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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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667 Rotting Corpse 【腐った死体】


 まばらに生えた針葉樹林。

 根元に残る白い雪。

 ゴツゴツとした硬い地面を踏み締めて、山道を登りきると、断崖の先に目指す悪魔城があった。

 陽は少し傾きかけているが、まだわずかにぬくもりを風に乗せてくれている。

 吹き付ける寒風をしのぎたい気持ちと、曰くある廃墟と化した山城へ近付く薄気味悪さとがせめぎ合う。

 城は人の住む気配をまったく感じさせなかった。

 四百年、手入れもされずに荒れ果てた廃城は、至る所、壁や天井が崩れていた。

 窓は全て割られ、鋼鉄製の堅牢な窓枠だけが取り残されている。

 頑丈そうな城門も、おそらくかつての夜討ちで破壊されたのだろう。

 破城槌(はじょうつい)による痕跡が見受けられた。

 門はその役目を十分果たすこと(かな)わず、シオリは瓦礫を超えて城内へと足を踏み入れた。


「あ」


 足裏からザリッ、という異音がしたので見てみると、炭化した木片を踏み砕いていることに気が付いた。

 周りを見ると床も壁も黒ずんでいた。


「神父様が言っていた通り、燃やしたんだ」


 邪悪な魔宴(サバト)と大勢の犠牲者を浄火によって鎮めたらしい。


「シオリ、よく気配を感じてみなさい」


 窓のない窓枠にとまったフクロウ姿のオーヤが冷たい声で言った。


「え……」


 シオリは静かに周囲の気の流れを掴もうとする。

 物音や風の揺らぎを感じ取ろうと試みるも、一切何も掴めない。


「動物の気配がしません」

「魔物の気配もね」


 獣にとっては格好の巣になろうものだが、そう言った気配は微塵も感じられない。

 オーヤが言うように魔物の気配もないのだ。


「でも禍々しい魔力の痕跡は感じられます」


 シオリの声も緊張していた。

 勘の鋭い人なら術技(マギ)の素養がなくともこの地に嫌な感触を覚える事だろう。

 そうした気分は伝染する。

 噂や講談のネタと共に忌避感も広まるのだ。

 だから真っ当な者でこの城へ近付く者はいない。

 いたとしたらその者は無知で愚鈍な者か、あるいは邪悪だ。


「こうした場所は世界中に点在するわ。邪悪を生む土壌がある場所。そこは得てして冥界へと繋がる穴が開いているのよ」

「前から訊いてみたかったんですけど」


 シオリが腕を伸ばすとオーヤはそこへと降り立った。


「何かしら?」

「この世界って、私たちの時代からずっと未来の時代なんですよね?」

「そうね。そのはずよ」


 今いるこの亜人世界と呼ばれる世界は、シオリやオーヤがいた二十一世紀より、少なくとも一万二千年以上先の未来だという。

 文明レベルはシオリたちの世界でいうところの中世から近世の変わり目ぐらいと思われるが、そもそも歴史の変遷が違ういわば異世界であるため、厳密な区別はつけにくい。

 亜人や魔法が実在するのだ。

 同じと見ることの方が無理がある。

 だが今シオリが気にしているのはそういう差異ではない。


「オーヤさんが今言った、冥界に通じる場所が世界中にあるって話ですけど」

「そうね」

「私たちが姫神になる前からもあったんでしょうか」

「知らないわ」


 オーヤの返答は素っ気ない。


「あ、いや、その、日本に居た頃にオカルトとか信じてましたか、ってことじゃなくて……あ、いや、そういうことなのかな」


 上手く言語化できないもどかしさにシオリはのたうつ。

 両手で頭を抱えようとしたのでオーヤはシオリの腕から離れた。


「実際にあったかなんて知らないわ。でも現在(いま)はある。確実に」

「はい……」

「ひとつだけ教えてあげる。私たちはね、この世界に来たことで姫神になったの。姫神になれたからこの世界に来たのではない。この世界に来て、姫神にされたの私たちは」

「……誰に、ですか」


 オーヤがフッ、と笑った。


「神を気取った奴によ」



「ウフフフフフ…………」



「ッ! オーヤさん?」

「……」


 シオリはかすかに少女のような笑い声を耳にした。

 周囲に人の気配はなく、もちろんオーヤの声でもなかった。


「何かいる」


 シオリは声に出して現状を確認しようと思ったが、声はかすれて自分でもきれいに聞き取れない始末だった。



「ウフフフフフ……ウフフフフフフ……」



 笑い声は先ほどよりもはっきりと聞こえた。


「もしかして、神父様の言っていた……」


 そんな都合よく蘇ったりするのだろうか。

 寄りにも寄って今日このときに。


「あの神父の話で最後に悪魔とエリスを滅ぼした女が出てきたの、覚えてる?」


 オーヤの問いかけにシオリは「覚えてます」と答えた。

 城の地下から現れた、長い金髪に全身黒く禍々しいスーツ姿の女性によって、エリスと悪魔は倒され塵になって消えたという。


「それ、私のことなのよね」

「え?」


 シオリが目をぱちくりとする。


「四百年前って言ったでしょ。丁度私がマグ王の元から冥界の穴を通じてこちら側に抜け出て来た時のことなのよ」

「じゃ、じゃあ、オーヤさんってもしかして」

「そうね。恨まれてるでしょうね」


 突然、床一面から無数の腕が生え出てきた。

 埋葬された死体が地面の下から蘇ってきたというのに相応しい光景だ。

 出てきたのは騎士の鎧を身に着けた腐った死体(ロッティングコープス)たちだ。

 ゾンビの様に生ける屍と化した彼らは生ある者に襲い掛かる習性がある。


 見上げると、太陽は遠くの山の影に沈み始めていた。

 陽が遠ざかり、辺りは薄闇に閉ざされようとしている。


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