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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第七章 神威・継承編

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533 challenger 【チャレンジャー】


「おい、いつまでコソコソしてる気だ」


 ウシツノは立ち止まると、柄に手を掛けつつ誰もいない後ろを振り返る。

 日の光の届かない、鬱蒼と茂る暗い木々の合間を見つめる。

 ややあって、茂みから二つの人影が道に滑り出てきた。

 どちらも剣を帯びた犬狼族(ウルフマン)である。


「さすがだな」

「腐っても剣聖、か」


 無礼な言葉は聞き流し、ウシツノは出てきた二人を観察した。

 どちらも大柄で体格がよく、筋骨隆々としている。

 黒い短毛のウルフマンは背中に大剣を背負い、茶色のふさふさした尾を持つ方は腰に剣を吊るしている。


「傭兵か? 盗賊か? 物乞いには……まあ見えないな」


 ウシツノの感想だった。

 黒毛の方はピカピカに磨かれた金属鎧。

 茶色の方は赤と黄色、左右で色が違う派手な服とマント。

 どちらも金はかかりそうな装備で、長旅で擦り切れた自分の旅装よりずっと高価に見えた。


「ふむ。知性を感じぬ煽りだ」


 お前らもだろ、とウシツノは心中で毒づく。


「新しい剣聖がこの地をうろついていると聞いたのでな。興味がわいた」

「カエル族ごときが剣聖とは、世も末だ。そう思ってな」


 先ほどから微妙に見下した煽りを入れるのは黒毛の方だった。


「剣聖とはかくも安価な代物か。最も強い者のための称号であるはずだ」

「つまるところ挑戦か。だったらそう言えばいいだろう」


 肩から背負い袋を下すとウシツノはコキコキと首を鳴らして刀を抜いた。


「ほ、ほう。物分かりが良いな」

「お前らみたいな手合いはもう見飽きてるんだ」


 ウシツノは刀を青眼に構えた。

 一振りした刀からズシッ、と空気を叩く圧が生じる。

 愛刀自来也(ジライヤ)の鋼は通常の刀より三倍厚い。

 小柄なカエル族ではあるが、膂力はオーガーに匹敵すると自負している。


「どっちからだ? 両方でもいいぞ」


 ジリ、と数ミリつま先を相手に摺り寄せる。


「オレからだ。オレで仕舞だがな。今夜からはこのオレ、ロットワイラが剣聖を名乗る」


 黒毛の方が前に出た。

 背中の大剣を引き抜く。

 柄は長く、鍔は横に長い。

 刃根本も柄同様に長く、剣全体の長さは百八十センチほどだろうか。

 両手で剣を握り構える。


「なるほど、ツヴァイ・ハンダーか」

「ヌゥアァッ」


 ロットワイラと名乗った黒毛が大剣を振り下ろす。

 半身になって避けると剣先は地面に突き立った。


「ヌウンッ」


 ロットワイラは右手を鍔より先の刃根本で握るとより短くなった剣先を振り上げウシツノを追撃する。

 足をたわませ後方に跳躍するウシツノに対し、刃根本から鍔に右手を持ち変えると腰を落とし突進気味に突きを繰り出す。

 その突きを飛び上がり身体をひねって交わす。


「チョロチョロとッ」

「フッ」


 再度突進してきた大剣の切っ先をウシツノは大きく弾きかえした。

 重みと衝撃でよろける黒毛に自来也を振り下ろす。


「まっ、!」


 恐怖で目を開いたロットワイラの眼前で自来也が横に逸らされた。


「ッ!」

「失礼! 悪友とはいえ親友が殺されるのを見ているわけにはいかなくてね」


 派手な衣装の方が片手に剣を構え立ちふさがった。


「レオンベルガ。お相手いたす」

「今度はカッツバルゲルか」


 相手の得物を見てウシツノがつぶやく。

 片手で扱える程度の直剣で、特徴は丸みを帯びたS字にデザインされた鍔元だ。

 主な用法は服飾帯に引っ掛けるのに便利であること。


「シンプルな剣だ。技量はこいつの方が上か」

「シッ!」


 呼気と同時にレオンベルガと名乗った茶毛が鋭く踏み込んだ。

 手首のスナップを効かせた切れのいい振りだ。

 小さく刀を動かし振り払う。

 その後も畳みかけるようにレオンベルガは踏み込んでくる。

 何度目かの切込みに対し合わせた刃を支点に刀を回転させながら頭部に振り下ろしてやる。

 そのウシツノの手首を開いた方の手でガッシと掴む。


「おっ」

「ガウッ」


 すると掴んだ手首を手前に引いてレオンベルガはウシツノの手首に噛みついた。


「っ痛」


 おもわず蹴りを入れて食い込んだ牙をもぎ放す。

 完全に意表を突かれたが空中で一回転する頃には気持ちを入れ替えていた。

 着地と同時に地面を蹴る。

 カエル族のバネを活かした加速にふらついたままの相手は対応できない。


「ッ!」


 ゴン、と鈍い音がしてレオンベルガは地に伏した。


「テメ……」


 立ち上がろうとした黒毛にも頭を叩いて気絶させる。

 重たい自来也の峰打ちに二人とも気を失った。


「はぁ……やれやれ、油断したか」


 血の流れる手首を止血するとウシツノは何事もなかったように旅を再開した。

 


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