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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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598 Flesh Golem 【試検体十四号】


 ツボの中身は塩漬けにされたヤソルト・クシャトリヤの生首だった。

 目と口を閉じているが、無念さが滲み出ている感はぬぐえない。


「ヤソルト、あなたを狙っていた者の首です。これで一安心でしょう」

「そうね……」


 カルスダの声は小さく冷たかった。

 ネダの聞いた話によれば、元マハラディア王国の王であったヤソルトと、その国の大臣の娘であったカルスダは婚約していたという。

 だが古い伝統、自然に生きるという王国の考えに、カルスダたち若い世代は反発を覚えていた。

 清貧という言葉に踊らされ、豊かさと広い世界に出ることを拒み続けた王国は、台頭した妖精女王率いるアーカムの軍門に下る。

 黒魔術、とりわけ生物の進化に興味を持っていたカルスダと、正規軍を指揮していたベリンゲイ将軍が王国を裏切りアーカムに通じたのた。

 結果として王国は滅び、国民は散り散りに、王家は打倒され、ヤソルトはひとり野に下った。


 古き無能の王として喧伝されたヤソルトは、それ以後、一戦士として身をやつし、復讐に生きることとなった。

 そう噂されている。


「ヤソルトではないわ」


 冷たい声が少し熱を帯びて言った。


「は?」


 ネダとメルナは意味が分からず素っ頓狂な声を上げた。


「いや、その首は間違いなくヤソルトのものです。私が斬ったのですから」

「あなたが?」

「正確にはドルコンの手を借りて。ご存知でしょう?」

「ベリンゲイの弟ね。今は盗賊ギルドを仕切っているって」

「そうです」


 つまりはネダはヤソルトと手を組むのではなく、ドルコンの介添えでヤソルトの首を手土産に、アーカムで力を持つ三博士の庇護を求めたのである。

 ネダは自身の力の限界を知っている。

 誰よりも力を持ち、すべてを従えるほどの器量はない。

 なら大きな力の下でその権勢にあやかるのが得策と考える。

 かつては世界最大と言わしめたマラガの盗賊ギルドに。

 闘技場(コロッセオ)では次代のチャンピオンと持て囃された悪童の牛頭ブロウに。


 そしてこれからは三博士。

 アーカムという、より国家の中枢に入り込む機会を得たと思っていた。


「でもこれはヤソルトではないの。生憎だけど」


 その確信めいた一言はネダを狼狽させるものだった。

 そんなはずはない!

 そんなはずが、あってはならない!


「しかしッ……」

「これは試検体第十四号。わたしが造った人造人間(フレッシュゴーレム)よ」

「ッ……」


 ネダだけでなくメルナも驚いた。

 あれほど人間らしい戦士が、ゴーレムだという。


「本物のヤソルトはもうこの世にいないわ。マハラディアが陥落した時に、燃え盛る城とともに焼け死んだから」


 カルスダは部屋の奥へとつながる扉に手を掛けた。


「見なさい。この部屋を」


 扉を開けると二人を奥へと(いざな)う。


「うわぁッ」

「なッ」


 思わず驚きと忌避の声を上げてしまった。

 その部屋は室温を抑えているらしく、寒々しく、そして狂気に満ちていた。

 

 部屋の半分はあらゆる動物、亜人、人間の死体が保管され、部屋のもう半分には真空パックされた何人ものヤソルト・クシャトリヤが天井からレールに沿って吊るされていた。

 この部屋に動く者はいない。

 どれもが死んでいるか、または最初から生命を持たないかのどちらかだ。


「試検体は生物の死体を繋ぎ合わせて作っているの。でもまだ完成の域に達していない。長年の研究の成果を探っているのだけど、もうひとつというところね」

「死体を繋ぎ合わせた……人形(フレッシュゴーレム)……」


 メルナの目は驚きから興味へと変わっていた。

 ネダの目は恐怖と不快感に変わっている。

 そのため声も詰問調になった。


「なぜヤソルトの形にしている?」

「彼は最期に裏切った私を憎んでいた。そんな彼を元に造れば、必ず私を殺そうと私の元へやってくる」

「質問に答えていないわ」

「各地を周遊し、経験を積んだ彼が、高確率で私を殺そうとして私の元へ戻ってくるのよ」


 カルスダはいとおしそうにヤソルトの首を小さなテーブルの上に置いた。


「肉体の一部でも回収できれば、その間に積んだ知識や経験、思い出までも次代にコピーできるわ。十五号として生まれる彼は、十四号の彼よりも価値がある」


 ネダは背筋が凍る思いだった。

 ヒトとしての倫理観をとやかく言える身分でないことは承知しているが、このカルスダという女はそんな領分を超えてしまっている。


「ところで、あなたには謝礼をお支払いしないといけないわね」

「謝礼……」

「ええ。魔獣の卵ではお世話になったし、こうして十四号の頭部も届けてくれた」


 いつの間にかカルスダはネダに触れられるほど間近に来ていた。

 剣闘士として、また一流の暗殺者としても腕を振るってきたネダが気付くよりも早く。


「どうしてあなたは包帯まみれなのかしら」

「それは……全身に火傷を負って……」


 どうしたわけか。

 意に添わず自身の惨状をさらけ出そうとしてしまっている。


「火傷? どうして?」

「紅姫にやられた」

「姫神ね。この数年、私も最も興味をそそられる存在よ。もっとも、私が一番興味あるのは黒姫だけども」


 カルスダがネダの包帯を解き始める。

 やめてほしい、とは思わなかった。

 ネダは抵抗を見せず、カルスダはネダを一糸まとわぬ姿にした。


「可愛そうに。治してあげるわ。いいのよ、お礼は。これは私からの謝礼なんだから」


 急な睡魔がネダを襲った。

 暗闇に落ちるのをどうしても抗えない。


「ゆっくりお休みなさい。目が覚めたら、とびきり強くて美しい、戦闘怪人(ケンプファー)になっているわ」


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