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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第一章 姫神・放浪編

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058 アンデッド

挿絵(By みてみん)


「レイ殿ッ」

「レイさん」


 膝を着き呆然とするレイの元へウシツノとアカメが駆け寄った。

 レイは恐ろしいものを見るように肩を抱いて震えている。


「わたし、あれが、わたしなの……?」

「覚えているのですか?」

「記憶があるのか?」


 二人が同時に同じ意味の質問を投げかける。

 レイは震えながら、こくんと頷いた。

 それ以上言葉は出なかった。

 レイは泣くでもなく、ただ静かに手に馴染む、黒の剣を見つめた。

 そのやりとりでアカメはハッとした。


「もしかしてレイさん、我々の言葉が……」

「え? あっ」


 アカメの問いに気付いたレイが顔を上げるのと、その様子を離れて見ていた魔女はに背後から近づく影が降り立ったのが同時だった。



 ドスッ!



 魔女は自分の背中から胸を貫いて、一本の細い剣が長く突き出ている様を見やった。

 背後には赤い鳥の騎士が立っている。


「ゴフッ」


 思い出したかのようにやや遅れて、魔女の口から鮮血が零れ落ちた。


「貴様には死んでもらう。でなければ黒姫は日々安らかに過ごせぬ」


 タイランは刺したレイピアで魔女の胸をえぐりながら一気に引き抜いた。

 傷口からおびただしい量の血が溢れ出る。

 どす黒い血だまりの中にオーヤは倒れ伏した。

 その光景を目の当たりにして、レイの目はまたしても恐怖に彩られる。


「やったのかッ」


 タイランの奇襲にウシツノは喝采を上げ、アカメもいとまず安堵を覚えた。

 だがそうではないことがすぐに分かった。

 魔女が、全身を自らの血で濡らせた、胸に穴が開いた魔女が、何事もなかったかのように起き上がったのだ。

 タイランに顔を向けると鮮血をびりつかせた口元を妖しく歪めて微笑する。

 タイランは再び、今度は正面から魔女の心臓を貫いた。

 オーヤは避けようとも防ごうともせず、されるがままにした。

 確かな手ごたえは感じたが、魔女は倒れない。

 タイランは剣を抜き距離を取るように離れた。


「ふふ。気は済んだかしら」

「そうか。貴様、不死人(アンデッド)なのか」

「アンデッド?」


 ウシツノの聞き慣れない言葉に魔女が哄笑で応える。


「あはははは! その通りよ! 私はある秘術で不死となった。いくら斬られようとも死にはしないわ」

「きさま、一体何者なのだ……」


 血を流しながら笑う魔女にゲイリートまでもが底知れぬ不気味さを感じていた。

 今更ながらにこのような魔道の者をわが軍に引き入れてしまった事を後悔した。

 たとえ王に疎んじられようとも、身命を賭して魔女を拒絶するべきだったのだ。


「ふふふ」


 ゲイリートの悔悟の念をわかりつつも、オーヤは笑い、赤い騎士に向き直った。


「さっき、私が死なないとあの娘が安心できないとか言ってたわね」


 そう言ってオーヤはレイを指差す。


「逆よ。もうあの娘は私にしか救いを見いだせないの。なぜだかわかる?」

「……」


 タイランは答えない。

 この場にいる誰もが魔女の真意を汲めずにいた。

 魔女はそんな無知に対し当然でしょうねという顔をする。


「あの娘の苦しみが分かるのは、同じ苦しみを負った者だけ。かつて同じ黒姫であった私だけだからよ」

「ッ」


 その発言はレイに衝撃を与えた。

 レイはこの時まで魔女の正体を知らなかったのだ。

 まさかこの恐ろしい魔女が、自分と同じくこの世界に迷い込み、そして今は化物になった。

 それならば、そうであるならば、じゃあ、もしかして私も……同じ…………。

 レイの中で不安が恐怖となって渦巻いていく。


「わかった? あの娘は私といるのが一番安心なのよ。私だけがあの娘の味方になれるの」

「そ、そんなこと……」


 違う! と言いかけてウシツノは黙り込んでしまった。

 確かに、黒姫は得体が知れなかった。

 それはあくまで黒姫のことであり、レイのことを言いたいのではない。

 だがシオリの覚醒した白姫はまさしく女神のようであった。

 光に包まれ、癒し、戦意を鼓舞された。

 その姿も神々しい者であった。

 ウシツノは我知らず、姫神というものに心酔していたのだ。

 けれども今しがた、間近にした黒姫は全くそうではなかった。

 得も言われぬ恐怖を振りまいていた。

 そう、あれは恐怖だった。

 モロク王ですら身をすくませていたではないか。

 あの恐怖はどんな勇者も英傑も凍り付かせる闇の魔力に他ならない。

 その葛藤が逡巡となり、ウシツノの実直さにストップをかけてしまった。

 魔女はそれを見抜いていた。


「ほらね。黒姫とは恐怖を振りまく者だから、誰からも愛されないの」

「ちがう、やめろ……」

「あの娘の苦しみを、哀しみを、理解して和らげてあげることができるのは、同じ黒姫であった私だけよ」

「やめろッ」

「お前たちはお呼びじゃないのよ! 黒姫は私のもの! 誰にも渡さないッ」

「ッ……」


 誰も声を上げられなかった。

 反論出来なかった。

 違うと言ってやれなかった。

 その沈黙はレイの心の何かを壊した。


「さあいらっしゃい。あなたの力の使い方は私が教えてあげる」


 魔女が優しく微笑んでレイに歩み寄った。

 近寄って来る魔女をレイは迎えるように立ち上がろうとした。


「待って! レイさんッ」


 そのレイを呼び止める、優しいけれど凛とした声が響き渡った。

 息を切らして駆け込んでくる少女の姿があった。

 手に白く長い美しい剣を持っている少女。

 レイと同じくこの世界に迷い込んだもうひとりの姫神。

 白姫シオリが魔女とレイの間に割って入ろうとしていた。




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