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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第六章 英雄・奇譚編

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526 アマンと不思議のダンジョンその25 炎と永遠


「アマンそこどいてェッ」


 アユミから炎の弾丸が射出される。

 勢いよく飛ぶ炎の塊はアマンの背後に燃え盛る火柱めがけている。


「ぐぅッ」


 愛用の二本のだんびらを縦に振ってその弾丸を弾くも、勢いに押され後方に吹き飛ばされた。

 弾丸は天井へと弾かれ爆発し、瓦礫と埃が二人の頭上へ落下した。


「ダメッ! 止まらないッ」


 全身いたるところから炎を燃え上がらせているアユミ。

 両腕で身体を抑え込もうとうずくまるものの、今度は肩から何発もの弾丸が射出された。

 飛来音と煙の帯を撒き散らした弾丸は、滅多矢鱈と縦横に暴れ狂い、無差別に壁、地面、天井に着弾する。

 レイに呼び集められたゾンビーやスケルトンが巻き添えになり、辺りに腐敗した肉片や骨のかけらが飛び散る。


「熱い、熱いよ……」


 うずくまった姿勢のままアユミは腕で地面を掻きむしり、脚で地面を蹴りあて、尾で地面を殴打していた。


「七つの炎がアユミの中で爆発しているのか」

「アァァアアァァァァアァァァァァァァァッッッッ」


 天井に向かい吠えたアユミの口から業火がほとばしる。

 まるですべての炎を吐き出してしまいたいというアユミの慟哭であった。


「どうすりゃいい? 全部吐き出せば楽になるのか? それとも」


 アマンはトレジャー・ギアを内包して燃える火柱を見る。


「あの封印を解かせてやればアユミの苦しみは終わるのか?」


 考えたところでアマンに答えなど出てくるはずもない。

 あの宝が何であるか、その意味も価値も知らないのだ。

 ましてここへは当初もっとお気楽に宝探しのつもりで来たに過ぎない。

 よもやアユミとハイエルフの集団に出くわすなんてことは想定外だったし、エルフたちが求めていなければアマンはもっと単純にこのトレジャー・ギアを手に入れようと画策したかもしれない。

 アユミをこのように苦しめながら利用しようとしている。

 そんな奴らが求めるこの秘宝を、好奇心だけで開放していいのだろうかとアマンは悩んでいた。


「いや、でもよ……」


 だがアマンはそれだけで終わることはない。


「考えようによっちゃあ、こいつはチャンスだ」


 切り替えの早さはカエル族一、いやもしかしたら全人類で一番なのではないだろうか。

 時折アマン自身でもそう思う。


「誰にも邪魔されずアユミと再会できたんだ。アユミを取り戻すチャンスじゃないか。それに」


 なんだかわからないがとんでもないお宝であることには変わりない。

 爆炎の中で赤熱する歯車の形をしたお宝。

 絶対にお金で売り買いするような類の宝ではない。

 それを知った。

 場合によっては、手に入れることだってできる。


「よし、やってやる」


 アマンの中でスイッチが切り替わった。

 眼が金色に輝くと全身から黒いオーラがあふれだす。

 レイから借り受けている闇の力を解放する。

 もとより姫神であり半ば暴走しかけているアユミに生身で立ち向かうほど無謀ではない。


「アユミ! 全部受け止めてやるッ」


 アユミに向かい駆け出した。


「アマ……ン」


 アユミに近づけば近づくほどに周囲の熱が耐えがたくなる。

 一歩ずつ太陽に近づいていくようだとアマンは感じた。


「アユミッ! つらいなら全部吐き出しちまえ! オレが受けきってやる」

「アマン! アマン!


 アユミの両肩から炎の帯が伸びた。

 鞭のようにしなる長い炎の尾がアマンの周囲で地面をえぐり、大気を焦がす。

 だんびらで受けたがその強い衝撃に我慢できず得物を飛ばされた。

 受けた右手がジンジンと痺れる。

 自分からは微動だにしないアユミだが、その身体からは無差別に、そして無尽蔵に炎が放出されていた。

 弾丸、ブレス、炎撃、そして圧倒的な熱量。

 闇のオーラでガードしていても、アユミに近づくほどにアマンの皮膚が焼け焦げていく。

 あと数メートルの地点まで来てすでにアマンの全身は火脹れ、皮膚呼吸も困難なほどに火傷を負っていた。


「来ないでアマン……死んじゃうよ」


 流した涙も自らの炎で瞬く間に蒸発してしまう。


「だい、丈夫だ……オレは死な、ない」


 アマンは一歩一歩、勢いは出せなくなったが、それでも止まることはなかった。


「アマン」


 へたり込むアユミから周囲に広がる炎の渦が巻き起こった。

 炎はアマンも飲み込み辺り一帯にまぶしい輝きを放つ。


「アユミ……」


 炎の中でアマンはアユミの元へとたどり着いた。

 見るも無残に焼け焦げたアマンはアユミの肩に手を添えて、そして煤となってこそげ落ちる自分の手を見た。

 膝から下が煤となって砕け散る。

 立っていられなくなり前のめりに倒れこむ。

 そこはアユミの胸の中だった。


「アマン……」

「ああ……」


 炎の中で、アユミは今までにないほどの恍惚と平穏に出会っていた。


「アマン……あたし」

「……」

「あたし……なんとか、できそう」


 アユミの中で何かが目覚めようとしていた。

 それは、とてもとても、大きな力の存在だった。


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