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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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631 guild master 【盗賊らしくない盗賊】


 ボンドァンと名乗った男はとても盗賊ギルドの長には見えなかった。

 いや、それどころか盗賊にすら見えやしない。

 

 長めの白髪に銀朱色(バーミリオン)のターバンを巻き、同色のケープを羽織っている。

 幅広の帯には柄ごしらえが黄金で、刃が大きく湾曲した短刀を挿し、それとは別に本来の得物であろうか、背中には盗賊らしくない大剣を背負っている。

 しかし最も目を引くのは左腕だ。

 ケープで半分は見えないが、肘から先、指先に至るまで黒壇の甲冑で覆われている。

 この辺りも指先が命の盗賊らしくない出で立ちだ。

 さらに今さっき、この男はボンドァンと名乗り、本名だと付け加えたりもした。

 盗賊ギルドの幹部以上ともなればもちろんのこと、敵の数も多くなる。

 通り名で済ますことの多いこの稼業で最初から本名だと公言するとは。


「盗賊というより剣士さまって感じにゃ」


 つい思ったことを口に出してしまった。


「ははは。正直だな、あんた」


 目の前の男が笑い出して初めてメインクーンは自分の失敗に気が付いた。

 普段ならば絶対にこんなミスはしないのに、この男の雰囲気がそうさせてしまったのだろうか。


「あ、いや……」

「気にしないでくれ。オレも気にしていない」


 本心からそう言っているのがわかったので、メインクーンはもう少し気になることをつついてみることにした。


「ここのギルドは少し変わっているって? まあ、そうなのかな。なんせまだ出来て半月程度だしな」

「半月? この街にはそれまで盗賊ギルドが存在しなかったの?」

「いや、そうじゃない。半月前にそれまであった盗賊ギルドを解体したんだ。そしてオレがマスターに就いた」


 驚いた。

 こんな大国の王都にある盗賊ギルドにそんな一大事が起きていたなんて。

 まだ半月だと言うが、もうしばらくすれば世界中の盗賊たちにこの噂は広まることだろう。


「どうしてそんなことになったにゃ?」


 他国の盗賊に教えてくれるか疑問だったが聞かずにはいられない。

 だが意外にもボンドァンはあっさりと話してくれた。


「以前のギルドはこの国にとって害悪でしかなかったからだ」


 ボンドァンの眼つきが厳しいものに変わった。


 数年前からこの王都ではセンリブ森林に潜むエルフたちによる人さらいが横行していた。

 エルフたちは南東に国境を接する自由都市マラガの盗賊ギルドと共謀し、さらった娘たちを奴隷として売り払っていたのだ。

 その魔手はあろうことか、先日新法王に即位したあのハナイにまで及んだ。

 その手引きをしていたのは売国者ライシカであり、このギルドの前任者も一口噛んでいたのだった。


「この国に害を成すだけのギルドだったんでね。無用と思い成敗した」

「それで、あなたが新しいギルドマスターに就いたんにゃ」

「そういうこと」


 ボンドァンの表情がまた柔らかいものに戻っていた。


「ずいぶんな奴だったみたいにゃ。なんてマスターだったの?」

「ん? なんて言ったかな、あの女」


 ボンドァンが受付にいる女盗賊に問う。


「別に公表する必要はないと思いますが」

「だとさ」


 受付嬢の対応にボンドァンは肩をすくめて見せた。


「というわけで、うちはまだ出来立てだ。そこであんたみたいに腕の立つ若い盗賊は大歓迎だ」

「にゃ?」

「どうだい、うちで働いてみる気はないか?」

「勧誘してる?」


 思っても見ない事だった。

 メインクーン自身もいずれ腰を落ち着ける時が来た場合を考えることもある。

 だが今は仲間たちとの冒険を楽しんでいる。


「ありがたい話だけど、今はまだお受けできないにゃ」

「ああ。でもその気になったらいつでも来てくれ。夜明け前以外ならいつでもいい」

「夜の火遊びで朝帰り?」

「そんなんじゃない。ここを何処だと思ってる? 慈愛の女神の御許だぞ。お祈りの時間に決まってるだろ」


 不敵な笑みを浮かべてボンドァンはそう答えた。


「どうだ? ちょうど昼時だ。せっかくだからランチを共にしないか」

「仲間と待ち合わせているにゃ。それもまた次の機会にお願いするにゃ」

「ああ、わかった。待ってるぜ」


 ボンドァンは受付嬢に一言二言告げると入り口から外へと出ていった。


「変わったマスターにゃ」

「そうね。でもこれからのエスメラルダには必要な人だと思うわ」


 受付の女に礼を言ってメインクーンも外に出た。

 確かにあの男は面白い。

 そして少し気にもなっている。

 出て行ってまだ間もない。

 少し尾行してやろうか、その素性を暴いてやろうか。

 そんな気持ちがむくむくと沸き上がったので、気配を殺し周囲を窺った。

 見える範囲にその姿はない。

 ならばと手近な路地へと滑り込む。


「一度ランチを断ったんだ。今日はもう付き合う気はこっちにもないぜ」

「にゃッ」


 路地裏の壁の上から声がした。

 見上げると屋根の上にしゃがんでこっちを眺めているボンドァンと目が合った。


「好奇心は見上げたものだが、オレのことを調べたかったら日を改めるんだな」

「あ、あはは。そうするにゃ」

「ふっ。さっきの勧誘は本気だ。いずれいい返事が聞けることを期待しておくぜ」


 そう言ってボンドァンは身をひるがえした。

 メインクーンは即座に屋根に駆け上がったがボンドァンはあっという間に姿をくらました後だった。


「おかしなマスターにゃ。盗賊らしくもないのに、盗賊よりも神出鬼没にゃ」


 なんとなく惹かれていることに彼女自身はまだ気付いてもいなかった。


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