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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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580/721

580 start of the match 【試合開始】


 外はやけに騒がしいが、ウシツノの心は静寂に満たされていた。

 闘技場の内も外もあふれ返る観衆の熱気で真夏のような火照りを覚える。

 しかしひとり控室にこもるウシツノの周囲は、ピンとした寒気すら感じるほどの冷気に包まれている。

 部屋に入ったダーナがそう錯覚するほどに、ウシツノは静かに座していた。

 ダーナがいることに気付いているのだろうか。

 眠っているわけはないと思うが。

 そうダーナが訝しみつつたたずんでいると、ウシツノの目がゆっくりと開いた。


「どうしたんだ? 五分もそこでジッとして」

「き、気付いていらしたのですか?」

「ああ」


 ゆっくりと立ち上がったウシツノは身体をほぐし始める。

 呼吸を整え、自来也の握りを確認する。


「その、ヤソルト様とはお会いできまして?」

「いいや」


 結局ヤソルトは自室に戻ることがなく、ウシツノは彼がチャンピオンに負けたあの日以来、一度も会えていなかった。


「まだたったの一週間だ。子供じゃないし、どっかで無事にしてるだろうさ」

「それは、そうでしょうが……」


 それ以上ダーナは言わないでおくことにした。

 なによりウシツノ自身、これから緊張を強いる一戦が待っているのである。


「おう、ウシツノ。調子はどうだ?」


 そこへインバブラまでもがウシツノの控室に現れた。


「マネージャーもウシツノ様が心配で応援に来られたのですね」

「は? んなわけないだろ」


 ダーナのセリフを即座に否定した。


「こいつはカエル族としてはたしかに強いが、相手はあの牛頭ブロウだ。勝つにしろ負けるにしろ、まあ無事では済まないだろうよ」

「そんな……」

「オレ様を責めるなよダーナ。マッチメイクをしたのはオレ様だが、望んだのはこいつだ。……約束は覚えてるんだろうな、ウシツノ?」

「ああ。次の試合はお前の選んだ相手と試合してやるよ」

「ならせいぜい勝つことだ。そんでオレ様を儲からせてくれると期待してるぜ」


 ウシツノは小さく嗤うと静かな足取りで試合場へと向かった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 大柄な野人と小柄な剣士が相対していた。

 牛頭族(ミノタウロス)の牛頭ブロウは巨大な戦斧(グレートアックス)を軽々と担ぎ上げ、目の前の哀れな小人に嫌な笑いを見せている。

 対するカエル族(フロッグマン)はこれまた自身の身の丈には不釣り合いな大太刀を腰に下げ、静かに地面を見つめていた。

 これまで四戦四勝プラス一無効試合のウシツノは、北の大国ハイランドが称号を与えし剣聖として、デビュー以来危なげない勝利を重ねてきた。

 初戦と無効となった一試合を除き、対戦相手を死に至らしめることもなくスマートに勝ち進む姿に、特に若い女性層からの人気が上がり始めていた。

 反対に牛頭ブロウは容赦がない。

 これまで四十二戦無敗。

 うち三十人以上の剣闘士の命を奪っている。

 相手の命は必ず奪う。

 それがこのミノタウロスのやり方であった。

 あまりに残虐な勝利ばかり求めるので、しばらく対戦相手が魔物ばかりとなったのだが、それでも相手の命を奪う勝利に変わりはなかった。

 その血の量に熱狂するファンも少なくない。

 彼が出る試合は必ず荒れるので、それを求める危険なファン層もまた会場に多く出入りする。

 ピースウイングは立場上、警備の数を増員するが、それ以上に牛頭ブロウが出場する日は稼ぎも普段の倍になるので基本お咎めはなしだった。


「よお」


 牛頭ブロウが目の前の小さなカエルに呼びかける。


「オメェからの御指名なんだってな。そんなに死に急ぎてえのかよ」


 ウシツノは何も答えず、ただチラリと上目遣いになるだけ。


「それとも、このオレを倒せば一気に名が上がると思いあがったか? バカめ。チマチマと雑魚狩りをしてればいいものを」

「お前を倒して上がる程度の名声に興味はない」


 冷めたウシツノの口調に牛頭ブロウは頭にきた。


「剣聖が何ほどだってんだ! 所詮は北の負け犬ハイランドが勝手に言ってるだけじゃねえか。確か前はこきたねえトカゲのジジイだったな? くだらねぇ。剣聖なんぞ、ここでは雑魚と一緒なんだよ」

「お前は名前と戦っているのか?」

「ああ?」


 ウシツノはそれ以上何も言わず、ただ開始の合図を待った。

 牛頭ブロウは生意気なこのカエルをどう嬲り殺すか思案していた。


「足を引き千切って焼いて食ってやろうか。カエルの肉はトリみたいなんだってなぁ」


 開始が間もなくとなると会場のボルテージも上がりまくった。

 すでに歓声が全ての声を聞こえなくしている。

 最終オッズは八対二で牛頭ブロウが圧倒的優勢となった。

 やはり場数、そして三倍以上の体格差、人気によるものである。

 大多数はミノタウロスの勝利を手堅いと踏んだのだ。


 闘技場に審判など居ない。

 開始の銅鑼が響いたら、どちらかが降参するか、戦闘不能になるか、あるいは死ぬか。

 そうならない限り終了はない。


 腹の底から響くような厚い銅鑼の音が響き渡った。


 牛頭ブロウの目の前に白刃が煌めいた。


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