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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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639/721

639 clue 【手掛かり】


 広い店内にラゴを含むシャマン一行だけが取り残された。

 場内は雑然と備品が散らかり、事件発生当時の混乱が伺える。

 しかしそれから数時間、今は水を打ったように静寂が支配していた。


「あの男、何者なのだ? そもそも盗賊ギルドのマスターが、現場の騎士団を退去させられる道理がわからん」


 ウィペットの疑問に答えられる者などいなかった。

 メインクーンでさえ、盗賊ギルドのマスターである、という事以上に知ることはない。


「考えたってわからねえ。が、レッキスとミナミが行方不明なのは事実だ。この状況は都合がいいし、まずはしらみつぶしに探すんだ」


 シャマンの号令に一同が散開して場内を調べにかかる。


「ところで、クーン」

「なんにゃ?」

「ここのオーナーや従業員はどうしてるんだ? 今は誰も居ねえみたいだが」

「全員騎士団の詰所で取り調べ中らしいよ。どうなってるかは知らないけど」


 シャマンは続けてラゴの元へ近寄った。


「お前さん、冒険者じゃねえのについて来てよかったのか? 危険があるかもしれねえぞ」

「いや、実は思うところがありましてね。私でもお役に立つかもしれないと、そう思いましたんで」

「思うところ?」

「ええ。少し見てみて確認したいと思います」

「なんだよ、思うところって……」


 シャマンがラゴに食い下がろうとした時だ。


「シャマンッ! みな、こっちじゃ」


 奥の大浴場と思しき場所からクルペオの呼ぶ大声が聞こえた。

 大浴場は全て大理石で組まれ、円柱の柱が何本も立ち並び、薄絹をまとった女神像がいくつも彫刻されている、一見しただけで豪奢と思える場所だった。

 中央に浅めの巨大な浴槽があるが、今は湯は抜かれて空っぽだった。


「どうした、クルペオ」

「それじゃ」


 集まった面々にクルペオは一点を指差してみせる。

 排水溝の蓋と見える格子戸に引っかかるようにして一振りの大剣が取り残されていた。

 それは刃も柄ごしらえも黄金の剣で、シャマンたちには見覚えのある剣だった。


「ミナミの〈土貴王飢(ライドウ)〉だ。ここで戦闘があったのか?」


 しかし剣で破壊された痕は壁にも床にも見当たらなかった。

 もちろん戦った相手の痕跡もである。


「どういうことだ? レッキスもいたんだ。あいつらがそこらのならず者に後れを取るはずもねえし」

「やはりこの店の者が巧妙に仕組んだトラップを駆使して、かどわかしたのではないか?」

「けどオーナーも従業員ももう騎士団に連行されてるにゃ」


 全員で首をひねる。

 一通り見渡してみても襲撃者による痕跡も、外へ連れ出された痕跡も見当たらない。


「情報によればこの大浴場に居た客が音もなく消え失せたという事じゃったな」


 クルペオがミナミの神器を拾いながら確認する。


「そうにゃ。従業員がここを見に来たらすでにもぬけの殻だったって」

「それで他の客がパニック起こして明るみになったのか」


 探索は行き詰ってしまった。

 メインクーンは持てる盗賊技能をフルに使って罠や隠し扉の類を探したが見つけられなかった。

 シャマンやウィペットも調査に取り掛かったが、事前に調べていた騎士団連中と同様、手掛かりは見つけられずにいた。

 クルペオはオーナーの部屋を調査したが、怪しい取引を示唆する手紙や書類などはなかった。


「ただひとつ気になるのがな、食材費の請求書が随分と高額なんじゃ」

「従業員のまかないじゃねえのか?」

「にしては多すぎる。あの量を人数割してもひとりあたり常人の十倍以上の食事量じゃぞ」


 いくら人気店で忙しいとはいえ、全員が大食いであるとは考えにくい。


「待つにゃ。私さっき店の裏手も見てきたけど、そんなに食材を買っていたら出るゴミの量だって多いはずにゃ。でもそんなことなかった」

「ちなみに買い込んでいた食材はどんなものだ?」

「肉じゃ。ほとんど食用の牛肉じゃった」


 ウィペットの質問に答えたクルペオは「関係あるのだろうか?」と少し弱気に返した。


「いやいや、みなさん。何か進展ありましたか?」


 そこへひとり別行動をとっていたラゴが大浴場へと入ってきた。


「なにやら牛肉の話が聞こえましたが、もしそうなら私の見込みが当たっていたかもしれませんよ」

「さっき言ってた、思うところ、ってやつか?」


 ラゴが得意そうに頷いて見せる。


「何がわかったんにゃ? もったいぶらずに教えるにゃ」


 ボンドァンが提示した時間はすでに半分以上過ぎている。

 そうでなくても行方不明者の安否が気になるところである。


「そうですね。では結論から言いましょう」


 ラゴは顎に手を当てて大浴場の一角、床に開いた排水溝の方を見る。


「この〈バブリーミューズ〉は公衆浴場と謳っていますが、その実、普通の浴場ではありません」

「ではなんだというんじゃ?」

「ここでは湯の代わりに、限りなく液体に近いモノが使われていました」

「湯の代わりに? なに?」


 頭の上に疑問符が浮き出て見えそうなクルペオとメインクーンをじっと見つめて、ラゴは答えを言って聞かせた。


「それは、品種改良によって粘度を著しく下げたスライムです」

「スライムぅ?」

「そう。この店は客に内緒で、スライム風呂を提供していたんですよ」


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