表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第八章 王者・無双編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

687/721

687 ジャック・ザ・スレイヤー


 鉱山都市コランダムへの途上、立ち寄った漁村はアマンにとって至極退屈な村だった。


 ピエトローシュの女領主エリスとの戦いで、オーヤとシオリの目的地であった冥界への穴が塞がれてしまった。

 その戦いではエリス側は地獄より大悪魔アスモデウスを召喚。

 対してオーヤは残り少ないマナで最も近場にいた力ある者を召喚した。

 それがアマンだった。

 アマンとアスモデウスの戦いは苛烈を極め、周囲の地形をことごとく変えてしまうほどだった。

 結果として冥界の穴はふさがり、エリスはお付きのメイドと共に逃走。

 シオリとオーヤは仕方なく、別の冥界の穴がある場所、すなわちコランダムへと目的地を変更した。


 そしてアマンは、未だオーヤに召喚された身であることから自由に制限を掛けられたままで、ここまでこうして旅についてこざるを得なかったのだ。


「挙句こんな寂れた漁村でもう三日も足止めだもんなぁ」


 台風が近付いているからと、村の漁師は家に引っ込み、海岸には誰の気配もない。

 並は素人目に見ても荒れていて、空は厚い雲が西から東へとものすごい速さで流れていく。

 湿った空気は生ぬるく、夏を間近に控えて噴き出す汗が不快でならない。


「雨に濡れるのも御免だし、オレも戻るとするかな」


 アマンが振り向いた先にはここ数日、寝泊まりに使っている空き家が見えた。

 少し前までその家で暮らしていた漁師がいたそうだが、ここ、アーカムを統べる妖精女王ティターニアの呼びかけに応え、傭兵志願者として出て行ったそうだ。

 そのような行動を起こした者は他にもいた。

 それはこの村だけではない。

 周辺にいくつか点在する漁村では、この数年、満足いく漁獲量とは言えないそうだ。

 そんな折に妖精女王がアーカムの誇る戦闘怪人ケンプファーへの志願者を募った。

 ある者は富と名声を求め、ある者は貧しい暮らしを憂い、養うべき家族のためにと村を出た者が多かった。

 だが帰ってきた者はいない。

 そして村の働き手を減らした今、窮状はさらに深刻なものへとなっていた。

 いや、ひとりだけ帰った者がいる。

 そのネルスという名の青年は、数日前に村へと戻ってきた。

 ひどく傷ついており、村へと辿り着いた途端に意識を失った。

 それ以来目を覚ますことはなく、幼馴染だというアーシと言う娘が付きっきりで看病していたが、誰もが回復は見込めないと思っていた。


 そんなところへ、アマンとオーヤとそして、シオリの三人が訪れたのだ。


「おいッ」


 シオリたちの居る小屋へと歩きだしたアマンに向かい、突然背中から声を掛ける者がいた。

 少ない村人たちの特徴はすでに大体把握している。

 その中で今の声、態度、なによりアマンに気配すら悟らせず背後へ忍び寄るなんて、該当する者が思いつかなかった。

 油断なく振り向いたアマンだが、奇妙なことに荒れた海が見える以外、この砂浜に誰もいなかった。

 岩陰にも、朽ちた小舟の残骸にも、他に隠れられるような場所にもどこにもいなかった。


「こっちだ」


 再び背後から声がして、振り向くとそこに一匹の猫がいた。

 濃い目のグレーの体毛はスッキリとしてスマートな体躯。

 特徴的なのは黄色に光る大きな目だ。

 ただの猫。

 ただし言葉をしゃべる。


「よお。オレはジャック。オレのことは知ってるか?」


 猫は自らをジャックと名乗ったが、アマンは彼を知らなかった。


「チッ。そうかい。だがオレはお前のことを知ってるぜ。オンラクからも聞いてるしな」

「オンラク! てことは、お前も怪猫族(バステト)か」


 オンラクとは黒猫のバステトで、マグ王の城でレイともども、アマンも厄介になっている人物だ。


「チッチッ! オレは確かにバステトだが、ただのバステトじゃあない。人はオレのことをこう呼ぶんだ。ジャック・ザ・スレイヤーとな」

殺し(スレイヤー)?」

「ああそうだ。殺し(スレイヤー)だ。ヴァンパイア専門のな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ