表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

657/721

657 Stormbringer 【嵐をもたらす者たち】


「空振りだったか?」


 街の入り口に立ち、中心部を振り返りながらタイランは嘆息した。

 ここは「聖なる」と形容される街〈シャニワール〉。

 二つある大きな大陸の東側、緑砂大陸(グリーンランド)の東南地方に属する。

 北側は猫耳族(ネコマタ)兎耳族(バニー)の領有する浮遊石地帯。

 南に狐狗族(キツネ)、西に犬狼族(ウルフマン)、東は猿人族(ショウジョウ)の棲む密林が広がる。

 この五つの亜人種族が共有するのが中心にある街、聖なるシャニワールであり、この地を総称して五氏族連合(フィフス)と呼ぶ。

 タイランはこの地に、紅姫のアユミを探して訪れたのだ。

 情報源は同郷の白い鳥騎士ナキである。

 ハイランドでの騒乱の折、タイランはカムルート砦でナキと邂逅した。

 その際にアユミが東へ発ったという話を聞いた。

 同行者としてエルフの女王であり、マラガの盗賊ギルドマスターでもある人物がいたという。

 危険人物だ。

 一刻も早くアユミの無事を確認したかった。

 だがナキのその情報からもすでに一年が経過しようとしている。

 アユミが東へ向かったというのであれば、この街にも来ているはずだが、どうやらその足跡は途絶えてしまったようだ。


 同行するエルフの女王ト=モに連れられ、シャニワールの要人にコンタクトしたらしいことまでは掴めた。

 だがそこまでだ。

 その要人とは会う事すらできていない。

 自分は今や調停者クァックジャード騎士団(オーダー)を破門されている。

 なんの後ろ盾もない一介の騎士崩れでは、門前払いを喰うのも当然だろう。


「信念だけでは通用しないことも多分にあるさ」


 結局この街でもアユミを見つけることができなかった。

 仕方なく街を後にしようとしたのだが、そこで街の門番に止められた。


浮遊石嵐(ガム・デ・ガレ)が近付いています! 今外に出るのは危険なので、建物内に避難してください」

「ガム・デ・ガレ? 浮遊石地帯はもっと北ではないか」

「この一年、嵐はここ、シャニワールにまで到達するんですよ! 浮遊石を伴った嵐です。危険ですから建物内に」


 門番の声も次第に風でかき消されていく。

 たしかに刻々と風が強まり、砂塵が舞い、目も口も無防備に開け放しておくのも耐えがたくなっていた。


「やれやれ。ガム・デ・ガレか。あの磁気嵐だけはお手上げだ」


 浮遊石嵐(ガム・デ・ガレ)は磁場を激しく狂わせ、鳥人族(バードマン)の飛行能力すら奪う。

 身体のあらゆる神経回路が乱され活動困難に陥るのは少し前に経験済みだ。

 仕方なしにタイランは近場の酒場へと引っ込んだ。

 宿屋が併設された大きめの酒場だ。

 今日はここで足止めかもしれない。


「自然が相手だ。怒るわけにもいくまい」


 黄金(こがね)色の幻想亭と銘打たれた看板が掲げられた宿屋兼酒場には、昼間からそれなりの客数が居座っていた。

 大半は旅人や冒険者風であるところを見るに、タイランと同じく嵐を回避しようと訪れた者たちらしかった。

 強風がガタガタと窓枠を打ち付ける隣の席にタイランが腰を落ち着けると、酒場の主人が注文した麦酒(エール)を運んできた。


「この街に鳥人族(バードマン)とは珍しい。観光には見えないね。何しに来なすった?」


 主人は犬狼族(ウルフマン)の中年男性だ。

 濃いグレーの体毛の下にはなかなか鍛えたらしい良い体格が滲み出ていた。

 タイランを警戒しているような節も若干あるが、それよりも酒場を取り仕切るための情報収集に余念がない、と言った方が大きいかもしれない。


「人探しだ。が、上手く行かなかった。街を出ようとしたが」


 タイランは答えて窓外に目をやる。


「ああ。この一年、結構な頻度で嵐がこのシャニワールにまでやって来る。おかげでウチは儲かるがな」

「この一年の話なのか?」

「そうさ。嵐流予報局は異常気象だって言ってるが、街の者はもう少し迷信深くてな」

「というと?」

「姫神さまのお怒りだそうだ」


 主人の話では一年前、この店を定宿にしていた緑砂の狩人一行が、冒険者に転向して街を出て行こうとした。

 しかし出発の朝、その冒険者一行はこの街の憲兵たちに包囲された。

 一行に加わっていたひとりの娘が姫神と言う特殊な存在だったらしく、評議連のジイさまたちが彼らを拘束しようとしたのだった。

 しかしその捕り物は失敗に終わる。

 その時に予期せぬ巨大な浮遊石嵐(ガム・デ・ガレ)が発生したためだ。


「その日を境に頻繁に嵐がこの街付近にまで発生するようになっちまった。みんなして、姫神さまのお怒りを買ったんだってな」

「そうか」


 姫神を知るタイランからすれば、彼女たちがそんな神懸かりな存在でないことぐらいわかっている。

 だがこのような辺境ではそんな迷信がはびこるのも無理はない。


「もしかして、その一行のリーダーは猿人族(ショウジョウ)だったか?」

「こりゃ驚いた! お客さん、シャマンをご存知で。あれ以来この街から姿を消しちまったが、今ではみんな、あいつらのことを嵐をもたらす者たち(ストームブリンガーズ)って呼んでますぜ。ま、本人たちは知らないでしょうが」


 ガハハハ、と笑う主人は、共通の知人を得てタイランへの警戒を解いたようだった。

 心ひそかにタイランはシャマンへと感謝した。


「まあそれでも、評議連はつい最近、姫神さまをお迎えして今も丁重に扱ってるそうなんでね。この異常気象もそのうち収まるんじゃないかな」

「姫神を迎えた?」

「ああ。なんてったかな? ミナ……ナミ……。ああ、いや、ユミ……なんたらユミ、だったかな」


 タイランには到底無視できない話だった。


「親父、詳しく聞かせてくれ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ