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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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566/721

566 hated person 【インバブラ】


「本当に、インバブラなのか?」


 ダーナのマネージャーを名乗る者がかつての同郷、カエル族のインバブラであった。


「ああ、そうだぜ。信じられないって顔してるな。ウシツノ」


 あの日、カザロの村がトカゲ族に襲撃された日、大半の者が虐殺された。

 かろうじて逃げ延びたのはウシツノ、アカメ、アマン、それと自爆したヌマーカ。

 もうひとりがこのインバブラだった。

 黄色い肌に卑屈な目、身体は細いが神経は図太く、腕っぷしが弱いくせに喧嘩っ早い。

 人の成功を妬み、楽して儲ける事ばかり考え、小銭を得るためなら()()()()ことにも躊躇しない。

 有体に言って村での嫌われ者だったのだ。

 そのインバブラとはゴズ連山の逃避行で別れたっきりだ。

 その後カエル族とトカゲ族が連合を組んだと宣言した際、カエル族側の代表として名があったことは聞いている。

 しかし音信は不通であったし、こちらから積極的にコンタクトを取ろうとも思っていなかった。


「冷てぇなあ。アマンと黒姫を解放してやったのはオレ様なんだぜ」

「え?」

「フッ。だからよ、見てたんだぜ、オレ様も。お前とアマンがマラガでトカゲ族と殺り合ってたのをよ」


 マラガでアマンとウシツノが再会した時だ。

 結果的に街の人たちも騒乱に加わってトカゲ族を追い出したのだ。


「おかげでオレ様もまたマラガに居られなくなってな、放浪の果てにここに辿り着いたってわけさ」


 得意げに話すインバブラだったが、どうやら何がしかの成功を収めているようだ。

 あつらえた上等のスーツを着ている。

 カエル族の特性で靴を履いてはいなかったが、朴念仁のウシツノにも高価な衣服であることは想像できる。

 ひとつ気になる点と言えば、インバブラは常に左手をポケットに入れたまま、決して抜こうとはしなかったことだ。


「羽振りがよさそうなのはわかるが……」


 それにはどうやらダーナが関係しているようだ。


「そうさ。オレ様は今、人生で最も羽振りがいいのさ。コイツのおかげでな」

「いえ、いまのわたくしがあるのもマネージャーのおかげですから」

「ど、どういう関係なんだ?」

「オレ様はこいつの命の恩人でな、そいでもって仕事の斡旋まで面倒見てやってるのさ」


 自慢げなインバブラの話を要約するとこうだ。


 マラガを逃げ出した後、インバブラはここ、コランダムに辿り着いたが、一獲千金を狙い闘技場で有り金全部を失ってしまった。

 下町の酒場で管を撒いていたところ、荒くれ者たちと喧嘩となり、ボコボコにされているところを通りかかったダーナによって救われた。

 ダーナと出会いインバブラは即座に試算する。

 腕は立つ。

 ニンゲンにしては。

 見た目もいい。

 ニンゲンにしては。

 探し人を追っているらしいが行方は知れず、田舎から出てきたばかりで街の流儀に疎い。

 しかも旅費もつきかけているという。


 インバブラはダーナに人探しのコツと当面の生活費を稼ぐ方法を説得すると、すぐに盗賊ギルドへと向かった。

 賭けで失った金はいつの間にやら盗賊ギルドへの借金へと膨れ上がっていたのだ。

 そこで返済の目処がついたので、闘技場の支配人に会わせてくれと嘆願した。

 この説得は命がけであったし、ぎりぎり御目通りがかなった時には心底胸をなでおろしたものだ。


 そうしてダーナの売り込みに成功すると彼女は瞬く間に人気剣闘士となったのだ。


「ぜんぜんダーナの方が命の恩人じゃないか」

「話をちゃんと聞いていたのか? 命ってのは力だけじゃなく金もまた必要なんだぞ」

「……んん」

「ウシツノさんよ、アンタも剣闘士になったんだってな。なんならオレ様がプロデュースしてやろうか? 人気者になりゃあ金も入るし命も長らえる」

「いらんよ」


 きっぱりと断るウシツノをインバブラは鼻で笑った。


「剣にのぼせ上りやがって。ま、気を付けるこった。そのうち闘技場のチャンピオンとも巡り合わせがあるだろうし、いや、それまでに死なない保証もないか」

「チャンピオン?」

「そうさ。剣匠アナトリア。豹頭族(パンテラ)の戦士、通称クロヒョウってな。さ、行くぞダーナ」


 話はここまでだ、とインバブラがダーナを連れていく。


「これから太股に巻くバンドの調節だ。そこにカジノの銘を入れんだ。宣伝費は戴いてる。それから次の試合から敵にとどめを刺すときに必殺技を使え」

「必殺技ですか? 特に用意してませんけど」

「なら考えとくんだ。毎回使え。客に覚えさせるんだ。それと技名にはクランベリー洋菓子店のスイーツ名を入れろ。新作のだぞ。そいつのぶんの契約料も頂戴済みなんだからな」

「はあ。わかりました」

「必ずその技名を叫びながら使うんだぞ。見せ場になるようにな。さ、今夜はお前を推してくれている伯爵家との食事会だ。一番上等の服を着てこい。ああ、それから……」


 漏れ聞こえてきた会話の内容はウシツノにはひとかけらもわからなかった。

 ただ闘技場のチャンピオンについてだけはどうにも気になりだしていた。


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