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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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546 three wise men 【三博士】


 広々しすぎて少し寒い部屋だった。

 床はタイル張りで壁は石を削っただけ。

 窓はなく、入り口に扉もない。

 全体的に冷たくて四角くて硬い印象を持たせる石の部屋。

 そこに横一列、八台のベッドが運び込まれていた。

 それぞれに若い男が寝ている。

 見た目はすべて人間のようだが寝息も立てず、胸の上下運動もない。

 本当に生きているのか疑いたくなる状態だ。

 その中のひとつ、右から四番目、左から五番目のベッドの真下にバンが潜んでいた。


「く、くぉ……」


 潜んでいたというよりか、寝台裏面の横渡にしがみついていた。

 シーツなど上等なものはないベッド。

 身を隠すにはぎりぎり裏面上部に張り付いているしかないのである。

 部屋は広く入り口は遠い。

 家具などはなく、付き添いらしい男女三人がさらに控えている。

 その部屋に新たな入場者がやってきた。


「この者たちね」


 妖精女王ティターニアへのお披露目らしい。

 その背後にも三つの影。

 バンは冷や汗を流す。


「藍姫デシ……」


 つい小声でつぶやいてしまった。

 妖精女王の後ろに藍姫サチと二人の戦闘怪人(ケンプファー)が控えている。


「ほれ、見りゃんせ藍姫殿。この者らが戦闘怪人を超える新たなる逸材ぞ」


 中央に立った女王は視界いっぱいにベッドを眺め渡す。

 後ろで藍姫は面白くもなさそうに欠伸(あくび)をしている。


「博士、説明を」

「はい、女王陛下」


 年老いた白衣の男がひとり前へと進み出た。


「お久しぶりで、女王陛下。ホルゥでございます。さてこの者たちですが、従来の戦闘怪人と比較しましてより高い戦闘力を有しております」

「ほう」

「従来の戦闘怪人は人間と動物の遺伝子を複合した者たちでしたが、この者たちにはさらにもうひとつ追加で掛け合わせたものがございます」

「それが精霊か」

「その通りでございます」


 別のひとりが進み出た。二人目は若い女だ。


「カルスダです、女王陛下。精霊複合については私から説明させていただきます」


 カルスダと名乗った女は眼鏡をかけた瞳の奥を冷たく光らせ、赤い口紅を塗った口元から冷たい声を紡ぎ出した。


「戦闘怪人に術技(マギ)のチカラを備わらせることは私共の悲願でした。その手段として女王が送ってくださったセンリブ森林のエルフたちを素材に改造手術を試みたのですが……」

「赤の13シリーズのことよな」

「はい。ですが脆弱なエルフの身体は改造手術に耐えられず、やむなくこの製造番号(ロットナンバーズ)は破棄せざるを得ませんでした」

「せっかくエスメラルダとの裏取引で手に入れたエルフたちだったのだがな」

「申し訳ありません。ですが完全なる無駄とはなりませんでした。ね、バサナ博士?」


 最後の三人目が進み出る。

 がりがりに痩せた骨のような印象を持たせる男だ。


「エルフは精霊との交信に長けた種族であることは周知の事実……フシュー。失礼」


 コホ、コホ、と小さく咳き込んでから説明を続ける。

 この男の声は歯と歯の間から漏れ出る吐息のように細く、実に耳触りが悪い。


「そこで徹底的に調べましたところ、エルフには他の種族にはない、シューッ、特殊な細胞を持つ者がほとんどであることがわかりました、ゴホッゴホ」

「仮に私どもはその細胞をエーテル細胞と名付けました。ご存知のようにエーテルとは火、水、土、風に次ぐ第五の元素(エレエンタル)とされています」


 咳き込む男に変わり最初の老博士が言を継いだ。


「そのエーテル細胞をこの者らに移植したのか?」


 女王の問いに老博士が目を輝かす。


「そうです。そのうえ戦闘怪人としての能力も植え付けております」

「精霊との交信も可能ですのでエルフどもと同様の精霊魔術を身に着けることも出来ます」

支配の宮殿(ヴァルテン・パラスト)にはまだ、フシュウ、幾人か残っていますよね、エルフ……」


 カルスダという女とバサナという痩せた男が後を継ぐ。


「精霊魔術の習得にはどれほどかかるのじゃ?」

「エルフの虜囚どもの協力具合によりますので、如何とも」


 肩眉を吊り上げる老博士に女王も肩をそびやかす。


「半年後には間に合わせるのだ。大々的にその力を示してもらいたいからのう。どうでしょう藍姫殿?」


 女王は後ろに立つ藍姫に視線を送ると微笑みかける。


「この八匹が次代のアーカムを担う、あなた様の強力な下僕となるのですよ」

「八匹?」


 藍姫、長浜サチはさして興味もないといった風で並んだ八台のベッドを見た。


「でも、そこには九匹いるじゃない」

「ッ!」


 バンの全身から一気に汗が引いた。

 と同時に床に張られたタイルを割って瞬く間に珊瑚が広がりだした。


珊瑚の檻(コーラル・プリズン)


 藍姫サチの冷たい術技(マギ)は突如現出した珊瑚でできた檻に一匹の白い小動物を捕らえていた。


「なんじゃこの白ダヌキは?」


 女王は軽蔑する視線をバンに向ける。


「どこから入り込んだ? みすぼらしい」

「ぐ」


 反論しかけたバンは咄嗟に口をつぐみ単なる小動物の振りをすることにした。


「や、しかしタヌキにしては珍しいような」

「何でも構わぬ。捨てておけ」

「では、私どもが」


 三人の博士は珊瑚の檻ごとバンを捧げ持ち一礼した。

 女王は満足したようで退出する。

 サチにもついてくるよう目で合図を送るが、そのサチはじっとバンを見つめていた。


「藍姫殿?」


 女王の呼びかけにサチは反応すると何も言わず後に続き、二人の戦闘怪人もそれに従って退出した。


「さて、ではまた忙しくなるのう」

「エルフが来るまでにこの白ダヌキを解剖していましょう。なんだか見慣れない動物だしね」

「ゴホ、ゴホ、ゴホ」


 バンは檻の中で背筋が凍る思いを味わっていた。


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