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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第七章 神威・継承編

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668 Mistress 【廃城の女主人】


 地面から出てくるアンデッドは揃いも揃って騎士の鎧に身を固めていた。

 肉体は腐敗し、骨からこそげ落ちていたり、眼球が顔からはみ出したりしている者もいる。

 動きはどれも緩慢だが、腐臭と、彼らの霊気によるものか、周囲の気温が一気に下がった感覚がシオリの神経を麻痺させようとする。


「白姫に状態異常(バッドステータス)は無意味でしょうけど」


 姫神の恩恵として白姫であるシオリにはステータス異常が無効化される。

 それは毒や麻痺、幻術といった肉体や神経に害を及ぼす攻撃が効かないという事なのだが、この場合は少し事情が異なる。


「う……」


 不気味な存在であるアンデッドを前にして、シオリは恐怖心と嫌悪感から身体が硬直してしまっている。

 鼻を衝く腐臭が胃をむかつかせ、気分も悪くなる。

 腐った死体(ロッティングコープス)たちは動きは緩慢ではあるが、その動作がより一層の気味悪さを引き立てる。


「状態異常攻撃は効かなくても、シオリ自身が感じる精神異常はその限りではないのね。シオリ、あんたアンデッドと戦った経験は?」

「え、ん……と、一回だけ。カザロの村でレイさんと戦った時に」


 ウシツノやアカメの故郷であるカザロ村で、黒姫のレイはそこで死んだカエル族とトカゲ族の亡骸をゾンビーとして蘇らせた。

 闇の力を使う黒姫により、シオリとウシツノたちは変わり果てた父や同胞に剣を向ける事になったのだ。

 助けに行ったはずがレイに拒絶されたあの日以来、シオリとレイは別々の日々を過ごしている。

 シオリにとっては今でも違った結末があったのではないかと悔やんでいる、苦い記憶のままであった。


「あの時以来なの? 対アンデッド戦の経験値はちょっとばかし乏しいようね」


 オーヤによる辛辣な評価を下される合間にも、ロッティングコープスは包囲の幅を狭めてくる。


「白姫に転身しなさい」

「えっ」

「聖なる光をまとう〈純白聖女(ブラン・ラ・ピュセル)〉ならアンデッドに特攻がかかるわ」

「で、でも……この人たちは神父様の言っていた騎士団の人たちで、退治していいんでしょうか……」

「バカね。四百年も前の話よ。彼らの死体だったら腐ってるにしろ肉が付いているなんて不自然でしょッ」

「い、言われてみれば……じゃ、じゃあこいつらは」

「趣味の悪いジョークよ。こいつらは同情すべき死体じゃないわ。たぶんだけど」

「た、たぶん?」

「いいから転身しなさいよ。それともこんな死者を冒涜する行為を黙認するの?」

「わ、わかりました」


 確かにオーヤの言うことも一理あるかも。

 そう思ったシオリは急いで腰に吊るした刃のない柄だけの剣を手に構えた。

 これこそが白姫シオリの神器〈輝く理力シャイニング・フォース〉である。


「転身! ブラン・ラ・ピュセル」


 柄から光の刃が放出される。

 白い光の風が吹き荒れて、シオリの姿が変身する。

 見る間に光り輝く六対の羽を持つ白い戦士となった。


「それじゃあ、成仏してくださいッ」


 アンデッドを前にして、シオリの脳裏に新たな姫神魔法が浮かんできた。


神聖なる心(サクレクール)


 その呪文は物理的な現象を一切呼び起こしはしなかったが、聴く者の心にトクン、と何かが衝突した感触はあった。

 迫っていたロッティングコープスの動きが止まると、足元から崩れて灰になっていく。

 天に、あるいはシオリに伸ばした手が必死に虚空を掴むのは、怨嗟の妄執か、はたまた救済への感謝なのか。

 全身が灰と崩れ、一瞬だが光の筋が空へと上っていったようだった。

 その光が魂と呼べるものだったのではないか。

 シオリに確証はなかったが、そうとしか思えなかった。

 そうであるならば、暗い地面の下にいるよりも、空へと上って行ってくれたことは、わずかばかりの慰めにもなってくれたと思いたかった。


「こういうタチの悪い攻撃をしてくるってことは、私に対する当てこすりね」

「オーヤさんに対する?」

「四百年前の騎士団を彷彿とさせるアンデッドをけしかけて、私が怯むとでも思ったのかしら。舐めてくれるわね」



「ウフフフフフ…………」



 再び風に乗って乾いた笑い声が聞こえてきた。

 その頃になると太陽は西に沈み、もうしばらくすれば辺りは宵闇に閉ざされようとしていた。



「ウフフフフフ…………」


「ウフフフフフ…………」



 笑い声は止むことなく、それどころか徐々に近付いているのは明白だった。


「勿体ぶらずに出てきたらどうなの? あんたでしょ、エリスッ」


 オーヤの苛立った声に一段と笑い声が大きくなると、城の奥、おそらく地下へと続く通路から女がひとり、ゆっくりとゆっくりと歩いてきた。

 廃城に住んでいるとは思えない奇麗な身なり。

 シオリのような旅装ではない、夜会にでも出かけるような豪勢なドレス。

 若い、貴族の女。

 顔は蒼ざめ、唇は蛇がのたうつように笑んでいる。

 白い陶器のような冷たい肌。

 大きな黒い目は陰気で、瞳の奥に悪魔が潜んでいるに違いない。


「変わらないわね、エリス」

「あなたは変わったわね、オーヤ。いつから人間を辞めてフクロウに?」


 四百年前に滅んだはずの悪魔城の女主人エリスであった。


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