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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第七章 神威・継承編

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540/721

540 cast off 【着脱】


「どうだ?」


 奥から姿を現したウシツノは、この施設に駐屯している兵士たちの鎧を着込んでいた。

 全身を白色の硬皮鎧(ハードレザーアーマー)に包み、同色のフルフェイスマスクを被っている。

 ある程度施設内を徘徊してみたところ、一般兵と思しき者たちは、体格の違いは様々なれど一様にこの出で立ちで統一されていた。


「けどその刀は目立つデシ」


 バンが指摘したのは腰に佩いたウシツノの愛刀〈自来也〉だ。

 通常の三倍はある厚鉄の太刀であり、否応にも目に付く業物である。


「これだけは手放せないんだよ」


 そう言うとウシツノは鎧の置いてあった倉庫を出て探索を再開した。

 一般兵の格好に着替えると嘘のように探索は捗った。

 ごつい刀に白いタヌキのような小動物を従えていても見咎められるようなこともなかった。

 それどころかウシツノ以外の駐屯している兵たちも統一感がまるでなかった。

 体格だけでなく装備の着崩し方や得物の種類も違うし、なにより統制が取れているようにも見えない。

 言ってしまえば寄せ集めの烏合の衆だ。

 中には腕の立ちそうな者もいたが、察するに多くは元鉱夫や元農夫、それにウシツノたちが探しに来たネルスという青年のように漁師だった者もいるのだろう。


「ここはアーカムにとってそれほど重要な拠点ではないのかな」


 ウシツノの疑問に答えられる者はいなかった。

 最下層の厩舎からある程度上層階へと昇ってくると施設内の通路はより複雑化してきた。

 〈アリの巣〉と言われる由縁を噛み締める。

 兵士の詰め所や仮眠をとるための大部屋、食堂、救護室、訓練部屋、鍛冶師の詰める部屋に怪しげな薬剤を調合している部屋など。

 どの部屋にも必ず誰かしらがいた。

 質はともかく、この施設内には思ったより大勢が詰めているようだ。


「おい、そこのお前!」


 壁にかかったランプの明かりが弱めに焚かれた薄暗い通路を歩いていると、突然開いた扉から出てきた者に呼び止められた。

 一瞬その者がいた部屋の中を盗み見る。

 応接セットの置かれた個室のようで、態度からしてもこの施設の幹部クラス、おそらく司令官であろう。

 ウシツノは背中に冷や汗をかきつつ立ち止まりその者を見上げた。

 身長は百九十センチほど。

 体格もよく、着ているのはウシツノと同様の全身鎧だが顔はむき出しのまま。

 肌の黒いニンゲンでおそらく年の頃は四十といったところか。

 頭に毛はなく代わりに口の周りに濃いひげが密集している。

 顎も首も頑健に見え、目つきも鋭く、なかなかに堅物のような印象を受けた。


「こんなところで何をうろついている? そろそろお出迎えの時間だぞ」

「おっ? ……あ、いや……申し訳ありません、その……」


 ウシツノはうまい言い訳が浮かばずしどろもどろになっている自分に焦った。

 チラリと周囲を窺うが、いつの間にかバンの姿はなくなっている。


「なんだ? なにをまごまごしている……貴様所属はどこだ?」

「あ、はい……や、その」


 何と答えていいかわからず、頭にはアカメの顔が浮かぶばかりだ。


(こういう時にアカメがいれば)


 そう思うことがやけに多い。

 ハイランドを出てしばらく経つが、自分に足りないものと、それをどれだけアカメが補っていてくれたのかを思い知らされる。

 それを知れたのもこの旅の収穫のひとつだ。

 そう自戒してみるものの、この場をうまく切り抜けねばその反省を今後に活かすこともできない。


(やるか……)


 思わず指先で刀の柄に触れてしまう。


「貴様、ずいぶんと立派な刀をぶら下げているな」

「ッ」


 反射的に右手が動いてしまい慌てて柄から手を放す。


「そのマスクを取って面を見せろ」

「そっ、それは」


 ウシツノは押し黙った。

 顔を見せたら正体がバレるだろうか。

 仮にも剣聖の称号を授かってからそれなりに顔は売れていた。

 外交の薄いアーカムの、それもこれほど内奥に入り込んだ僻地にまで自分の顔は知れているだろうか。


「どうした? さっさと脱がぬか」


 有無を言わせぬ響きがある。

 もう下手な言い逃れは無理そうだ。

 ウシツノは腹を据えた。

 マスクを取り、相手の反応を見定め、必要とあれば……。

 後頭部の留め金を外すとマスク後部の縁に手をかけ、ゆっくりと前へと脱ぎ去った。

 そして顔を上げ素顔を司令官に晒した。


「ほう……」


 男は目を見張りじっくりとウシツノの顔を凝視した。


(やはりオレの正体を)


 再びウシツノの右手が柄に伸びた。


「そうか。貴様なかなかに完成しつつあるな。うむ、結構」

「は?」


 なにやら感心しきりにうなづく司令官の様子にウシツノは先走らせた殺気を押しとどめた。


「その顔、だいぶ完成間近のようだ。貴様なかなかに適性がある者のようだな。だがそれゆえに知能が劣化しているようだ。そこは要改善点ではあるが……」


 ウシツノは訳が分からず、司令官はひとり納得顔でウシツノにマスクを着けるよう言った。


「おっと、そろそろお出迎えの時間ではないか! 貴様も来い。遅れてはどんなお叱りを受ける事やら」

「あ、あの……」


 そそくさとマスクをかぶりながらウシツノは司令官に聞かずにはいられなかった。


「どちら様がおいでで?」

「決まっているだろう。ティターニア女王陛下だ。急げ! 駆け足だ」

「ティ……妖精女王!」


 このアーカム大魔境を治める最高権力者だ。

 頭の整理がつかないままに、ウシツノは急かされて司令官の後ろについて走った。

 とりあえずは姿を消したバンにほとんどを任せる以外どうしていいか見当もつかなかった。


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