521 アマンと不思議のダンジョンその20 仕切り直し
「炎使いのアユミが〈最強の炎〉というやつを探すっていうのは、まあ、わからなくもないよなぁ」
アマンが天井を見ながら考える。
「で、その〈最強の炎〉というのは〈七つの炎〉で封印されている〈トレジャー・ギア〉というお宝を解放するのに使えるってわけだ」
「そうです」
オンラクが首を縦に振る。
「で、その〈トレジャー・ギア〉とはなんなの?」
「知りません」
オンラクが首を横に振る。
「ふぅむ」
アマンが腕組して首をひねる。
「アユミはともかく、あのエルフたちの目的はきっとそのお宝だな」
「そうなのか?」
「アユミはエルフの女王に言われて修行に来たと言ってたけど、そんなのアユミらしくないだろ?」
「わしゃ、それほどあの娘のことを知ってるわけじゃないしなぁ」
チチカカは困り顔であごを掻く。
「あいつはそんな力を求めるような奴じゃないさ。きっといい様に利用されてるんだ」
甕から這い出るとアマンは装備の再点検を始めた。
「なんじゃ、また行く気か?」
「あたりまえだろ。あんな奴らと一緒にいたんじゃアユミが心配だ」
「そんなにおかしな連中なのか? エルフっちゅうんは?」
「とっても風変わりな連中だったよ」
身支度を終えたアマンがレイを振り返る。
「オレ行くけど、お前どうする?」
「どうって?」
レイが困った顔をする。
「いや、バックパックはあの場所に置いて来ちゃったし、もうこの長櫃から逆行しようたって駄目だぜ」
「……」
「入るたびに構造が変わるダンジョンだし、別々に入ったら中で合流は難しいと思うんだ」
「それって……」
「だからさぁ」
「私も一緒にって、こと? いいの?」
「あ、ああ。お前さえよければ」
レイの口元がほころんだ。
「う、うん。行く」
「言っとくけど、オレはアユミを助けたいんだ。あいつ、なんかお前のこと勘違いしてたみたいだけど、それでも、平気か?」
「……うん!」
少しだけど、レイは力強くうなづいた。
「よし、じゃあ行こう」
アマンとレイは連れ立ってダンジョンへと向かった。
「おやっさんは留守番しててくれよな」
「わしゃ行きたくなんかないわい」
アマンはそこまで気づいたりはしないが、レイは内心喜んでいた。
レイからはアユミに対するわだかまりはほとんどなかった。
それどころか同じ日本からこの世界に迷い込んだ同胞として、できれば仲良くなりたいと思っていた。
レイが知る姫神はアユミを除けば後はシオリぐらいだ。
白姫としてレイと同じタイミングでこの世界に来たシオリは、レイよりも年下なのに、ずっと早くに順応していた。
本来なら自分が彼女を慰めてあげるべきなのに、そうでなくともせめてお互いをいたわり合うべきだったのに、自分は助けられてばかりだった。
暴力と理不尽に翻弄されてきたレイにとって、だからアユミを助けるという目的は、とても活力を与えてくれる目的となった。
それにアマンから、一緒に来いと、言ってもらえた。
自分がみんなの助けになれる。
そう思うと恐怖よりも喜びの方が勝るのだ。
「目指すはトレジャー・ギアとかいうお宝だ。それがどんなものか知らねえが、きっとアユミもそこへ向かっているはずだからな」
アマンは入り口で、仕切り直しとばかりに気合を入れなおした。
同時に覚悟も決める。
今までは死んでも不死身のラー・シャイとなったアマンはマグ王の宮殿で復活することができた。
けれど今度はレイが一緒にいる。
自分が死んでしまったら、レイを守る者がいなくなる。
もしかしたら二度と会うことも出来なくなるかもしれない。
だからもう、次からは死に戻りは許されない。
「よし、行こう」
「はい」
二人は不思議のダンジョン〈ジャハンナム〉へ、いま一度、踏み込んだ。




