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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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641 smells like Rex 【痕跡】


「クーン、下の様子はどうだ? なにか見えるか?」


 先に排水溝から地下へと降りたメインクーンに向かって、シャマンは身を乗り出して声を掛けた。


「地下に自然の洞窟が広がってるにゃ。岩肌が剥き出しの。でも暗くて見通せないよ」


 少し声が反響しながら届いた。


「クルペオ、壁に掛かっているランプを拝借しよう」


 頷いたクルペオが大浴場の壁に掛かっているランプをひとつ、手に取った。

 中には火灯りではなく発光する虫が数匹漂っている。


「これは晴明ホタルですね」


 ラゴが覗きこんでそう言った。


「晴明ホタル?」

「スライムは火に弱いですからね。なのでこの浴場には火灯りでなくこの晴明ホタルを明かりにしているのでしょう。結構値の張る代物ですが、それだけ繁盛していたってことでしょうね」


 ラゴも別のランプをひとつ手に取って排水溝へと近付いた。


「いいのか? 危険かもしれねえぞ」

「まあまあ。アーカムまではお仲間だと思ってくださいよ。それに私の知識も役に立つでしょうし」

「それに関しては期待しているぜ」


 シャマンがニヤッと笑って先に排水溝を降りた。

 続いてクルペオとウィペット。

 最後にラゴが降りてきた。


「そこ、水溜まりあるから気を付けるにゃ」


 もともと水を流していたため、少し窪んだ場所には埃の浮いた水溜まりがいくつかできている。


「そんなに広い穴ではないな」


 二人横に並ぶのがせいぜい。

 大柄のシャマンでは横に誰もつけない狭さだ。

 天井も、手を伸ばせばシャマンだけでなくラゴでも届いてしまう。


「考えたくはないが、十数人の客を飲み込んだままの巨大スライムが、この洞窟を這いずって行ったのであろうな」


 ウィペットが岩肌を触りながら身震いしている。


「ならそんなに移動速度は速くねえはずだ。急いで追いかけるとしよう」


 シャマンの号令ですぐに隊列を整えた。

 先頭は盗賊(シーフ)のメインクーンと魔物使い(モンストル・テイマー)のラゴが並ぶ。

 ラゴは晴明ホタルの入ったランプを手にしている。

 そのすぐ後ろにパーティーの盾役、神官戦士のウィペット、さらにその後ろにこれもまたランプを持った符術師のクルペオ。

 最後尾はリーダーである戦士シャマンとなった。

 今回のケースでは後方から襲われることは考えにくいが、シャマンの図体のデカさが他メンバーの行動を妨げる恐れがあるので、この並びとなった。


 一行は追跡を急ぎながらも慎重に歩を進めた。

 最初は狭い一本道が一方向に続くのみだった。

 しかしやがて困った事態に遭遇する。

 道が分岐し始めたのだ。

 最初は真っ直ぐ続く道の横手に小さな割れ目がある程度だった。

 だが次第に道幅が広くなるにつれ、その間隙の数も増え、そしてとうとう目に見えて同サイズの分かれ道が左右に続く場所が現れてしまった。


「おい、どっちへ行けばいい?」


 先頭のメインクーンとラゴが通路に残るスライムの痕跡を探す。

 しかしそれらしいモノを見つけるのは困難だ。

 洞窟の地面や壁は固い岩で、引き摺った跡すら残さない。


「待つにゃ」


 メインクーンの眼が光った。

 一方の通路の先に何か落ちている。

 それは白い布の切れ端だった。

 ハンカチ程度の大きさに引き千切られた布が落ちていたのだ。


「ヒトの出入りの様子もない洞窟に、新しめの布の切れ端が落ちてるなんて不自然にゃ。ウィペット?」

「ん?」


 メインクーンが拾った切れ端をウィペットに渡す。


「この布の素材、浴場にあった客向けの腰布と同じにゃ。クンクンしてみて」

「なに?」


 ウィペットは咳ばらいをひとつすると、渡された布の切れ端を鼻に押し当てた。


「覚えがある……」

「たぶんレッキスにゃ」

「……たしかに」


 ウィペットは顔を赤らめながら切れ端をメインクーンに返した。


「レッキスがオレたちが来ることを信じて目印を置いていったってことか」

「ということはまだ最悪の事態には陥ってはおらんという事じゃな」


 シャマンとクルペオも気付いたようだ。


「おそらくこの先にも目印はあるはずにゃ。ウィペット、レッキスの匂いをしっかりと覚えておくにゃ」

「犬の鼻がこうも頼りになるとはな! キヒヒ」

「お前たち、このことはくれぐれもレッキスには内緒にしておいてくれ」


 ウィペットは動揺する自分を叱咤するように、一言、神への祈りの言葉を唱えた。



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