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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第七章 神威・継承編

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586 purpose 【目的】


「ひとつ聞いておきたいことがあるんだけど?」


 話を終えて帰ろうとするヤソルトの背にネダは声を掛けた。


「なんだ?」

「昨日のことを覚えている?」

「昨日?」


 ヤソルトは眉尻を上げ考え込む振りをした。

 沈黙がしばらく続く。

 とぼけているのか。

 質問の意味を考えあぐねているのか。

 それとも本当に覚えていないのか。


「なら質問を変えるわ。この街の盗賊ギルドと何か因縁でもあって?」

「盗賊ギルド?」


 次も同じような反応だった。

 しばらく思案顔だったヤソルトだが、やがてポツリと話し始めた。


「ああ、そういえば、この街の盗賊ギルドにいるんだったな」

「誰のこと?」

「ドルコンだ」


 ドルコンとは盗賊ギルドを仕切っているギルドマスターのことだ。

 四十がらみの中年だが、生き旺盛で支配欲も強い。

 まあそれぐらいの輩でなければ盗賊ギルドなど取り仕切るのは無理であろうが。

 ここコランダムは元々鉱山都市であった名残か、「白も黒にする男」、もしくは「黒も白にする男」という意味から〈灰色石(グレイ・ジェム)〉ドルコンとあだ名されている。


「あのドルコンと何があって?」

「奴はベリンゲイの実弟だ。それで十分だろう?」


 ネダは納得した。

 ベリンゲイとは現在アーカムの戦闘怪人(ケンプファー)を製造する施設、通称〈アリの巣〉の司令官だ。

 そしてそのベリンゲイはこのヤソルトが治めていたマハラディア王国の元将軍であった。

 であればドルコンもマハラディアの要職に就いていたのであろう。

 ちなみにカルスダという女もマハラディアの大臣職を務めた者の娘だった。

 ヤソルトの許嫁でもあったらしいが、今は妖精女王に仕え戦闘怪人をこさえる側にいる。


「だから襲撃したのね。でもなんだか軽率だったんじゃ」

「襲撃? なんのことだ?」

「なにって。あなたではないの? 昨日の髑髏の正体」

「さっきも聞いたな? 昨日のことだと? オレは何もしていないぞ」

「えっ」


 思い違いか。

 ネダは昨日盗賊ギルドを襲った髑髏顔の襲撃者はこのヤソルトだと踏んでいたのだが。


「昨日は娼館にいた。昨日だけではない。クロヒョウの奴に負けてからほぼずっとだ」

「なんですって?」

「なんだ、軽蔑しているのか? 思いもよらず潔癖なんだな」

「そんなことはどうでもいい……」


 当てが外れたか。

 復讐に燃える一匹オオカミと思っていたが、女に慰みを得ようとする程度とは。

 思わず親指の爪を噛んでいたネダの元に、牛頭ブロウの取り巻きのひとりが報告を携えて現れた。


「あ、姐さん!」

「チッ」


 ネダは舌打ちを隠そうともしなかった。

 すでに剣闘士として終わりを迎えた牛頭ブロウにネダは何の価値も見出していなかった。

 なのでその取り巻きに自分が頼られるのはうざったいだけで帰って身動きしずらくなる。

 このうえ牛頭ブロウの面倒を、なんて話にでもなってはたまったものじゃない。

 あのカエルもすんなりととどめを刺してやればいいものを。

 そう考えるネダはもうひとりのカエル族のことも思い出していた。

 マラガにいたころ、紅姫と共にいたあの生意気そうなカエル。


「カエル族ってのはどうにも我慢ならないね」


 思わず声に出していたことに気付かずにいたのだが、やって来た取り巻きのひとりは仰天した。


「姐さん、もうご存知だったんで?」

「なにがだい?」

「姐さんの次の試合相手ですよ。丁度この野郎も一緒じゃねえですか」


 その男はヤソルトを見て顔をしかめる。

 意の一番に知らせに来たつもりだったのに、どうやら遅れてしまったらしいと思ったのだ。


「言ってる意味が分かんないんだよ。何を言いに来たってのさ!」


 少し怒気をはらんだネダの声にその男は呆けて見せた。


「え? まだ知らないんですか? 姐さん、次の試合のこと」

「だから何だってんだい!」

「ですから、姐さんは三日後、この男と組んでついに剣の舞姫(ソードダンサー)ダーナとやるんすよッ」

「なんだって!」


 ネダだけでなくヤソルトも驚いていた。


「こいつと組んで、ってどういうことだい?」

「タッグマッチっすよ。姐さんとこのヤソルト・クシャトリヤ。相手はあの小生意気なダーナと調子乗ってるカエルっす」


 今度こそヤソルトの目が大きく見開いていた。

 ネダはこのヤソルトがあのカエルにどんな感情を持っているのか測りかねていたが、見るからに困惑した様子が見て取れた。


「三日後だね?」

「へい! 姐さん、牛頭ブロウの旦那の仇、お願いしやしたぜ」

「わかった。もう行っておくれ」


 ネダの様子が有無を言わせない感じだったので、男はそそくさと立ち去った。


「聞いたとおりだよ」

「……」

「どうやらあたしもアンタも切り捨て候補に入ったようだね」

「そうなのか?」


 ヤソルトはクロヒョウにあっさり負けてしまった。

 もともと嫌われていたようなので、伸びしろを待つよりも観衆の留飲を下げる道具にされたのだろう。

 そしてネダは、牛頭ブロウの後ろ盾を失い、人気急上昇中のダーナの引き立て役に祭り上げられた。

 ネダは自分たちをそう評価した。


「さ、どうする?」

「どうするとは?」

「察しが悪いね。三日後に試合だってさ。あんたあのカエルと真っ向から闘って勝てるのかい?」

「さあな」

「強がるのはおよし。それに今回はタッグマッチ。あのダーナもあれで気を抜けない相手だよ」

「評価しているんだな」

「フンッ! アイツが来るまでは女剣闘士としてはあたしがトップだったんだ。だがあの小娘は侮れない。ショーアップした試合ばかり組まされているけど、実力はある」


 ネダはもう躊躇している暇がないと告げた。


「目的は闘技場(ここ)にはないんでしょ?」


 ネダの言わんとしていることを理解したヤソルトは頷いた。


「なら三日後に決行よ」

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