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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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585 Tag Match 【タッグマッチ】


「いない! どこ行ったんだ」


 ウシツノとダーナが自室へ戻った時にはヤソルトの姿はなかった。


「さっきまで寝ていたはずなんだ。まだ一刻も経っていないのに」

「ご自分で出ていったのであれば、まだ毒の効果はさほどではないと安心できますが」

「うん……」


 二人してからの寝台を見つめるばかりだ。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「どこへ行こうというんだ?」


 少しだるそうな声で、ヤソルトは前を歩く包帯まみれの女を呼び止めた。


「他人の目の届かない場所がいいと思って」

「ここでいい。ここで十分だ」


 包帯まみれの女、木乃伊蜂(マミー・ザ・ビー)のネダは嘆息するとガス燈の灯りが届かない位置のベンチに腰を下ろした。

 闘技場(コロッセオ)コランダムは元は鉱山都市なので、大部分が地下に広がっている。

 そのため街区の至る所に建てられたガス燈の灯が一日中街を照らしているのである。

 ヤソルトは腰かけず、ネダの正面に立ったままだ。

 いつも手にしている長剣を鞘に入れたまま、半ば寄り掛かるようにして立っている。

 本調子ではないのかもしれない。

 そう思ってもネダは顔に出さず、ヤソルトを見上げた。


「用件を言え。カルスダと繋ぐための」

「そうね」


 ヤソルトの部屋に押し掛けたネダは、寝ていた彼の興味を引くための話を引っ提げてきていた。


「カルスダ博士へ引きあわせてあげることも可能よ。ただし条件があるけど」


 その言葉にヤソルトは重い体を引きずって、ネダについて街区まで出てきたのだ。

 もちろんネダはウシツノが留守にしているのを確認しての行動だ。


「あたしはある商いでカルスダ博士と連絡が取れるわ。あなたがあの女に私怨を抱いているのは知っている」

「私怨ではない。義憤だ」

「……まあ、その辺の解釈はどっちでもいいわ。あたしにはね」


 ネダは自分を見下ろす男に対し、上目遣いで妖しく微笑んで見せる。


「カルスダに会えると言ったな? いつだ」

「無条件で、とは言ってないわよ」


 ヤソルトの目が厳しくなる。

 しかしネダもひるまない。


「今のあなたが真っ向から闘って、あたしに勝てるのかしら?」

「無論だ」

「そうかしら?」

「何が言いたい?」

「解毒剤、もうずいぶん飲んでいないのでしょ?」

「……」

「あたしの仕事を手伝ってくれるなら、解毒剤を分けてあげてもいいし、カルスダ博士にも会わせてあげられるわよ」


 ネダは上目遣いのまま組んでいた脚を左右組み替える。

 全身包帯姿ではあるが、それがかえって彼女の肢体の艶めかしさを際立たせてもいた。


「今のままじゃあ試合にも満足に勝てず、このまま捨てられていくだけよ。ゴミのようにね」

「フン……」

「あなたは自分の立場が分かっていないわ。クロヒョウにあっさり負けた時点で、ピースウイングは嫌われ者のあなたの最期を企画しているはずよ。そう遠くないうちにね」


 ヤソルトは何を思うのか。

 ほとんど表情を変えずにいるためネダにも推し量れずにいた。

 しかしもう後戻りはできない。

 追い詰められているのはネダも変わりないのだ。


「この闘技場(コロッセオ)を抜け出す。カルスダに手土産を持ってね」

「抜け出す?」

「カルスダならあたし達を解毒できるはずよ。彼女が喜ぶものを持参すればなおのこと」

「それはなんだ?」


 食いついてきたと思いネダはほくそ笑む。


「あたしは解毒してもらい自由を得る。あなたは復讐でもなんでもすればいいわ」

「なんだと聞いている」


 ネダはニヤリとした。

 そしてゆっくりとそれを口にのぼらせて聞かせる。


「魔獣の卵。できるだけレアなものを」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ヤソルトがいない以上、自室にこもっていても仕方がない。

 ウシツノはダーナと連れ立って剣闘士の訓練施設へと足を運んだ。

 多くの剣闘士が鍛錬をしている。

 当然だろう。

 己を磨きぬいた者だけが生き残れるのだから。

 そんな場に全くと言っていいほど鍛錬とは無縁の者がひとりいた。


「よおウシツノ。それにダーナも一緒か。丁度いいや」

「インバブラァ」


 ウシツノは隠そうともせずに嫌な顔を見せた。


「そんなツラァすんなよ。世話してやってるってのによ」

「一度だけだろ。それも条件付きで」

「その条件を払ってもらうぜ」


 インバブラがニヤリとして二人を交互に見やる。


「約束、覚えてるよな?」

「ああ。次のマッチメイクもお前の希望を聞く。だろ?」

「そうだ。次の試合、決めてきたぞ」

「もう?」

「こういうのはスピード感が大事なんだよ」


 インバブラがゲコゲコと笑う。


「ピースウイングの奴も乗り気だったぜ。またメインイベントだな」

「今度は誰とだ?」

「タッグマッチでやってもらう。お前とダーナでコンビだ」


「「え?」」


 ウシツノだけでなくダーナも驚いていた。

 思わず二人の声が重なった。


「ウシツノとダーナでタッグを組むんだよ」


 もう一度言い聞かせてやった。

 二人は互いの目を見て困惑する。


「あ、相手は?」

「二人ともに因縁のある組み合わせさ」


 因縁などウシツノには思い当たる節がなかった。

 インバブラはもう一度笑う。


「試合は三日後だ。相手は木乃伊蜂(マミー・ザ・ビー)ネダとヤソルト・クシャトリヤのコンビだぜ」


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