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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 東眞光秋
第六章 英雄・奇譚編

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527 アマンと不思議のダンジョンその26 赤と黒の覚醒


「大丈夫だよ、アマン」


 両腕両脚ともに炭化してこそげ落ちたアマンの頭を、アユミは優しく抱きしめた。


「アマンは燃え尽きたりしない。七つの炎が燃やし尽くすのは、真に邪悪な存在だけ」

「……」

「優しいアマンはなんにも心配することはないんだよ」


 だんだんと二人を包んでいた炎が消えていく。

 いや、消えていくのではなく、アユミの中に収束していくようだった。

 身体の中は相変わらず熱かったが、アユミは今はとても心地よい気分だった。

 完全に炎を飲み込みきった時、改めて体内で熱い塊が膨らんでいくのを意識していた。

 竜人と化していた身体が少しずつ変化していく。

 獣じみた姿はやがて、深紅に染まった美しいドレスに変じていく。


「ああ……あたし……」


 アマンを抱いて、アユミは立ち上がった。

 炎の晴れた周囲では、四人のエルフだったモノが、黒いドレスを着た女を蹂躙していた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「死ねぇッ! 化け物ォ」


 キキーが肩から生えた触腕をしならせてレイに打ち付ける。

 触腕の先端は鋭い歯列を備えた口を大きく開けてレイの左腕に嚙みついた。

 痛みは感じなかったが、レイの肩を支点に大きく振り回され地面に叩きつけられた。

 その拍子に肩の骨が外れた感触があった。

 反対の右手に持った魔剣で食らいついたままの触腕を斬り飛ばす。

 血を噴き上げてのたうつ触腕をキキーは手繰り寄せる。

 左腕をだらんとぶら下げたまま、レイは立ち上がったがすぐに背後から足をすくわれた。

 いくつもの小石が寄り集まり、巨大なこぶしの形となってレイの足を払ったのだ。

 ウィリーが怪しく笑んでいる。

 彼女が多くの石を操り、集合して、即席のゴーレムを作り操っているのだ。

 生物ではないのでレイも気配を察するのに遅れてしまった。

 そのままレイの両足首をゴーレムががっちりと握りしめて離さずにいる。

 左肩の脱臼も相まって上手く立ち上がれずにいるレイに対し、銀色の鋼をまとったメリーがマウントポジションをとる形でのしかかった。


「ニィ」


 暴力的な笑みを浮かべると容赦なく拳の雨をレイにお見舞いする。

 鋼の腕で打ち付ける打撃は普通の人間ならそれ一発で命に関わる破壊力だ。

 レイは剣を離した右手のみでガードを試みるも防御の体をなしていない。

 一発、また一発と脳天を串刺しにする衝撃が訪れる。


「ウォウッ」


 レイの咆哮が響いた。

 一瞬メリーが身体を縮こませる。

 レイの<麻痺咆哮(パラライズ・ロア)>は周囲の者に恐怖の感情を芽生えさせ、強烈な悪寒と身体に麻痺効果を与える。

 だがメリーの身体が硬直したのはその一瞬だけだった。

 再び拳を強く握るとレイに向かい振り下ろそうとする。

 レイは魔力をたわめて一気に放出した。

 周囲にはレイが呼びよせたアンデッドたちがいる。

 彼らはレイに使役される存在で、そのために活動を許されここに参集しているのだ。

 グールでもゾンビ―でもゴーストでもデュラハンでもいい。

 己らの主を救出せよ。

 しかしアンデッドは動かなかった。

 どの個体もまごつき、正解がわからないという風に無駄に緩慢な動きで右往左往するのみだ。

 それはあまりにも無様で滑稽な様子に見えた。

 レイの側頭部をメリーの拳が打ち抜く。

 打たれたことで反対側を地面に強く打ち付け、小さく頭がバウンドする。

 視界の半分以上を地面の汚い泥土が占めたが、そのはるか先で黒髪のフュリーが笑っていた。


「アンデッドの支配権はわたくしが相殺させていただきました。もうあなたの命令も聞きはしませんよ」


 たしかに、アンデッドはすでにこの場にいる誰も襲おうとはしていない。


「あなた、たち……」


 ベキッ、と乾いた音が聞こえた。

 いや、聞こえたのはレイだけかもしれない。

 なぜなら音の出元は自分の両足首だったからだ。

 ゴーレムによりレイの両足首の骨は握りつぶされていた。

 痛みを感じないことがゴーレムへの対処を遅らせてしまったようだ。


「ッン」


 レイの頭頂部に巻かれた赤い茨が動き出すと魔剣を手繰り寄せのしかかるメリーを斬り払った。

 さすがに飛びのくメリーをどかすとレイは上体を起こして魔剣を握り、彼女の股の間に立つ小柄のゴーレムを一刀両断にした。

 ゴーレムは無数の小石になってばらけてしまった。


「我らのチカラ、思い知ったか」


 メリーが意気軒昂に吠える。

 自分たちの力を誇示できたことがよほど嬉しいらしい。

 メリーだけではない。

 キキーもウィリーもフュリーも、一様に自信をみなぎらせた顔をしている。


「お前たち、姫神の代わりは我らが務めてやる」

「代わ、り?」

「そうだ黒姫。世界を創造する力、この世界を救う役目は、すでに姫神(おまえ)たちだけの特権ではないのだ」

「……」


 レイの背後に無数の青白い手が現出した。

 <亡者の腕(グール・アーム)>で身体を支え立ち上がる。

 しかし左腕と両足に力が入らず、吹けば倒れそうなほどに不安定な様子だ。


「代わり、になって、この世界を、どう、するって?」


 これまでのレイにとって、姫神の存在意義など重要な議題ではなかった。

 ただ理不尽に振り回されたばかりで、黒姫などと呼ばれることにどうにも意味を見出せなかった。

 だが今エルフたちはなんと言ったか。


「特権? わたしが、世界を救う……創造する?」


 剣を地面に突き立てて身体を支えた。

 正面を見据えているが見えているのは自己の内面だった。

 じっと動かなくなったレイをエルフたちは、ついに観念したか、ととらえた。

 そもそも姫神と同等の力を備えた自分たちにこれ以上抵抗する余力はあるまい。

 それは火を見るより明らかなことだった。


「理解できたようだな」

「ならば観念して我らの一撃を食らうがいい」

「さらばだ、黒姫ッ」


 四人のエルフが一斉にレイに飛び掛かった。

 四つの必殺の一撃がレイに届く。

 その瞬間に黒い光が弾けた。

 四人はそれぞれ四方向に弾かれ、弾いたレイは中心で黒く輝いていた。

 その全身は漆黒のドレスに着飾っている。


 同時に赤い光が瞬いた。


 全員がそちらを振り向くと赤く輝くドレスをまとうアユミが静かにたたずんでいた。

 アユミとレイが同時に口を開く。


「あたしは紅姫。紅蓮の炎ですべてを滅する、〈旧きモノ〉ヒノカグツチを宿す姫神」

「わたしは黒姫。世界を生み、黄泉を支配する、〈旧きモノ〉イザナミを宿す姫神」


 圧倒的な神気だった。

 覚醒した二人の姫神が静かに、ゆっくりと、その目を互いに合わせるのだった。


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