528 アマンと不思議のダンジョンその27 試作型
紅蓮の炎が輝き燃え上がる情熱的なドレス姿のアユミが、全身を炭化させてしまったアマンを抱いていた。
眼を閉じたままのアマンに慈しむ眼差しを向けてそっとキスをする。
チリッ
かすかに空気が焦げる匂いがした。
漆黒の闇が煌めき纏わりつく煽情的なドレス姿のレイは、そっと立ち上がりながら伏し目がちにアマンを抱くアユミを見ていた。
周囲を囲む四人のエルフは視界に入っていなかった。
その態度が気に入らないとメリーが再び鋼の拳をレイに見舞う。
背後から無情にも後頭部を撃ち抜こうとした拳は、しかしレイに届くことはなく、あろうことか自分の方が予期せぬ衝撃に吹き飛ばされた。
岩壁に背中から打ち付けられ腰が沈む。
なにが起きたのか理解するより前に、右肘から先がすっぱりと無くなっていることに驚愕した。
鋼のように硬化した腕だったが難なく斬り飛ばされていた。
肘から先はレイの足元に落ちている。
しかもレイは依然としてこちらを見ていない。
その視線は赤いドレスのアユミに注がれたままだった。
「貴様ッ」
激高したキキーとウィリーがレイに飛び掛かる。
「うるさいなぁ」
飛び回るハエを追い払うぐらいに無造作に、両手で二人の渾身の一撃をいなすとフュリーの方をギッと睨んだ。
「ッ」
睨まれたフュリーは急激な怖気を覚え、そして誘われるように背後を振り返った。
グールが、ゾンビーが、レイスが、ゴーストが、集められたアンデッドたちの敵意が、完全にフュリーに対して向けられていた。
「ど、どうして? 黒姫の支配は相殺しているはず……」
「ヤれ」
レイのつぶやきにアンデッドたちが反応した。
支配はより強力な支配に屈する。
その単純な答えに行き着いた時にはフュリーはアンデッドの波に覆いつくされていた。
チリッチリッ
焦げた匂いと共に火の粉が舞った。
アユミの抱いたアマンがうっすらと目を開ける。
アマンの身体は赤くなっていた。
熱を帯び、時折、火花が爆ぜる。
「アユミッ」
叫んだのはキキーだった。
「そのカエルを殺せ! そいつは敵だ!」
「そのカエルを殺せば黒姫の戦意は落ちます」
レイの目が細くなる。
いま、彼女の心は凍てつく氷のように静かな怒りをたたえていた。
「はやく殺……」
ウィリーのセリフは途切れた。
レイの魔剣が命を絶ったのだ。
「……ん?」
魔剣を引き抜き、レイは一瞬怪訝な表情をした。
デスブリンガーは魂を引き裂くが、その手ごたえはなかった。
倒れたウィリーを見てキキーが絶叫する。
「アユミッ! とっとと」
「嫌ッ」
アユミはアマンを強く抱きしめた。
「アユミ……愚か者め!」
驚愕から憤怒へと感情を激変させ、最後のハイエルフ、キキーもレイの魔剣に胸を貫かれ倒れた。
「ぐふっ」
口元から鮮血をほとばしらせ、地面に倒れるキキーは見下ろすレイを睨みつけた。
「これで、勝ったとは、思うな……所詮、我らは、試作型にすぎん…………」
そして首を動かしアユミを睨んだ。
「お前も、役目は終えた……最後に笑うのはト=モ様……」
そこまでだった。
キキーの身体は突如白い泡となり、ジュクジュクと大地に染み渡るようにして、そして跡形もなく消えていった。
見ればウィリーの身体もない。
フュリーも、メリーも、レイの支配下にあるアンデッドによって始末されたようだが、その遺体は同じように消えてなくなっていた。
もちろん、最初に葬ったハニー・バニー、マネー・モネーもだ。
不思議に思うが、レイの目下の関心は別にある。
「……」
顔を上げ、もうひとりの姫神を見る。
アマンを抱いたアユミもレイを見ていた。




