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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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643 Elder daemon 【上位魔神】


「この大樹にはサキュラ女神がおわすのです。この輝きこそ女神さまの証! おお、まさかこのような場所に。我らの地の底に」


 女神官はそれ以上言葉にならない嗚咽にむせび泣いていた。

 感化されたのか、同様に感激して涙を流す者が続出した。


「ご神木ってこと? 確かにこんな地底にとてつもなく大きな樹があるなんて普通じゃないけど」


 レッキスの言うとおり、これは普通の環境ではない。

 ミナミは女神官が「サエーワの木」と言った大樹を見上げた。


「神が宿る木?」


 ミナミには正直理解できなかった。

 いや、理解できなくなった、という方が正しい。

 以前までなら神が宿ると言われても、そういうものか、となんとなく神聖性に感じ入っていただろう。

 お守りだとか、鳥居だとか、十字架だとか、パワーストーンだとか。

 しかし今のミナミに何か信じられるものがあるかと言えば、そんなものはない。

 ゴルゴダに囚われていた数ヶ月、あの時自分を虜にした相手は自らを「三柱の神」と言った。

 百獣の蛮神ズァ。

 奴はこの世界を守っていると言っていた。

 そしてさらにその上の存在。

 大いなる存在(ザ・グレート・ワン)と呼ばれた不可思議な存在。

 あれらは間違いなく強大な力を有していた。

 あれが神であるならば、自身の心の内に宿る概念でしかない神を神と呼んでも心許ないばかりだ。

 奴らは言った。


 この世界を護るためには生贄としての姫神が不可欠だと。


 もしそれが唯一、この世界の在りようを維持する方法なのだとしたら。

 それを実践している奴らと、それに貢献する姫神を置いて他に神などいようものか。


 そしてそれは同時に、私が神に抗っていいものと言えるだろうか。


 全身に波打つ圧力を覚え、ミナミは思考を中断した。

 彼女らを飲み込んだ巨大スライムが、それまでにない大きな動きを見せ大樹へと向かいだしたのだ。


「あぷっ」

「ぷはぁッ」


 身を預けることも出来ず、誰もがスライムの体内で全身を翻弄され、溺れた。

 何度も体が回転し、上下の認識も前後の不覚も定まらない。

 赤黒く明滅する巨大スライムは地下に揺蕩う泉に着くと、躊躇なく入水した。

 スライム内の対流が激しさを増す。

 ミナミは溺れかけながらも目いっぱい腕を伸ばした。

 その腕を掴む者がいた。


「レッキス!」

「ぃよいッしょォッ」


 レッキスは掴んだミナミの腕を力強く引っ張り上げた。

 おかげでミナミは頭部をスライムの外へと出すことができ、息をつけた。

 しかし続いて大きな衝撃が襲った。

 思わずレッキスとお互いの身体を抱くようにしがみつく。

 スライムが地下空洞に広がる泉の中心に生えた、その大樹の幹に衝突したのだ。

 その振動が全員の身体を揺さぶった。

 スライムは幹にまとわりつき、大樹を上ろうと這いずる。

 大樹の幹は山のように太く、それはまるで木登りとは言えず山登りに近かった。

 しかしそれを滑稽だと笑っていられる精神状態ではない。

 なんとかスライムから離れようと誰もが藻掻いていた。


「でも、なんだか力が抜けてきた……」


 誰かのそのつぶやきが伝播したのか。

 ミナミやレッキスも含め、徐々に彼女らの抗う力が弱まっていた。


「見て! サエーワの木がッ」


 女神官の悲痛な声がミナミを大樹に注目させた。

 最初に見た時よりも黄金色の輝きが弱まっている気がした。


「葉が、枯れてる」


 レッキスは大樹の枝葉に気が付いた。

 最初に見た時に茂らせていた葉が、少しずつ枯れて舞い落ちてくるのだ。


「この感覚、似てるわ……」


 ミナミは思い出したくない感覚に襲われていることを自覚した。

 ゴルゴダで磔にされていた時、何故姫神が必要とされていたのかを悟った時。


「このスライムが養分を吸い取ってる?」


 レッキスの推測は当たっていた。

 大樹にとりついたスライムが、ごちそうに在りつけた歓喜を表すように、急速に彼女たちの世紀を吸収し始めたのだ。


「きゃあっ」


 悲鳴が聞こえた。

 その女のまとっていた腰布がぼろぼろに壊死して塵と化したのだ。

 となれば、彼女たちの肌が、骨が、血や内臓が同じ末路を辿るまでにもう幾何の猶予もない。


「ヤバッ! ミナミ、なんとかならないの?」

「そんなこと言っても」


 いくら姫神と言えども神器がなくては転身も出来ない。

 金姫になれなければ強力な姫神魔法も使えないのだ。


「くっそ」


 レッキスがスライムの中で拳や蹴りを繰り出すが、水の中で水を殴るようなもの。

 拳法家の彼女に出来ることは今は何もない。


「あ、つぅ」


 女たちがそろって全身にひりつく痛みを感じ始めていた。

 絶望の嘆きがこの場を支配し始めている。


「な、なんだァッ! ここは」


 その時、聞き覚えのある怒鳴り声と共に待ちわびた者たちが駆け込んできた。


「巨大な樹だ! それに見ろ! あそこにスライム」

「レッキスとミナミ! それに他の女の子たちもいるよッ」


 シャマンたちが追い付いたのだ。


「みんなっ!」

「ミナミッ! 無事か? 今助けてやるぞッ」


 シャマンが剛力駆動腕甲(パワード・アーム)炎炭石(フレア・カートン)を装填していると、隣に立ったラゴが驚きの声を上げた。


「あれはッ」

「どうしたラゴ?」

「なんてこった、あれは、あれはただのスライムじゃあありませんよッ」

「なんだよ?」


 いつも飄々としていたラゴとは思えない、その表情は恐怖に青ざめている。


「あれはヘルスライムです! 見た目はスライムですが、とんでもない! あれは魔神(デーモン)です! それもエルダー種、上位魔神ですよッ」


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