それがわずか二年足らずでアマンの人生が急変したのだ。

 全力で駆け抜けた時間でもあった。


「やっぱり」


 アマンの身体から再び熱い炎が噴き上がった。


「ただジッとしてるってのはオレの性に合わないなッ」

「アマンッ」


 ジャックの声は明らかにアマンを咎めていた。


「手の内を見せるべきではないわ」


 オーヤも繰り返しアマンを制止しようとする。


「それはアンタたちの考えだ。オレたちは形だけのチームだからな。やりたいようにやらせてもらう」

「アマンッ」

「怒ったって無駄だよ。ベェーッ」


 舌を出して反抗すると、アマンはさっさと上空へ向けて跳びたった。

 身体中から盛大に炎を撒き散らして。


「やれやれ。言うことを聞かないヤツだ」


 ジャックは大きくため息をついたが、隣でオーヤはアマンを見上げて不思議な笑みをたたえていた。


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