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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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553/721

553 prisoner 【虜囚】


「少し実力を見てみようぞ」


 妖精女王ティターニアが妖しく嗤うと空気が震えた気がした。

 それは女王の背中に広がる蝶の羽が細かく振動していたためだ。


「相手が戦士でないからと、つまらぬ言い訳は無効ぞ。剣聖どの」


 女王の背後からキィキィと鳴くコウモリの群れが飛び出してきた。

 鋭い牙と赤い血のような目をしたコウモリがウシツノに飛来する。


「バカ正直に立ち向かったりするものか」


 壁を蹴って反転、ウシツノは階下へと身をひるがえす。

 眼下には施設の最下層である厩舎広場がある。

 狭い通廊で得体のしれない相手と戦うつもりなどなかった。


「愚かな。下にはコウモリよりも手強い獣がおるというに」


 着地したウシツノはすぐに自身に迫る重い地響きに気が付いた。

 厩舎を破壊してビッグバイソンが突進してきたのだ。

 鋼鉄の戦車を軽々と曳く巨大な野牛が鋭い角を前面に突撃してくる。

 横っ飛びに回転しながらその突進を躱したウシツノは、素早く起き上がると剣を青眼に構えた。

 再び突進してくるビッグバイソンを正面から迎え撃とうとする。


「ほぅ」


 それはいささか女王の意表を突いたが、あまりに無謀であり、大いに落胆させられる結果を想起させた。

 だがウシツノの脳裏には明確なビジョンがあった。

 数か月前に獅子骨峠で出会った剣士が見せた技。


「奴は、シバは上段に構えた剣の一閃で、突撃してきたハンマータイガーの脳天をかち割って見せた」


 状況が似ている。

 シバに出来たのだ。

 自分も出来なくてどうする。

 ビッグバイソンが喉の奥でうなり声を軋ませると右の後足で何度も土を蹴り上げた。


「タイミングと気合だ。一切の恐怖を後ろに置くんだ」


 バイソンが走り出した。

 頭だけでウシツノの身体と同じぐらいの重量がある。

 猛スピードで剣の間合いに入った。


「フンッ!」


 ズバッァァン! と凄まじい衝撃がほとばしった。

 空気が止まり一瞬全ての音が途切れたようだった。

 ウシツノの剣が振り下ろされ、そして同じ速度でまた上段の構えに戻されていた。

 その残身を皆が見届けた。

 女王だけではない。

 同じフロアで戦っていたヤソルトとベリンゲイも。

 頭上のバンと藍姫の戦いを食い入るように観察していた三博士も。

 一斉に手を止め足を止め、視線を身体ごとこちらへ向けていた。

 ウシツノの足元に額から首までを両断されたビッグバイソンが倒れていた。

 割れた頭部の中ほどにウシツノは立っていた。

 両横に斬られたバイソンの右顔と左顔が転がっている。

 バイソンの赤い血をもろに正面から浴びており、フゥ、と息を吐くこのカエル族が血を浴びた悪鬼にしか見えなかった。


「な、なんだ、あいつは」

「……」


 ベリンゲイの驚きにヤソルトも声を失っていた。


「だめだ。こんなに返り血を浴びてるようじゃ」


 ウシツノの記憶にあるシバの一撃はもっとスマートだった。

 状況を忘れ、ウシツノはその一瞬だけ、ただひたすらに自身の剣術について考察していた。


 頭上の戦いにも変化が訪れていた。

 サチに加勢したユカとメグミの影響もあるが、あからさまにバンの身体が縮み始めていた。

 最初の威勢もなくなっており、明らかに呼吸も早く、浅くなっている。


「だめデシ……ここまでデシ」


 突然バンがもとの小さな体に戻ってしまった。

 意識も失ってひらひらと落下してくる。


「バンッ」


 ウシツノは落下予測地点へと走りだそうとした。

 しかし足が動かない。

 驚いて地面を見るといつのまにかそこらじゅうに白い粘着質の糸が張り巡らされている。

 それはまさにクモの糸であり、同じようにヤソルト、そしてベリンゲイまでも足が固定されて動けずにいた。


「スパイダーウェブ」


 それは女王の手から伸びていた。

 両手からクモの糸を張り巡らし、さらに頭部には両横にトンボを思わせる巨大な複眼が見えた。

 女王はその複眼で周囲のあらゆる状況を把握していた。

 サチが落下する小さなバンを触手で絡めとっているのも見ていた。

 遅ればせながらもインスマス隊が大挙して厩舎広場に集まってくるのも察知していた。


「予想以上の力じゃ、剣聖どの。大人しくしておれ。悪いようにはせぬ」

「誰が信じるか」

「ほほほ、まあゆるりと話そうではないか。時間はまだある」


 インスマス隊が広場に入ってきた。

 さすがに出口ははるか上方。

 足が固定され、バンは藍姫の手の内。

 敵の数は膨大で、しかもこっちの素性は知れている。


「わかったよ……」


 しぶしぶながらウシツノは刀を鞘にしまい抵抗をあきらめた。

 ヤソルトも同じだった。

 三人はそろってアーカムの虜囚となった。


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