557 Cyclops 【バァービィー】
「闘技場だって?」
ウシツノが驚いた声で聴き返す。
「そうだ。ここは妖精女王ティターニア様所有の闘技場で、お前たち二人は今日からここで戦う剣闘士だ」
少し甲高い声で、少しキレ気味に、カウンターの魔物が説明を繰り返した。
魔物は小鬼族だった。
小柄な体躯に赤い肌、骨ばった細長い手の指に、高く伸びたワシ鼻が特徴の邪妖精だ。
ポケットの多い皮のベストとゴーグルの付いた飛行帽をかぶっている。
ピースウイングと自らを名乗った。
ウシツノはゴブリンの被る帽子を見てアマンのことを思い出さずにおれなかった。
飛行帽はアマンのトレードマークだ。
ウシツノはなんだかアマンが冒涜された気がして腹が立った。
「オレは剣闘士になるつもりはないぞ。戦いを見世物にされてたまるか」
ウシツノの発言にピースウイングが身を乗り出して睨みつける。
「いいかカエル? ここの奴らはそれぞれに経緯があってここに居る。志願した者もいれば命令されてきた者もだ。お前らは後者だ。拒否権はない。今からすぐにデビュー戦だ」
ピースウイングの合図で二匹のオーガーが二人に剣を突き付けて急き立てた。
「まて、オレたちの武器は?」
「ちゃんと返してやるよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さあお集りの皆さんッ! 本日のスペシャルマッチ! 急遽組まれました超ド級、二名の新人によるデビュー戦をご照覧いただきますぞッ」
闘技場に場内アナウンスが響き渡る。
剣闘士が戦う舞台は広々とした円形で、踏み固められた硬い土の上に白砂が撒かれている。
周囲は三メートルある高い壁に囲われ、その上は客席になっていた。
会場は満員。
様々な種族、老若男女が血に酔った歓声を上げていた。
戦いに興味を抱くだけではない。
当然ながら戦士の勝敗、生死には大金が動いているのだ。
「皆様ご承知の通りッ、デビュー戦は大変人気のコンテンツ! 分をわきまえない愚か者が派手に逝くのが人気の秘訣ッ! なんせデビュー戦に勝者として生き残る確率は26.37%。十人に三人も生き残れないのです。という事は今宵登場する新人二名も観戦するチャンスは今日を置いて他にないかもしれません」
闘技場の扉の前に立つウシツノの隣で、ピースウイングが音晶石を仕込んだ拡声器を使い口上を垂れていた。
さらにその声は会場中を這う伝声管を伝って観客の元に届けられている。
「さあ、それでは早速まいりましょう! ひとりめの犠牲者、もとい、新しき戦士の名はウシツノ! 耳聡い方ならご存じのはず! カエル族の期待の星! 新しき剣聖とは彼のことォッ」
正面の扉が重々しく開いていく。
薄暗かった舞台裏からだと闘技場はやけに明るく見えた。
ウシツノは目を細めて光りに慣れようと努める。
「ほれ、お前の刀だ」
オーガーから愛刀の自来也を取り戻す。
見たところ変な細工などはされていない。
「当たり前だ。観客が観たいのは本気の死闘だからな」
「おい、足の鉄球は?」
ずっと着けられたままの足枷を外そうという気配はない。
「早く行け」
ピースウイングの指示にオーガーがウシツノを突き飛ばすように会場へと追いやる。
「くそ。このままか? なにが生き残る確率だ。はじめからなぶるつもりじゃないか」
姿を現したウシツノの姿を見て一層観客がわき出した。
それほどまでに剣聖として自分が有名になっていたのかと思ったのだが、ピースウイングが聞こえるように教えてくれた。
「観客はお前の足枷を見て奴隷か犯罪者だと気付いたのさ! これで誰もお前に哀れみを持つことはないぞ。せいぜい観客を味方につけるような面白い戦いを演じるんだな」
そして向こう側の扉も開き、ウシツノの対戦相手がゆっくりと姿を現した。
「バァービィー! バァービィーだァ」
「きゃぁぁバァービィー」
観客のボルテージが上がった。
ウシツノの前に登場したのは身の丈が三メートルを超える一つ目の巨人。
「サイクロプスのバァービィーちゃんだァ」
強靭な身体に両手持ちの大きな鋼鉄の槌鉾を持った対戦相手が小さなウシツノの前に立ちはだかった。




