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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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652 Pan-gu 【盤古開闢】


 何という光景であろうか。


 エスメラルダの王都エンシェントリーフの地下に広がる大空洞で、異様な戦いが繰り広げられていた。

 それは赤色と銀色の飛沫であり、仰々しく広がった膜と膜のせめぎ合いである。


 勢いよく噴出した赤い粘液質の塊はヘルスライム。

 もはや形を定めずアメーバ状に広がった粘液が執拗にミナミの身体めがけて攻撃を繰り出している。

 その多様な形状の粘液を防いでいるのもまた銀色の不定形。

 銀姫のナナがミナミの盾となり、同様に身体を変化させて赤い粘液をしのいでいた。

 ナナの身体も自在に変化させられる。

 盾となり突撃を防ぎ、傘となり飛沫を防ぐ。

 触腕のように伸びる粘液には同じように触腕を作り、ねじ込みながら巻き込んで力の方向を変える。

 それらが同時に多発していた。

 一部ではヘルスライムとナナの身体が混濁し、混ざり合ってしまった箇所もあった。

 お互いが取り込もうとし、また反発しようとしているからだ。


 そのような戦いはシャマンたちの理解を超えており、二匹のスライムが戦った場合に起こる現象について今さらながらに考え込ませた。


 そのような激闘が目の前で繰り広げられているというのに、肝心のミナミは一切動じていなかった。

 サエーワの大樹を背景に、空中で静止したまま、目を閉じて呪文を詠唱する。

 その声は静かであるが力強く、語を調べるに従い徐々に声量も上がっていった。


「陽の気は天。陰の気は地。天地の境、伏すは盤古。――頭は五岳、聖地となり。左目は太陽、右目は月。血は海洋に、髪は星に、毛は草木に、涙は河に、骨は岩に、息は風に。おお、そして声は雷鳴と成るッ」


 ミナミ=女媧の声が轟いた。

 詠唱が完了したのだ。


「地は轟く、盤古開闢(ばんこかいびゃく)


 大きな揺れが発生した。

 それは地震のようであったがごく局所であった。

 ヘルスライムが噴出した地面が盛り上がり、地面が大きな人間の、女性の形になって起き上がる。

 大地が女性の形をして、腰から上が起き上がり、両腕がヘルスライムを抱え込む。

 胸から上が追随し、首から上が追随し、長い髪を振り乱した形の、岩の女性像が起き上がる。


「大地にはじまりの神を降ろしたのじゃ。上位魔人ごときに使うにはもったいない秘技じゃが、わらわの復活祝いじゃ。景気よくいこうではないか」


 巨大な岩の女性像が高い悲鳴を上げた。

 全員が耳を塞ぐが声は全く防ぎきれない。

 女性像はヘルスライムを抱え込むように丸まっていく。


「すべてを吸収する大地の化身じゃ。この地の栄養となって果てるが良い」


 岩の女性像の目の部分からは大量の水が流れ出した。

 咆哮は風を呼び、身体は山となる。


「くっ! 金姫めッ、私ごと巻き込む気か」


 折り重なる岩の隙間から染み出てきたのは銀色の膜状に変化したナナだった。

 岩から這い出ると元の姿に戻る。

 それを合図に女性像が崩壊し始めた。

 大地が隆起し山となる。

 あふれた水が勢いよく流れる川となり、小さな植物の芽が出てきた。

 ひときわ大きな風が唸ると驚くほどの静寂が訪れた。


 今度こそ、魔神の気配は消え去っていた。

 そして地下空洞は暖かく、草花が生い茂り川が流れる庭園と化していた。


「なんだったんだ? 今のは」


 ナナのつぶやきに女媧の笑い声が重なる。


「あのデーモンを糧にして、ここにわらわの小さな世界を作ったのじゃ。どうやらこの地は先客がいたようじゃが、少しわらわの領分をこさえてやったわ」


 ミナミ=女媧がサエーワの大樹を見上げた。

 大地を鳴動させて浮上していた大樹は今や全体の半分以上を地上に現わしていた。

 だがその動きも止まりつつある。


「さて、銀姫や」

「む」

「だいぶ疲れているようじゃな。今ならそちも容易くやれそうじゃ」

「貴様ッ」


 ナナに対し容赦のない笑みを見せるミナミであったが、そこにレッキスとシャマンたちが駆け寄った。


「もうやめるんよ、ミナミ。とにかく元に戻って」

「ミナミなら眠っておる。今主導権を握っておるのはわらわじゃ。邪魔立てするならそなたらにも容赦はせぬぞ」

「そんな」


 疲労困憊しているうえに無尽蔵の魔力を見せつける女媧を相手にさすがのレッキスも怯んだ。

 頼みの綱ともいえる銀姫も明らかに消耗している。

 今になって初めてレッキスは姫神と言う存在の底の見えなさに戦慄した。


「今このフィールドはわらわのマナが強く働く勢力圏じゃ。覚悟は良いな?」


 女媧の表情に一切の慈悲も見えない。

 

「いい加減になさい、女媧」


 その時、一同の耳に女媧をたしなめる声が聞こえた。

 全員がキョトンとする。

 女媧もだ。

 誰にもその声の主の姿が見えないからだ。

 しかしそれは誤りだ。

 ちゃんと声の主はそこにいた。


「誰じゃ?」

「ここにいます」

「ふざけるでない」

「もう理解しているでしょう?」


 レッキスもシャマンも銀姫も、その場にいる誰もが驚いていた。

 無論、女媧も。


「もうやめるのです。金姫の肉体は、あなたひとりのモノではないのですよ」


 その声は誰あろう、ミナミの口から発せられていた。


「誰じゃ!」


 激昂する女媧の声もだ。


「わたくしは金姫。ヒマーラヤの娘にして吉祥の神妃。〈(ふる)きモノ〉パールヴァティーを宿す姫神なり」


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