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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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638 Hero of justice 【正義の味方】


 日が暮れて、夜の帳が落ちた砂漠の街は、いつものような静寂に包まれることがなかった。

 日中、連日のように大盛況で、多くの女性客でにぎわう新興の公衆浴場〈バブリーミューズ〉の周囲には不穏な空気が流れていた。


「おい、そこらじゅうに騎士団が待機してるぞ」


 現場に駆け付けたシャマンたちは物々しい雰囲気を遠巻きにしていた。

 周辺の住民だけではなく、野次馬根性を募らせた者たちが噂を聞き集まっている。

 それによって生じる混乱を騎士団が諫めている様子が所々で展開されていた。


「客の女たちが数十人も行方不明だって?」


 ラゴが聞き込んできた噂を聞いて、シャマンたちは蒼ざめた。

 その公衆浴場にはレッキスとミナミが出掛けており、その時もまだ帰ってきてはいなかったからだ。

 すぐさま全員でここにやって来たが、生憎と浴場内への出入りは騎士団に制止されてしまった。

 中で何が起きているのかもわからないまま時が過ぎていく。


「さっきから騎士連中が店内を捜索しているようだが、どうやら芳しくないようだな」

「あの店のオーナーはどんな奴だった?」

「さっき盗賊ギルドへ聞き込みに行ったクーンによれば、オーナーはノーマという女性で、数年間マラガで商いをしてから故郷であるエスメラルダに戻ってきて〈バブリーミューズ〉を開業したそうだ」

「盗賊都市か。やっぱりオレらの依頼主が言うとおり、怪しい匂いがしてきたな」


 ウィペットの淀みない説明にシャマンがしたり顔をする。


「でもそれだけであの店が黒とは断定はできまい」

「そうだが、依頼主たちはあの店の異様な繁盛っぷりに裏があると思ってるぜ」


 シャマンがそうクルペオに答えた時、メインクーンが合流した。


「おまたせ」


 事件の噂を聞いてから再度、メインクーンは新しい情報がないかと盗賊ギルドへ行っていたのだ。


「クーン、どうだった? なにかわかったか?」

「それなんだけど、まだ詳しいことは不明みたいで、今から調べるって」

「今から? この街の盗賊ギルドはずいぶんと悠長な性格みたいだなッ」


 レッキスとミナミの安否がわからないためにシャマンは苛ついていた。


「ちょっちょっ! シャマンッ」


 途端にメインクーンが顔色を変えてシャマンの口を塞ごうと飛び掛かる。


「ずいぶん焦っているようだな。悠長なギルドで申し訳ない」

「ん? だれだ、あんた?」


 メインクーンの背後からひとりの男が進み出てきてシャマンの正面に立った。


「シッ! 声を下げて。シャマン、この人は……」

「オレはボンドァン。この街の盗賊ギルドを仕切らせてもらっている」

「ギ、ギルドマスターかよッ」


 さすがに全員が驚いた。

 まさかメインクーンがギルドマスターを連れてくるなんて考えてもいなかったからだ。


「あの店の客十数人がいちどきに蒸発した。オーナーの身元は調べてあるが、裏に大きな組織などの気配はなかった」


 ボンドァンがそう説明する。


「というと?」

「これは何がしかの事故だ。だが詳細は分からない。それを今から調べようってことだ。そこで、だ」


 ボンドァンが一同を見渡す。


「オレの口添えでこれからアンタたちをあの店の中に案内してやる。もちろん騎士団の連中はしばらく外に追い出してな。行くだろ?」


 ボンドァンはリーダーであるシャマンに向かってそう提案した。


「ちょっと待て。なんでオレたちを頼る?」

「実は情けない話、うちのギルドは出来立てほやほやで人手不足なんだ」

「だからってよお」

「まあ理由は大まかに三つある。ひとつ目はあんたら、あの店を調べるって類の依頼を引き受けてるだろ。なら丁度いいんじゃないのか?」

「ぐっ」


 何故依頼を引き受けたことを知っているのか。

 そんなことをマークされているとは考えも及ばなかったので、シャマンは出かかった驚きの声を押し殺すので精いっぱいだった。


「二つ目はこれは偶然だが、アンタらのお仲間も被害者みたいなんでな。無関係の者を使うよりも調査に本気になってもらえるだろう。そして三つ目が割と本気なんだが……」


 ボンドァンはメインクーンの顔を見て片目をつぶって見せる。


「にゃ?」

「アンタらのような優秀な冒険者との縁は大切にしたいと思ってるんでな。特にこちらの盗賊(シーフ)の腕前にはきたいしているんだぜ。なんならギルド幹部にしてやってもいいぐらいだ」

「にゃにゃッ」

「メインクーンはオレたちの仲間だ」


 シャマンが声に怒気をはらませて反論する。


「もちろん今じゃない。ただ冒険者はいつでも身の振り方を考えておいた方がいい」

「なにを……」

「シャマン、その話は今はやめておくがいい。だがせっかくだ。奴の言うように、我等で店内の調査をできるのはもってこいだと思わんか」


 冷静にウィペットに提案され、シャマンもその案を飲むことにした。

 とにもかくにもここで手をこまねいていてもレッキスとミナミの無事を確認することはできない。

 それに正面から大っぴらにあの店の調査をできるのは、受けた依頼の遂行にも都合がいい。


「よし。じゃあオレについてこい」


 ボンドァンがまっすぐ〈バブリーミューズ〉の入り口に向かい歩きだす。

 野次馬を監視していた騎士が慌てて制止しようとするが、ボンドァンが一瞥(いちべつ)をくれただけで騎士はひるんだ。


「おい、本当に大丈夫なのか?」


 シャマンがボンドァンの背中に尋ねる。


「ああ。ここの現場責任者は翡翠の星三番隊の千人長クラスだ。訳ないさ」


 なにが訳ないのかわからなかったが、全員ボンドァンにこれ以上の詮索はしないでおいた。

 そして入り口を見張っていた騎士にボンドァンが何かを告げると騎士は慌ててこの場の責任者を連れて戻ってきた。

 その隊長もボンドァンと何事かやり取りをしたと思うと、かしこまってシャマンたちともども店内への入り口を無事通り抜けさせてくれた。

 店内で調査をしていた騎士たちもそそくさと出て行く。


「二時間だ。それだけの間は誰もここへは邪魔をしに来ない。その間に調査を済ませ、可能ならば解決して見せろ」


 店内へ向かうシャマンたちにボンドァンはそう声を掛けた。


「オメェは来ねえのか?」

「オレは冒険者じゃないし、盗賊でもない。あとはアンタらに任せるさ」

「盗賊ギルドのマスターが盗賊じゃないって、じゃあなんだってんだよ?」


 食って掛かるシャマンにボンドァンは笑いながらこう答えた。


「正義の味方かな。じゃ、頼んだぜ」


 呆気にとられるシャマンたちの前から、正義の味方は背を向けて立ち去ってしまった。



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