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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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592 answer 【強さの答え】


「誰かのため? 自分以外の誇りのため?」


 アナトリアも剣を構える。

 一分の隙もない。

 その構えには静寂があり、その内には怒りの感情も見える。


「オレが欲しいのは言葉ではない。答えだ。オレを打ち負かすことのできる者からの」


 激しい打ち込みが来た。

 上段からの攻撃をウシツノは逃げず、躱さず、いなさず、受けた。

 ズシリとした衝撃で両足が地面にめり込んだように思えた。


「ウォッ」


 豹の咆哮がウシツノの鼓膜を破るかと思えた。

 アナトリアが力任せにウシツノを押し潰そうとする。

 だが、はるかに小柄なウシツノが潰されることはなく、逆に少しずつ押し返し始めた。


 ガィッン、と音がして、金属同士が弾き合う擦過音が続いた。


 二人の剣は離れ、すぐにまた交差する。

 ウシツノの剣戟をアナトリアが弾き、アナトリアの剣戟をウシツノが弾いた。

 ひたすらに剣一本での応酬が続いた。

 どちらも技を惜しみなく披露し、防御と体捌きで致命傷を免れる。

 骨や内臓に達するダメージはどちらも回避しているが、浅い切り傷は数知れない。

 ウシツノの顔や両腕には多くの血が滲み、反対にアナトリアの流血は左足に集中していた。


「体格差が如実に表れているわ」

「え?」


 試合場を降りたダーナは開け放たれた扉の内側で観戦していた。

 その隣には魔物使いの少女リオもいる。

 二人ともウシツノの無事を祈りつつ、これまで固唾をのんで試合を見守っていた。

 しかしここにきてダメージに差が出てきた。

 ダーナの一言にリオはたまらなく不安を覚えた。


「チャンピオンの攻撃は体格差からおのずとウシツノさまの上半身に集中します。正直、一度でもまともに喰らってしまったら御終いでしょう」

「そんな」

「ですがウシツノさまの攻撃はチャンピオンの急所にはなかなか届きません。上半身へ斬りつけようと思えば先ほどのように跳びあがる以外ないのですが」


 そんな大技をみすみす放たせてくれるはずがない。


「結局手の届きやすい足元への攻撃に終始してしまっています。一撃でも貰えば御終いのウシツノさまには分が悪すぎです」


 集中力をどれだけ維持できるのか。

 体力が限界を迎えれば集中も途絶える。

 ダーナにはウシツノがあまりにも分の悪い闘いを強いられていると思えてならなかった。


「なんとかならないんでしょうか?」


 リオの問いにダーナは答えられなかった。


「これが戦場での闘いなら周囲の不確定要素などが絡み合うのですが」


 一対一の試合形式である以上、その不確定要素はできる限り除去される。

 もしここで負けたとしても、戦場なら結果は違うかもしれない。


「ウシツノさまは今まで戦場や野試合ばかりだったそうです。反対にチャンピオンはこの闘技場で勝ち抜いてきた経験があります」

「それじゃあ……」


 リオの震える声にダーナは明快な答えを提示できない。


「信じるしかありません。せめて無事にウシツノさまがわたくしたちの所へ戻ってこられますように、と」



 ワッ!



 観衆の声援が大きく鳴った。

 勝機を見出したかのように、アナトリアの攻撃に激しさが増したのだ。

 ウシツノはその攻撃を搔い潜りながら応戦している。

 しかし剣を躱した時だった。

 アナトリアの爪がウシツノの左肩をザックリと切り裂いたのだ。

 血がドバっとあふれ出し、観衆の半分は息をのみ、もう半分は歓声を上げた。


「豹の武器だ」


 アナトリアの小さなつぶやきはウシツノの耳に届かなかった。

 会場中にけたたましい鳴り物や怒号が飛び交い、闘いのクライマックスを予感させるからだ。


 その期待に応えるため、アナトリアは剣を上段に構えた。

 ウシツノは右手で刀を握り、左肩は完全に下ろしている。

 ボタボタと流れ落ちる血流で足元の白い砂が赤い湖になる。


「これまでだ。オレは答えを求め次の闘いに臨むことにする」


 剣がウシツノに向かい振り下ろされた。

 容赦のない、暴風を生み出すほどの一撃。


「風を感じるんだ……」


 風に抵抗してはいけない。

 風と共に流れる。

 心も体も。

 同化する感覚。


 そこに違和感が生じれば、自然に体は動く。


 一撃を寸差で躱すと同時に神速の剣捌きを連続してアナトリアの左足に叩き込んだ。


「なッ」


 ウシツノは剣を振り上げアナトリアの背後に立ち、アナトリアは驚いて振り返ろうとして動きを止めた。

 左足が何か所も切り裂かれていた。

 力が入らず、体重を支え切れない。


「ハヤブサ流剣法・二の秘剣。 乱気流(タービュランス)


 膝を着いたアナトリアの目の前に自来也を突き付けた。


「負けた相手の言い分になら従うつもりだったのか? 甘えるなよ」

「ッ……」

「強さの意味なんて、オレだって知りたくて仕方がないんだ」


 アナトリアの全身から力が抜けていった。

 うまくは言い表せないが、憑き物が落ちたような気がしたのだ。

 剣を握っていた指が力なく開くとクロヒョウは一言。


「参った」


 とだけ告げた。


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