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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第七章 神威・継承編

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644 Rope arm 【ロープアーム】


「デーモンだって? あのスライムがか? それも、上位種(エルダー)。本当かよ?」


 ラゴの言ったことが信じられず、シャマンはもう一度聞き返した。

 いや、信じられないというよりも、信じたくないという思いに近かったかもしれない。

 魔神(デーモン)とは異界の存在であり、この世界に自然に存在する者たちではない。

 多くは召喚士などに喚び出され、その力を行使される側に属する。

 それも術者の用意した魔方陣や魔道具などに即した一時的、かつ限定的な場面においてである。

 しかし魔神はずる賢く、知能も高い。

 術者を騙し自由を得る者や、稀に強大な力を駆使して自らこちら側に現出することもある。

 そうした存在が現在にいたるまで、この世界の闇に雌伏している例は確かにあるのだ。

 だがそれは稀なことであり、通常おいそれと遭遇(エンカウント)するようなことはない。


「間違いありません。あれはデーモン。地獄の(ヘル)スライムです」


 しかしラゴの答えは変わらない。

 その眼は確信に満ちている。


「そなた以前は南洋の島に棲息するヘルススライムであろうと言ってなかったか?」


 クルペオが思い出したように問うと、ラゴは首を振って答えた。


「たしかに美容には健康(ヘルス)スライムが適しています。ただヘルススライムとヘルスライムは見分けが難しい。ほら、あいつのように赤い斑点の縁に薄く黒いまだら模様があるのはヘルスライムなんです。ヘルススライムのまだらはもう少し青みがある」

「わからん」


 目を細めて観察してもシャマンには違いがわからなかった。


「それぐらい微妙な差異なんです。でもヘルスライムはデーモンですし、そうそう見れるものじゃありませんからね。間違えたとしても無理はない。熟練した魔物使いでもない限りは」


 したり顔でラゴがそう断言する。


「ちょっとォ! 解説はいいから早くこいつをどうにかしてよォ」


 たまりかねたレッキスの悲痛な訴えがシャマンたちを我に返した。


「そうだった。今行くぞ! レッキス! ミナミ」

「ラゴ殿、あのデーモンに効果的な攻撃はなんです?」


 盾を構えたウィペットだが、どうにも打撃武器主体の自分では、あのスライムに効果的な攻撃がないように思われた。


「確かに。単に斬ったり殴ったりするよりも、炎で熱するか凍らせるかがいいかと思いますね」


 しばらく一行と共にいて、ラゴはシャマンの剛力駆動腕甲(パワード・アーム)にある火炎放射の拡張器具(アタッチメント)と、クルペオの氷の符術、月下氷刃を目にしている。

 あれらは効果的だと思われた。


「じゃがスライムの中にいるオナゴどもにもダメージが及んでしまうぞ」

「なんとか引きずり出してあげないと」


 クルペオとメインクーンの言う事はもっともだ。


「シャマンッ」


 レッキスの叫ぶ声が響いた。


「どうした!」

「神器! ミナミの〈土貴王飢ライドウ〉は……」


 そこまで叫んでレッキスは暴れたヘルスライムの体内にまた、溺れるように沈み込んだ。

 こうしてる間にもヘルスライムはサエーワの大樹にまとわりつき、蠕動(ぜんどう)を繰り返している。


「レェッキスッ」

「確かに! この神器をミナミに渡し、姫神にさせるのがよかろう」


 叫ぶシャマンにクルペオが肩に背負った黄金の大剣を預ける。

 受け取ったシャマンだが、どうしたものかとスライムを睨む。


「けどよ、あのデカイのには近付くのも危険だ。オレたちまで取り込まれたら、もう打つ手が無くなる」

「三番の拡張器具(アタッチメント)を使うにゃ」

「三番? そうか!」


 メインクーンの指摘にシャマンは何か考え付いたようだ。


「だが準備に少しかかっちまう」

「我らが時間を稼ごう。どうにかしてミナミを転身させねばなるまい」


 ウィペットとクルペオとメインクーンが、ヘルスライムに向かって走り出した。

 それを見てシャマンも右腕の拡張器具を「三番」と書かれたものに換装しはじめる。


「なんです、三番って?」


 戦闘には参加できないラゴはつい、疑問を口に上らせてしまった。


「ロープアームだ。普通は高い壁を乗り越えるときなんかに使うもんだが、これでなんとか……」


 大樹の方を注目すると、幹に張り付いたヘルスライムに対して無駄と知りつつウィペットが槌鉾(メイス)を振り下ろしていた。

 粘液質の身体が弾けて飛散するが、すぐにまた本体に寄り集まり集合している。

 やはりどう見てもダメージには至っていない。

 逆に飛沫を浴びたウィペットの鎧や盾の一部から煙が噴き出し、その部分が見る見るうちに腐食していった。


「ヘルスライムは取り込んだ生物を養分として吸収します。それには割合長い時間をかける傾向にあるのですが、鎧など吸収できない無機物に対しては容赦のない、瞬時に腐食させる攻撃をしてくるのです」

「まるで知性があるかのように言うな、ラゴよぉ」

「あれはエルダーデーモンですよ。忘れないでください。知性は相当あります」

「ぐっ、そうか。認識を改めるぜ……」


 見た目はバカでかいスライムでしかないので、つい侮った認識に陥ってしまう。


「七の表護符! 尸分轟烈(しぶんごうれつ)


 クルペオが符を貼り付けた岩の塊を操作してヘルスライムにぶつける。

 メインクーンは不可視の糸を飛ばし囚われた女たちを引っ張り出そうと奮闘する。


「これはどうあっても無理にゃ。頼みはシャマンとミナミだけかも」

「待たせたなッ! 用意はいいぜ」


 シャマンの怒号が聞こえた。

 三人ともスライムから距離をとり、レッキスは真っ直ぐシャマンを見据えた。


「受け取れッ! レッキス」


 シャマンの右腕から勢いよく射出されたロープ。

 その先端には鈎爪が付いているのだが、今はそこに黄金の大剣が括り付けてあった。

 ミナミの神器〈土貴王飢(ライドウ)〉だ。

 大剣は放物線を描きつつ、ヘルスライムの直上に飛び上がっていた。

 目いっぱい腕を伸ばしたレッキスの手元に奇跡の様に吸い付いた。


「ミナミッ」


 ヘルスライムの体内に潜り込んだレッキスが、ミナミの元へ神器を届ける。

 受け取ったミナミが土貴王飢(ライドウ)を握りしめると、剣から力が流れ込んでくる。

 それは振動となり、ヘルスライムの体内に波紋となって目に見えた。


「転身しろッ! ミナミッ」


 シャマンの叫ぶ声がミナミにも聞こえていた。



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