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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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653 revelation 【天啓】


「パールヴァティー?」


 ミナミの口から告げられた、宿りし旧きモノの名。

 自らをパールヴァティーと名乗った。

 そのミナミの現在の意識は同じく宿りし旧きモノ、女媧にある。


 女媧に、パールヴァティーに。


「あり得ないッ! 何故だッ」


 ナナが狼狽えるのも当然だ。

 姫神としてこの世界に召喚されただけでも信じられない出来事だ。

 その自分に太古の神が憑依しているというだけでも理解を超えている。

 だがそれが自分だけではなかったという事で多少の理解と納得はしたつもりでいた。

 それが目の前の金姫にはふたつ。

 ひとりの身体にふたつの神が宿っているなんて。


「わらわも解せぬ。この身体はわらわが宿りし器じゃ」

「あなただけのものではありません。わたくしも同居しているのです」


 二人の女神が同じミナミの口を借りて口論している。

 レッキスやシャマンたちも事態が呑み込めずにいた。


「これ以上あなたの好き勝手は許しません。今は大人しく退きなさい」

「そうはゆかぬ。幾歳を経てこの物質界に舞い戻れたのじゃ。わらわは好きなように振る舞う」

「させません」


 ころころと変わるミナミの言動に全員ぽかんと口を開けて見入ってしまった。


「そういえば……」


 何かを思い出したクルペオが、おずおずと声を出しミナミの注意を引いた。


「前にスイフト爺が言っておったではないか?」

「なにをだ?」


 シャマンもクルペオに答えを求めて聞き返した。


「ミナミには二つの力が宿っている。大妖怪九尾の狐(ナインテイル)と鬼神夜叉(ヤクシニー)じゃと」

「言ってた! 妖怪の神通力と鬼の力を持ってるって」

「シャニワールでフリッツ率いる憲兵隊から逃げた時のことか」


 彼らのホームである五氏族連合(フィフス)の評議会がミナミの正体を知り彼らを拘束しようとしたことがあった。

 それを契機にシャマンたちは冒険者へと転身し、広い世界に出たのだ。

 その際、顔見知りの考古学者である狐狗族(キツネ)のスイフト爺に姫神についてのヒントをもらったのだった。


「ではナインテイルを依り代に女媧が、同様にヤクシニーを依り代にパールヴァティーという女神が金姫には宿っているというのか」


 おそらく同じ境遇のナナだからこそ、その途方もない状況におののいているのであろう。


「二つの旧きモノの力を宿す姫神……」


 ナナには今以上のチカラを求める欲はない。

 この国とハナイを護ることにこれからの一生をかけるつもりになっていた。

 その自信も余裕もあったつもりでいた。

 しかし目の前にいる金姫は規格外に思えた。

 もし、金姫が女媧のようになりふりかまわず好戦的であったとしたら、自分はこの国を護り通すことができるだろうか。

 楽観視はできない。

 それならば。


「二つの存在がせめぎ合う、不安定な今のうちに全力で叩いておいた方が良いのではないか」


 その考えを口に出さずに腹にため込んだ。

 そしてその考えに一瞬でも至った自分に恐れも抱いた。


「慈愛の女神を信奉するこのエスメラルダを守護する資格が今の私にあるのか?」

「もう、いい加減にしてッッッ」


 沈んでいたナナの表情がハッとした。

 顔を上げるとミナミの口からミナミの声が流れ出ていた。


「私の身体は私のものなの! どっちも古い女神様か知らないけど、私の言うことが聞けないなら追い出すよッ」


 それはなんとも小娘な言いように聞こえた。

 子供の癇癪に近い言いざまにナナだけでなくシャマンや他の者たちも拍子抜けした。

 だが言って聞かせるべき肝心の二人にとってはそうでなかったらしい。


「ふん! わらわは別に宿主を困らせてまで暴れるつもりはない。疲れた。寝る」

「わたくしも同感です。主を悲しませることはしたくありません。それでは」


 あきらかにふたつの大きな神気が消えてしまった。

 ミナミの姿は姫神のソレではなくなり、変身前の全裸姿に戻ってしまったのだ。


「ひゃっ! なんで裸」


 呆気にとられていた面々ではあったが、いち早くクルペオがミナミにマントを着せてやる。

 ナナも正気に返り、同様に囚われていた娘たちを保護して回る。

 帰りは暗い地下空洞を抜けずとも、大樹が飛び出た天井から宮殿の真裏へと出れるだろう。

 すぐに銀姫が手配してくれるはずだ。


「決めたぜ」


 その様子を眺めながら、シャマンは誰に聞こえるともなくそうつぶやいた。

 人生もとっくに折り返しに入っている。

 これまでホームで緑砂の結晶を狩り続けて生きてきたが、この数年で状況が一変している。

 なによりデカいのは姫神と言う得体のしれない娘を拾ったことだ。

 それが何を意味しているのかなんて、これまで深く考えてはいなかった。

 シオリと出会ったウシツノやアカメとはそこが違った。

 奴らは積極的にこの世界の変化に首を突っ込んでいったんだ。


「オレのこれからは、この無邪気で危なっかしい娘っこと共にある。こいつは他の姫神とも違うらしい」


 シャマンの声には決意のほどがあふれていた。


「こいつはきっと何かを成す。この世界を変える何かを。それを見守ることがオレの義務だ。レッキスもクーンも、クルペオもウィペットも、ついてくるはずだ。これは天啓に違いないからな」


 シャマンが見ているとミナミと目が合った。

 ミナミはキョトンとした目で見つめ返すだけだ。

 だがシャマンはそんなミナミの姿がこれまでと全く別のように見えてならなかった。


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