523 アマンと不思議のダンジョンその22 姫神の色
「だからぁ、白がショートで銀がロングだっただろ?」
「ちがうよ。逆だったよ」
「そうだっけぇ? でも青はおかっぱで黒いのはひとつにまとめてたよな?」
「青はおさげだったし、おかっぱは黒だったし、ひとつにってポニテしてたのは桃色だったよ」
「そうだったっけぇ?」
「アマン全然見てないんだね。そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうよ」
「お前こそよく覚えてるよな。一度会っただけでさ。感心するわ」
「そ、そうかな」
アマンに褒められてレイは赤面してしまった。
うつむいて小さくへへ、と笑う。
並んで座るアマンとレイがいる場所はもちろんジャハンナムと呼ばれる不思議なダンジョンの中だ。
二人でダンジョンに入りしばらくの時間が経過していた。
どうやら安全を確保できる場所へ着くと二人は休憩がてら話し込んでいたのだ。
「でさ、あいつらどうにも不自然に色分けされてるよなぁ」
先ほどから話のテーマはこのダンジョン内にて交戦中のハイエルフたちについてだ。
「金色と銀色と桃色と、あと白と黒と、青?」
「うん。これってさあ、姫神の色と同じなんじゃねえのかな?」
「そうなの?」
「オレが聞いてるんだよ。レイは姫神だろ」
「でも、わたし他の姫神って、ほとんど面識ないし」
レイが見知っているのは白姫のシオリと紅姫のアユミだけだった。
「たしかにわたしは黒姫で、シオリさんが白姫。アユミさんが紅姫だから、姫神って色分けされてるんだね」
「うんうん」
「でも他の色が何色かなんて、わたし知らないもん」
「オレも知らないや。なぁんか今さら聞けないレベルのこと知らないんだなぁ、オレたちって」
好奇心の塊のアマンだが、不思議と知識欲というものはあまり意識したことがなかった。
行ってみたい場所、見てみたいもの、やってみたいことには全力で行動するのだが、不思議と知らないことを調べたいという衝動は他に比べておとなしかった。
「アカメの奴がそっち方面に特化してたからなあ。オレが調べるまでもなかったんだ、たぶん」
「たしかに、頭よさそうだったね。ウシツノさんは強かったし」
「そうだな……」
アマンは両腕を頭の下にして寝ころんだ。
炎で照り返された天井の岩肌をじっと見つめる。
「ウシツノの旦那は剣聖になるほど強くなった。アカメは誰よりも勉強熱心で賢い奴だ」
「……」
隣のレイがそっとアマンの顔を見つめる。
「オレってなんだと思う?」
「え、わからないよ」
「……そだな」
沈黙が流れた。
気まずい時間をどうにかしようとレイは言うべき言葉を探した。
そうしてようやく絞り出したのは、
「け、健康、じゃない?」
「はぁ?」
「あ、や、元気! 元気が一番じゃない? アマンはいつもたくさん食べるし、走るし、跳びはねてるし」
「それがオレの勝ってるところ?」
「それが一番みんな羨ましいんじゃないのかなぁ。わたしなんていつも落ち込んでるわけだし」
レイも寝ころんだ。
しかし目線は天井ではなく炎の明かりも届かない隅の暗がりだった。
二人とも黙り込んだ。
しかし今度の沈黙は何も気まずいところはないものだった。
しばらく静かにしていられたらいい。
そうして数分、もしかしたら数十分以上、そのままでいた。
静かにしていたので周囲の気配が揺らぐのにもすぐに気が付いた。
わずかだが、この場所へと近づいてくる気配が、というよりもはっきりとした足音が聞こえていた。
ひとつは重たげに引きずるような足音で、あとの六個は無遠慮にどかどかと歩く足音。
来るな、とわかりきったタイミングで、この部屋に七人の人影が入り込んできた。
「よう、待ってたぜ」
七人の侵入者にアマンは気安く声をかけた。
七人は驚き、そして当惑していた。
「お、お前、どうしてここに!」
「やはり生きていた。とはいえさすがに」
「そうだ! どうしてお前が我等より先にここへ到達しているのだ」
青髪おさげのキキー・コキーと、黒髪おかっぱのフュリー・ホリーと、桃色ポニーテールのウィリー・ウィーが声を荒げる。
この部屋は広く、奥に赤く輝く火柱が猛っていた。
その火柱の中心部は太陽のように炎が球形をなし、その中に光り輝く歯車がひとつ滞留していた。
「これが本当はお前らが欲しがってる<トレジャー・ギア>ってやつだろ? 先に来て待ってたんだぜ。な、レイ」
こくん、とレイがうなづいた。
人が増えたので人見知りを発動したようだ。声を発しようとしない。
「ま、そういうわけで。……アユミ!」
アマンがエルフたちの後ろにいたアユミに声をかける。
「そいつらと別れて、オレと来い」
「アマン……」
アユミは重たい脚を引きずってアマンの前へと出た。
「ッ!」
アマンは息をのんだ。




