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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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574 Minotaur 【牛頭ブロウ】


 ウシツノがこれほど厳しい顔つきで歩き回ることは珍しい。

 いつもは余裕を感じさせる人懐こさが今は微塵も見えない。

 周囲の人混みをス、ス、と避けて歩く様はさすがだが、同時にその気迫に周囲の方が押されているようでもある。

 ウシツノは街区で最も栄えているという酒場通りを歩き回り、やがて目当ての店を見つけ入店した。


「あ~ら、可愛いカエルさん!」

「立派な刀ですねぇ。あなたも剣闘士?」


 店に入るとすぐに二人の、若い肌を見せびらかすような服を着た女がすり寄ってきた。

 この店の従業員(キャスト)だろう。

 ウシツノは店内をぐるりと見まわしてから女に尋ねた。


「インバブラというオレと同じカエル族の奴がここに来ていないか?」

「あら、インバブラさんのお友達?」

「……そうだ。急いで話したいことがあるんだ」


 お友達と聞かれ一瞬返事に詰まったが、女はウシツノをインバブラの席へと案内してくれた。


「おやあ? ウシツノじゃぁないか。よくここがわかったなあ」


 インバブラはボックス席の中央に座り、ひとりで四人もの女の子を侍らしていた。

 だいぶ派手に飲んでいたようで、顔色は酔って真っ赤だった。


「ダーナに聞いたんだ。たぶんこの店だろうって」

「おい、みんな、よく聴け! このウシツノは剣闘士だ! しかも剣聖なんだ! 将来のスターなんだぞ! なあ?」


 インバブラの声に周りの女の子たちも囃し立てる。


「まあ座れよ。同郷のよしみだ。一杯ぐらい奢ってやるさ」


 そう言って隣の女にグラス一杯のワインを注文する。


「それより、インバブラよ。お前にひとつ頼みがあるんだ」

「……はあ? お前が、このオレ様に?」

「ああ」

「村一番の嫌われ者のこのオレ様に? 偉大な長老のひとり息子である剣聖殿が?」

「ああそうだよ、インバブラ。すまん、ちょっと二人だけにしてくれないか」


 ウシツノは女の子たちを退席させるとインバブラの正面にドカッと座った。


「な、なんだよ?」


 インバブラは多少及び腰になっている自分をなんとか誤魔化そうとして、一息にグラスに残った酒を飲み干した。


「オレ様になに頼むってんだ?」

「マッチメイクだ」

「はあ? 誰とやりてえんだ?」

牛頭(ゴズ)ブロウ」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ネダ?」

「アクシデントとしてダーナさんを始末できるように、細工しろって、脅されて」


 リオの声はだんだんと小さくなっていき、最後は聞き取れないほどだった。


「どうして脅されるんだ?」

「その……それは……」


 言い難そうにするリオだったが、しかし誰かに救いの手を差し伸べてほしいという期待もあり、ポツリ、ポツリと話し始めた。


「わたしの一家は闘技場お抱えの魔物使い(モンストルテイマー)として生計を立てています。と言っても仕事のほとんどは父と二人の兄が担い、わたしはエサやりなどの雑務がほとんどなんですけど」


 魔物使い(モンストルテイマー)の仕事は大きく二つある。

 捕獲と調教だ。

 兄二人は外へ出て、珍しい魔物やその卵を捕獲してくる役目。

 残った父が魔物の調教を担当しているという。

 しかし兄二人は魔物捕獲の旅に出て一年近く帰らず、そして父は現在寝たきりで、魔物使いの仕事はほぼリオひとりで賄っているらしい。


「どうして?」

「暴力を振るわれたんです。闘技場一の荒くれ者、あの牛頭(ゴズ)ブロウに」

「牛頭ブロウ?」


 牛頭ブロウは牛頭族(ミノタウロス)の剣闘士である。

 牛頭はあだ名である。

 とても気性の荒い奴で、対戦相手をどれだけむごたらしく死に追いやるかを追求する蛮人である。

 身体はデカく、鋼の筋肉。

 巨大なグレートアックスを片手で振り回す偉丈夫。

 もちろん強い。

 戦績は全戦全勝。

 しかも必ず相手を死に至らしめている。

 今もっともチャンピオンである豹頭族(パンテラ)の戦士アナトリアに近い剣闘士と言われているそうだ。


「そいつがどうして親父さんを?」

「牛頭ブロウはいつも対戦相手を殺しちゃうので、しばらく剣闘士ではなくうちの魔物との試合ばかり組まされていたんです」


 ただ相手が魔物であろうと牛頭ブロウの暴挙は変わりようもなく。

 リオ達が育てた魔物も次々と殺されていった。

 そのうちにこのミノタウロスはリオの住まいであるこの場所にも顔を出すようになり、


「それで父と口論になったんです。父は魔物を多く殺されて憤っていましたから。そうしたら、あいつは、父に手を上げて」


 ミノタウロスの、それもトップクラスの剣闘士である。

 初老の域にかかった人間が素手でやり合うべき相手ではない。

 リオの父は半身不随となり、魔物の調教も滞ってしまっているらしい。

 魔物使いは希少だ。

 おいそれと変わりは見つからない。

 二人の兄は一向に帰らず、リオは現状を維持するので精いっぱいだった。


「けど、それが牛頭ブロウの魂胆だったんです。魔物相手に飽きて、また剣闘士をなぶり殺したい。そのために父を傷つける目的でここへやって来たんです」

「そうなのか?」

「ネダさんに、そう言われました」


 ネダ!

 そうだった。

 元はリオがネダに脅されていたという話だったんだ。

 ウシツノは話の軌道を戻そうと質問した。


「どうしてネダがそんな事を知ってるんだ?」

「それはネダさんが、牛頭ブロウの女だから……」


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