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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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602/721

602 winning prize 【優勝賞品】


 早朝だった。

 まだ日も昇らない時刻である。

 観客の居ない試合場に集められたのは、人間や亜人、男も女も区別なく、全員が剣闘士である。

 当然ウシツノもダーナもいた。

 百人を超える剣闘士が見つめる前方、壇上にこの闘技場(コロッセオ)を仕切る小鬼族(ゴブリン)のピースウイングが上がった。


「おはよウ、諸君! 今朝は君たちに重大なお知らせがあるので集まってもらっタ」


 剣闘士たちがざわつく。

 朝早くたたき起こされた不満や、ピースウイングに対する野次が上がるも、警護の武装したオーガーが周囲を囲むと次第に声は収まりを見せた。


「ご静聴に感謝するヨ。さて、このたびアーカムを支配する我らが妖精女王ティターニア様より告知がなされタ。今日より半年の後、十二年ぶりに大闘技会の開催が正式決定したのダ」


 剣闘士たちからどよめきが起こった。

 反応は様々だがその多くは血気にはやるものだった。


「大闘技会は不定期だがおおよそ十年から十五年周期で開催されル。世界中から強者が集まる最強を決める武術会ダ。もちろん、剣闘士(きみたち)は強制的に全員参加してもらうヨ」


 ウシツノもダーナも他の剣闘士たちとは違う反応を見せていた。

 困惑である。


「要は見世物だろう? 弱ったなあ。オレはそう言うの考えたこともなかったから」

「わたくしもです。なんだかどんどんこの生活から抜け出せなくなっていきそうで……」


 苦虫をかみつぶす顔を突き合わせていた二人だが、続くピースウイングの発言が周囲の剣闘士たちのヤル気にがぜん火をつけた。


「なお、優勝者には莫大なる褒美が取らされル! 金や名誉どころではなイ! 優勝者にはこの、アーカムの支配権が譲渡されるのダッ」

「アーカムの支配権だって?」

「ど、どういうことでしょう?」


 疑問に感じたのはウシツノたちだけではない。

 多くの者がその発言を訝しんだ。


「簡単なことだヨ! 優勝した者は姫神、藍姫の伴侶となれるのだッ」

「伴侶?」

「藍姫とその……結婚するって、ことですか?」

「そういうことだな。ゲココ」


 ダーナのセリフにかぶせてきたのはインバブラだ。


「オレ様も剣が使えれば参加したんだがなぁ」

「どういうことだインバブラよ」

「だからよぉ、この国を仕切ってるのは妖精女王だがな、支配者は藍姫さまなんだ。飾りだろうがよぉ。その藍姫さまを嫁にもらえばそいつも支配者の地位になれんだろ」

「ということは……」

「ざっくり言えば優勝賞品は姫神藍姫って話だ」

「それっていいんですか?」


 ダーナの疑問にインバブラは知らん、と一言いうだけだ。


「細かなルール等については後日、詳細を伝えル。以上だヨ。解散してよシ」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「浮かない顔してるなあァ、ウシツノ」


 インバブラが言うように、先ほどの告知を受けて以降、ウシツノは黙ったきりだ。

 いろいろと考えの整理が及ばない。


「どうせ剣闘士は全員強制参加なんだ。悩んだって仕方ないだろう? その日まで生き残ることを考えろや」

「それはそうだが……そもそもオレは剣闘士として日々を送るつもりは」

「まだ毒が抜けきってないだろう? こうなったらお前、そう簡単にはここを出させてもらえるとは思えねえぞ」

「その時は力づくでも」

「どこへ行くのさ? なにか用事でもあるのか?」

「……さしあたっては具体的に何も……」

「ならいいじゃねえか。ここでひと稼ぎしてもよ」

「見世物になる戦いなぞ」

「お前ももう知ってんだろ? オレたちの長老、お前の親父さ。大クラン・ウェル。ここで剣闘士やってたんだぜ」


 ウシツノの握っていた拳から力が抜けていく。


「らしいな」

「その様子じゃ詳しくは知らねえんだな。あの長老、亜人戦争直前の大闘技会、要するに三大会ぐらい前の奴でな、優勝したんだぜ」

「ッ! 本当か?」

「だから疑うんなら自分で資料庫へ行って確認してみろって」

「本を読むのは苦手なんだ……」


 まさかあのインバブラから軽蔑の目線をもらう日が来ようとは。

 ウシツノは少しだけ今の発言を後悔した。


「まあよ、あの長老もここで名声を得ていたんだ。ウシツノ。お前が怖くて逃げたいんなら好きにしたらいい。だが」

「怖がってなどいないッ」

「剣を極めるってんならよぉ、せめてテメェの親父が至った頂きぐらいは昇りつめとかないと格好つかねえんじゃねえのかね」

「……お前に言われたくない」

「けっ。行くぞ、ダーナ! 新しい鎧の寸法を測りに行くって言っといただろう」


 こちらを心配そうに見つめるダーナをインバブラは半ば強引に連れ出して行ってしまった。


「マネージャー」

「なんだ?」

「その、言い方は優しくなかったですけど、ウシツノさまのこと思ってらしたのですね」

「ゲッコココッ! んなわけあるか。あの単細胞、ひとりでいると色々利用できるからなッ。稼がせてもらうつもりよ、オレ様はな」

「んもう。そんな事ばかり言って」


 インバブラの高笑いはウシツノの耳にも聞こえていた。

 だがインバブラの言ったことを全否定する材料も見当たらなかった。


「ヤソルトも逝き、バンとも離れ離れ。アマンの行き先もわからんし、おめおめとハイランドに帰るのも……」


 ウシツノはやや後ろ向きではあるものの、大闘技会への参加を決心した。


「別に藍姫と結婚したいわけじゃないけどな」


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