542 military service numbers 【認識番号】
「ほぉ」
妖精女王は最初に驚きの表情を見せ、そのあとでしげしげとウシツノ顔を覗き見た。
目を丸くして、口も柔らかく半開きにしている。
何度かウシツノの全身を上から下へと往復し、そして改めて背筋を伸ばすと、顎に手を当てて考える素振りを見せる。
その間ウシツノは時間が永遠とも感じられた。
女王の次の動きで自分の行動も決まる。
右腕はだらりと下げてはいるが、指先はいつでも刀を握れるように神経を尖らせていた。
「いかがでしょう、女王陛下! こやつはなかなかの成育っぷりかと思われます。〈インスマス隊〉の完全なる始動も時間の問題ですぞ」
ベリンゲイと呼ばれた司令官が自信たっぷりに声を張り上げる。
ウシツノは今聴いた言葉を記憶に留めようと密かに思った。
「そうな……ふむ。そのほう、認識番号は?」
「認識番号?」
そんなものは知らない。
どう答えていいかもわからない。
咄嗟に答えられる偽名をいくつか思い浮かべていたぐらいだ。
「う……あ、えっと」
「さっさと答えぬか! 貴様のそのヘルメットの裏に書いてあるだろう」
「あ、そうでした」
女王の怒りを買わぬようにと、焦れた司令官の忠告で難を逃れた。
(助かった……)
ウシツノは司令官の間抜けさに感謝しつつ、刻まれた認識番号を読み上げた。
「赤13-8242海、です」
「…………フム。下がってよい。ベリンゲイ、私は疲れておる。藍姫もな。部屋へ案内せい」
「はっ」
ウシツノの答えるのを聞くと妖精女王は興味を無くしたように司令官に中へと案内させた。
門をくぐり下層へと降りるゴンドラへと向かう女王の背中を見送る。
たまらず安堵の息を吐き出した。
と、すぐ隣に異様な気配を察知し、思わず飛びのいた。
「あっ」
「…………」
藍姫だった。
感情をうかがい知れない、冷めた目でウシツノを見下ろしている。
何も言わず彼女も女王の後に続く。
そのすぐ後ろを二人の戦闘怪人がついていった。
「ベリンゲイや」
「なんでございましょう?」
ゴンドラを駆動音が重々しく響いているが、女王の静かな声音は司令官の耳にはっきりと届いていた。
「製造番号赤の13番台はすべて失敗作に終わり廃棄した、と半年前に報告したな」
「その通りです、女王陛下。関係備品は地下倉庫にしまったままでした」
女王と司令官は横並びに立って下層の暗い穴底を見つめている。
「しばらく泳がせて目的を探りなさい。監視の目を緩めぬようにな」
「泳がせるのですか?」
司令官が驚きと不満のない交ぜになった声を出す。
とっとと締め上げて正体を吐かせる方がストレスがなくていい、と思っていた。
「あれの正体についてなら見当がついておる。どうせなら最大限に楽しみたいでな」
「と、言いますと?」
「フ、フフフッ」
妙案が思いついたと言わんばかりに妖精女王は含み笑いを漏らした。
「今年は大いに盛り上がろうぞ。この百年なかったほどにのう」
愉快そうに笑う女王の後ろで、藍姫のサチはつまらなそうに空に開いた小さな光を見上げていた。




