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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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541/721

541 real face 【素顔】


ドン! シャン! ドンッ! シャンッ!


 死と隣り合わせの荒野に楽奏の音が響き渡る。

 それに聞き耳を立てる者など居ないのに、無人の荒野に派手でけたたましい演奏が鳴り響く。

 ウシツノは無限とも思われるほど広大な荒れ地を眺めながら、音の出所を求めてキョロキョロしていた。

 司令官と共に外に出たウシツノは、他の多くの兵士に混ざり、施設の入り口わきに整列していた。

 といっても整然と並んでいるわけではない。

 門を挟んで左右に分かれているだけで、隊列はぐちゃぐちゃ、たたずまいも滅茶苦茶だった。

 一応そろいの装備が支給されており、全員フルフェイスマスクで顔を隠しているが、三百人はいるであろう兵の秩序はグダグダと言わざるを得ない。

 少なくともウシツノが見知っているほかのどの軍隊、組織よりも低劣を極めた。


(と言って無法者の傭兵集団、という有様でもない)


 ウシツノの印象としては道理を理解しない子供の集団といったものだった。


 周囲に気を配っているうちに、楽奏の音は先ほどよりもだいぶと大きく聞こえてきていた。

 道が走る丘を見上げると空と地面の境目に砂塵のグラデーションが沸き立つ。

 ついで幾本の旗がなびいている姿。

 打楽器に弦楽器、鍵盤、そしてホルンの音が響き渡る。

 最初に丘の頂上に姿を見せたのは、セクシーな衣装で背中に派手な羽根飾りをたくさん蓄えた何人もの踊り子たちだった。

 その後ろから楽団が現れる。

 隊列を崩さず、整然として各々の楽器を演奏している。

 踊り子たちとは違い、彼らは全員小鬼族(ゴブリン)で構成されていた。

 そしてそのあとに現れたのは派手で豪奢、巨大な車だった。

 あのビッグ・バイソンの二頭立て、両側の車輪は幅三メートルもあり、車の上には城からそのまま持ち出したかのような玉座が据えられている。

 黄金でできた玉座には翡翠や琥珀や瑪瑙(メノウ)が輝き、そこに珊瑚と貝殻で作られた鎧をまとった女が座している。

 女は若く、脚を組み、ひじ掛けに乗せた手に頬を預け、つまらなそうに前を行くパレードを眺めている。

 傍らに立てかけられた槍の柄が深海のように透き通った輝きを放ち、二人の戦闘怪人(ケンプファー)が同じように身動ぎせず控えていた。

 玉座の女は藍姫サチ。

 七人の姫神のひとり。

 二人の戦闘怪人はユカとメグミ。

 (スコルピオーン)天道虫(マリーエンケーファー)

 彼女らの前にはもうひとり人物がいた。

 見る角度によって色が変わる豪華なドレスをまとい、背中に極彩色の蝶の羽をゆらめかす。

 このアーカム大魔境の支配者、妖精女王ティターニアだ。

 女王は三人とは違い、パレードに乗って楽しそうに身体を動かしている。

 時に大声で笑いながらドレスと羽を翻して踊りを楽しんでいる。

 無人の荒野で繰り広げられるこのパレードは、この女王のためだけに催されているとしか思えなかった。


 今やウシツノの目にもその女王と藍姫の姿が捉えられていた。

 その後方には幾つもの衣装箱や糧食を積んだ荷馬車が続き、さらに一個大隊ほどの戦闘兵が連なっていた。

 国の要人の護衛としては物足りなくも感じたが、とはいえこの魔境でこの隊列に襲い掛かる命知らずがどれほどいる事か。

 そばに立つ〈アリの巣〉の司令官は先ほどから緊張した面持ちで直立したままだ。

 パレードはその司令官の前まで来るのに合わせるようにエンディングを迎えた。

 ひときわ大きなシンバルの音が鳴ると一斉に花火が撃ちあがった。

 門の前に集まっていた兵たちも拍手を送る。

 呆然としていたウシツノも司令官に小突かれ遅れて拍手した。

 女王がご満悦の表情でこちらを見下ろす。

 畳まれた備え付けの階段が広げられると司令官とウシツノの前に降りてきた。


「ようこそおいでくださいました! 女王陛下にはご機嫌麗しゅう……」


 少々上擦りながら口上をまくしたてる司令官を妖精女王は蔑んだ笑みで受け止めていた。

 その長く退屈な口上を聞きながしつつ、ウシツノは藍姫を観察していた。

 藍姫は到着してからも全く動こうとはせず、今も玉座で頬杖をついたままだ。

 今まで何人も異世界から来た姫神と会ったが、この藍姫は最もコミュニケーション不全に思われた。


「ベリンゲイ、守備はどうじゃ?」


 司令官の口上が終わり、女王が口を開いた。

 ベリンゲイというのがこの司令官の名前らしい。


「はっ。順調でございます。ご覧ください」


 すると門の前に集っていた兵たちが一斉にマスクを外して顔を晒した。


「ッ!」


 ウシツノは上げかけたうめき声をなんとか喉の奥に押し込めた。

 現れた顔はどれも同じに見えた。

 全員おそらくニンゲンであろう。

 背格好は様々で、年齢もそうだろう。

 だが顔はどれも似たり寄ったりだった。

 肌の色は灰色がかった緑色で、魚眼のように飛び出した目は閉じることもなく横に広がり、不本意ながらもウシツノは自分たちカエル族に似ていなくもないとすら思った。


「特にこの者は適応が速く、すでに完成の域にあります。おい、貴様も早く顔をお見せしろ」


 司令官に背中をドンと押され、ウシツノは女王の前へと一歩踏み出してしまった。

 ウシツノは焦った。

 まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。


「ほう、どれどれ?」


 女王は期待するような目つきでウシツノを眺め下す。

 さすがにうまい言い逃れは思いつかなかった。

 手のひらに汗をかいていたが、ひとつ深く呼吸をすると心は落ち着いた。


(こうなったらひと暴れして脱出するしかない)


 そう決めたらもう迷うことはなかった。

 イライラと落ち着かなげにウシツノを急かす司令官をよそに、ゆっくりとマスク後部の留め金を外した。


 そして素顔を晒しまっすぐに妖精女王を見上げた。


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