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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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650 battle 【ナナvs女媧】


 金色のドレス姿のミナミの前に、銀色のドレス姿のナナが立つ。

 好戦的な笑みを浮かべるミナミを前に、背後の者たちを守ろうと、ナナは毅然とした姿勢を見せる。


「やはりそちも覚醒済みか、銀姫。して、そなたの正体は何者ぞ?」

「正体?」

「宿りし旧きモノのことじゃ」

「あぁ……」


 ナナに答える義務はない。

 自身に宿る旧きモノの名を明かせば、強みも弱みもさらけ出すことになる。

 相手に対策を練らせる必要はない。


「メルクリウスだ」


 ナナは迷うことなく答えた。

 隠し立てすることは騎士道に反すると思えたし、それは自身の格を下げる考えだとも思ったからだ。

 それになにより相手も正体を明かしている。

 姫神同士の戦いとはそういう次元で為すことではない。

 そのような思考を読み取ったわけではないだろうが、ナナの告げた旧きモノの名を聞き、ミナミ、いや女媧は笑って受け止めた。


「メルクリウス! メルクリウスとな。盗賊、商人、職人の庇護者。そして魔術と錬金術の絶対的な司神じゃな」


 女媧はナナの全身を(ねぶ)るように眺めてから、しかし大きくため息をついた。


「とはいえじゃ。たかだか羅馬(ローマ)における十二神のひとつに過ぎん。創世の女神たる、わらわの格には遠く及ばぬな」


 興醒めしたとでも言いたげな女媧の言い分にもナナは動じることはない。


「それならば私など相手にせず、何処へなりと去ればいい」


 女媧の顔がほころぶ。


「そうもゆかぬ。姫神はひとり残ればよいのだ。わらわ以外、この世界に必要はない」

「わからずやめ」


 ナナが眉間にしわを寄せ怒りをぶつけた。

 それが合図になった。

 二人の剣が交差する。

 禍々しい刃と美しい刃が激突した。

 女媧の顔には戦う喜びの笑みが広がり、ナナには苦渋の相が浮き出ていた。

 激しく力強い一撃が交わされると、続けて打ち合いが繰り広げられる。

 二人とも小細工のない剣戟で応戦するが、ひとつ刃が重なるたびに空気を切り裂く衝撃が周囲を走り抜けた。

 その衝撃は地下空洞中に広がり、あるいは岩壁が、あるいは地面がひび割れる。

 姫神同士が全力で切り結べば空間に影響が出て当たり前だ。

 それだけのエナジーが発生している。

 当然ナナもその状況を理解して、シャマンたちが巻き込まれないように苦心しながら戦っていた。


「気付いておるか、メルクリウスよ?」

「私はナナだ」

「どちらでもよい。どうじゃ?」

「なんのことだ!」


 二つの刃が激しくぶつかり鍔迫り合いとなる。


「そちの身体に大量のマナがみなぎっておろう? わらわにもじゃ」


 たしかにナナも感じていた。

 メルクリウスを呼び起こしたことは過去にも経験しているが、姫神のレベルアップといえども今日ほどに力がみなぎったことはない。


「あの樹じゃ」

「樹?」

「あの小山のようにでかい大樹じゃ。あの樹にはちきれんばかりのマナが感じられる。それがわらわたちにも流れ込んでいるのじゃ」


 ミナミの剣を押す力に抗いながらも、ナナはいまだゆっくりとだが上昇を続けるサエーワの大樹を盗み見た。


「あの樹はおそらく姫神だったのじゃ。姫神がこの地を創り出すのに自身のマナを込めた。どうじゃ?」

「私は知らぬッ」


 ナナは背中から二匹の長い竜の首を現出させてミナミに襲い掛からせた。

 ナナは全身を液体金属として自由に変形させることができる。

 単純な武器を生成するだけでなく、常時動かし続けてこのように生物染みたモノも創り出せた。

 ミナミは剣をひき自身もナナから距離をとって竜の首の攻撃を回避した。


「そちもあのスライムと同じような能力じゃな」

「一緒にするなッ」


 二匹の金属竜が地を這いながらミナミに殺到する。

 ミナミが剣を地面に打ち振るうと泥が跳ねあがり高い壁になる。

 竜の頭がその壁をやすやすと突き破るも、その瞬間に壁が固まり竜の動きが止まってしまう。


「ちっ」


 舌打ちしてナナは竜をあきらめた。

 ドロリと竜の頭が溶け、液体状の金属となってナナの足元から吸収された。


「なんという化け物じみた戦いじゃ」


 離れた位置で観戦していたシャマンたちだが、クルペオのその一言に誰もが同意だった。


「ありゃあ、普通の戦士で相手が務まるもんじゃねえな」

「銀姫の方は我らを気にして戦ってくれているようだが、ミナミは少し怪しいな」

「怪しいってなんよ! ウィペット」

「キレるなレッキス。あれはいつものミナミではないことぐらい、お前もわかっているだろう?」


 レッキスは黙り込んでミナミを見つめた。

 旧きモノ女媧と名乗る意識にミナミは操られている。

 そう思っている。

 確かに目の前にいるナナも、それから知っている他の姫神、シオリにマユミ。

 あの者たちも変身しても性格が変わることはなかった。


「どうしてミナミだけああなってしまうんよ?」


 レッキスの疑問に答えられる者はいなかった。


「ん?」

「どうした、クーン?」


 メインクーンがひとり、別の場所を凝視して焦りの反応を見せた。


「あれ見るにゃ。あれ、ミナミがやっつけたヘルスライム・デーモンの岩」


 メインクーンが言うまでもなく、泥玉に押し潰されたデーモンのいる岩が揺れている。


「おい! デーモンがまだ生きてるぞ、ミナミッ」


 いち早く事態を察したシャマンの怒号がミナミの耳に届いた。

 途端、ミナミの足元から勢いよく水が噴き出しその圧でミナミの身体は空中高く持ち上げられた。


「間欠泉?」


 しかし噴き出しているのは水ではなかった。


「あれはヘルスライムの身体ですよ! ヘルスライムが地中から勢いよく噴き出してるんですッ」


 ラゴの声も激しい水流の轟音にかき消されて聞こえなかった。


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