628 escort 【護衛】
山間に広がる森林地帯を抜けるまでに、シャマンたちは二回も襲撃にあった。
一回目は獰猛な山犬たちである。
十匹前後の痩せた猛犬たちは鬱蒼とした茂みをかき分けて急襲してきた。
一行をエサと見なしているのは明白だったが、犬狼族のウィペットは山犬を相手にするのを忌避して一切手を出そうとしなかった。
走って逃げたところで追いつかれるのは関の山なので、仕方なくシャマンは剛力駆動腕甲の拡張機能のひとつ、ガトリング・ダーツを使い、その轟音でもって追い払った。
弾は切れていたので空砲だったのだが、獣相手には十分効果があったようだ。
しかしその轟音が次の危機を招き寄せた。
「何やらやかましいと思い、出張ってみりゃあ」
「へへへ。七人のうち野郎は三人だけか」
「オメェら死にたくなかったら金目のモンと女を置いていきな」
森のどこかに根城を構えた野盗の集団が立ち塞がったのだ。
しかしシャマンは嘆息すると、
「あぁ、なんてこった。お前ら、その発言は取り消さないと……」
「もう遅いんよ。シャマン、どいて」
「おぉう」
頭を抱えたシャマンが脇に退き、レッキスとメインクーンとクルペオが前に出た。
彼女らは「女」であることを理由に、こういった連中に舐められるのを極端に嫌う。
そしてこういう展開になった場合、シャマンとウィペットの出番は決まってほぼなくなるのだ。
「気の毒な」
シャマンはウィペットと目を見かわし、同伴している魔物使いのラゴは彼女たちの活躍に目を見張った。
戦闘は予想通り、シャマンもウィペットもほとんど手を出すことなく終わった。
三十人ばかしいた野盗たちの大半をレッキスとメインクーンとクルペオで倒した。
ミナミも戦闘に参加はしたが、下っ端らしき男をひとり、なんとか退けることができたぐらいだった。
当然金姫になることも、術技を使うこともない、見ていてハラハラする泥仕合ではあったのだが。
「いやいや、強いなぁ、アンタらは!」
ラゴが本心から感心しきりと喝采していた。
野党の集団を退けてからは森を抜け、谷を越え、エスメラルダの辺境北東部に辿り着いていた。
予定ではここからエスメラルダの王都エンシェントリーフを目指し、しかる後に南下してアーカムへと向かう。
アーカム入国後は領内の闘技場がある鉱山都市コランダムへ向かう事となる。
まだまだ旅程は始まったばかり。
「アンタらと一緒なら心強いってもんさ」
ラゴが上機嫌にそう言った。
「ん? あんたもしかして、うちらを護衛に使えると踏んで誘ったんだな?」
「いやいやいや! まあ結果的にはそうなったかもしれないが、旅は道連れって言うだろ」
「調子のいいやつなんよ」
シャマンとレッキスはしてやられた、と言った顔をした。
逆に護衛としての依頼を受ける形にも持って行けたはずなのである。
あの晩、とっとと眠りたいという欲望に負けた己をシャマンは悔しがった。
「まあいつもは砂漠を横断する時も隊商に潜り込ませてもらったりしてるんですがね。今回はそう言った交渉事などはすっ飛ばせるんで気楽って奴でさあ」
ただこのラゴという男、世界中を歩き回っていると豪語するだけあってか、色々と物知りの一面はあった。
それこそモンスターの生態から分布、土地土地の気候や風俗など。
予備知識として教えてもらえる事柄はどれも今後の旅にも役立ちそうなことが多かった。
そうして旅を続けて一行は王都エンシェントリーフまで、ついに辿り着いたのだった。




