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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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648 Devil's whisper 【悪魔のささやき】


「樹が上っていく!」

「ミナミはッ?」

「いかん! すぐにこの場を離れねばッ! 危険だ」

「スライムに突然呑み込まれたように見えたぞ」

「まだ気絶したままの娘もいっぱいいるにゃッ」

「危ないッ! 天井が崩れッ…………」


 瓦礫が互いにぶつかる轟音に耳がやられ、砂塵に目がやられ、恐怖に運動神経がマヒした。


『ククク……。貴様の仲間たちは岩の下敷きになったようだぞ。悲しかろう』


 赤い粘液に包まれたミナミの耳に魔神の声が轟く。

 どこに口があるのやら。

 魔神はまた不定形の姿に戻り、巨大なゼリー状の中にミナミを閉じ込めていた。

 おかげで直接ミナミを岩塊が落ち潰す心配はしないで済んだが。


「何を悲しむことがある? わらわの御名を知りもせん若輩どもが、どうなろうと一顧だにせんて」


 本音なのだろうか。

 そううそぶくミナミ=女媧の顔には笑みすら浮かんでいる。


「心をざわつかせて優位を得たい。お主らデイモン族は昔から何ひとつ変わらぬな」

『変わらぬのは我らがすでに完成されているからだ。太古の忘れられた女神よ』

「わらわが世界を創生してしばらくは悪魔などおらなんだ。お主らは所詮、ヒトの弱い心が、自らの悪意に目を背けようと生み出された言い訳(スケープゴート)に過ぎぬ」

『なればこそ、悪魔のささやきはヒトに甘美な蜜となって浸透する』

「その結果がオナゴの美に対する欲求をつついてエサとするか? ずいぶんと矮小である」

『この地にこれほどマナを蓄えた大樹が眠っていたのだ。僥倖である』


 ミナミを取り込んだままヘルスライム・デーモンは浮上する大樹の幹にとりついた。

 それは(ヒル)が肌に吸い付くように、大樹の幹から芳醇なマナを吸いつくそうと全身を震わせた。

 その震えはミナミにも伝わる。

 怪しく内側が蠢く密閉空間に締め付けられる感触は、(はなは)だ気分がよろしくない。


「えぇい! いつまでもわらわに触れるでないッ。気色が悪い」


 ミナミの叫びが衝撃となって目の前の粘液を吹き飛ばす。

 外へと出られる穴が開き、ミナミはスライムの内側から抜け出した。


「全身が貴様の端切れでヌチョヌチョしよる」


 不快そうに唾棄(だき)すると、再びヒト型に変化する魔神に向かいミナミは呪文を詠唱し始めた。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「無事か? 無事なのか?」


 シャマンは痛みを感じない自分の身体にそう問いかけた。

 それまでで最も激しく天井の岩盤が崩落し、轟音と土埃で仲間の安否がたちまちわからなくなった。

 すぐにうずくまり目を閉じた暗闇で、周囲に相当な衝撃が巻き起こっていたのを覚えている。

 その時間は永遠の長さに感じられ、少し落ち着いてからもすぐには身を起こすことはできなかった。

 動こうという気が起きにくかったのだ。

 あの瞬間、死を覚悟したし、静寂が訪れた時にはこれが死後なのかと思いもした。

 想像したよりも楽に死ねたと安堵すらした。

 しかし落ち着いてみるとそこに疑問が湧いた。

 死はまだ遠い存在ではないのか?

 そこで上記の言葉が口をついて出た。


「そのようだ。少し暗いが、ランプの明かりが消えている」


 そう返したのはウィペットの声だ。

 どうやら自分は死後の世界で独りぼっちなのではなさそうだ。

 そうなると、熟練の戦士としての自負が行動に表れる。


「全員無事か? レッキス? クルペオ? クーン? ラゴ?」


 起き上がり他のメンツの名を呼ぶ。

 仲間はみんなそばにいた。

 誰もがうずくまり、身を硬くしていたが、全員無事なようだった。

 仲間だけではない。

 ざっと見渡して、助けた女たちもほぼ全員無事なようだ。


「しかしどうして助かったものか……」


 そう疑問を投げかけようとした台詞を最後まで言う必要はなかった。


「ナナ様ッ」

「ああ、銀姫様ァ」


 真っ先に助かった要因に気付いたのは女たちだった。

 彼女たちは上を見上げ、歓声を上げている。

 多くは安堵したらしく、歓びの涙で目を腫らしているほどだ。


「間に合ってよかった。全員無事だな」


 この国の騎士団を束ねる最高指揮官、姫神、銀姫のナナがそこにいた。

 ナナは頭上で両手を広げ、シャマンたちを覆いかぶさるようにして広がった銀色のドームの天井にぶら下がっていた。

 いや、正確に言えば銀姫の両手がドームの天井になって広がっているのだ。

 〈鋼鉄神女(メタル・ウーズ)〉ナナはメタルスライムのチカラを宿した姫神だ。

 全身を鏡のような光沢のある平板なスーツに覆われた彼女は、その身体を自在に変化させることができる。

 今は崩落した岩盤から全員を守るために、巨大なドーム型の盾を形成していたのだった。


「銀姫。エスメラルダの姫神か」

「お前たち、ハイランドで見覚えがある。この国の民を守ってくれたようで礼を言う」


 ナナはドームを引っ込めながら女たちの無事を確かめた。


「よくここがわかったものじゃな」


 クルペオの指摘にナナは鼻を鳴らした。


「気付くに決まっている。宮殿の真裏の貯水池からあんなに大きな樹が顔を出せば」

「宮殿の真裏?」

「じゃあここはほぼエスメラルダの宮殿の真下に当たるわけ?」


 誰もが驚き上を見上げた。

 天井に空いた大穴から今も大量の水が流れ落ちてくる。

 その穴からは青い空、そして宮殿の丸い屋根を持つ尖塔が見え始めていた。


「いったいここはどうなってんだよ」

「わからん。だが調査は後だ。この異変の元凶はアレか?」


 ナナがシャマンに確認を求める。

 彼女は上空で禍々しい神気を発している二つの影を見て言った。


「ミナミッ」

「ありゃぁ、デーモンも健在ですね」


 レッキスとラゴが言うように、巨大な大樹を背にして黄金のドレスのミナミと、赤い粘液質の身体をした魔神が戦っていた。


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