表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第六章 英雄・奇譚編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

518/721

518 アマンと不思議のダンジョンその17 黒姫vs紅姫再び


 黒い風がレイを包む。

 砂や埃を吸うまいと、アユミは口元を手で覆いながら後ろに下がり距離を取った。

 だが風はすぐにピタリとおさまった。

 風はおさまったが黒い色はそのままだった。

 そこにレイは立っていた。

 黒い靄がかったゴシックなドレスをまとい、赤い茨の冠を頭頂部に戴いたレイ。

 髪は長めの乳白色、肌は骨のように白く、瞳は銀灰色。

 手には禍々しいほどにごつく、どす黒く、怖気を感じさせるほどに変容した魔剣デスブリンガーを握っていた。

 姫神に転身するため、各々が手にする神器。


「……その剣、隠し持ってたんだ」


 警戒した声音でアユミが吐き捨てる。

 レイがギギィ、と軋り音がしそうなほどにゆっくりとした動作で小首を(かし)げた。


「この剣は、何があっても、私からは離れたり、しないから」


 まるで糸で吊られた操り人形の如く、レイは魔剣を持ち上げるとゆっくりとアユミに剣先を向けた。


「なによ! やろうっての?」


 敵意を向けられたと察し、アユミはカチンときた。

 いつでも飛び出せるよう、頭を下げて低く前傾姿勢をとる。

 両足を広げ、羽を広げ、尻尾を立てて、自らも赤い斧を構えた。


「先に、突っかかってきたのは、あなたです。前カノさん」

「ま……え?」


 アユミは聞き捨てならない言葉を聞いた気がした。


「私がアマンの、今カノ、なんだから、あなたは前カノさん、でしょ?」

「前カノ! ま、前カノだってぇ!」


 レイが勝ち誇ったような目で言った。

 最初驚いたアユミだったがすぐにふつふつと怒りが沸いてきた。

 自分がアマンと離れていたこの一年の間、目の前にいるこの薄気味悪い姫神が、一体何をしてくれたというのか。


「ふ、ふざけんなァッ」


 尻尾を強く地面に打ちつけると、アユミは斧を振りかざして突っ込んだ。

 迎え撃つレイも魔剣を振りかざす。

 剣と斧がぶつかるとけたたましい轟音があたりに響いた。

 それは魔剣から生じた亡者の叫びのようなこだまと、斧から発した炎が爆発したような炸裂音だった。

 ただ一度の本気のぶつかり合いが周囲に恐怖の感情と劫火の熱風を浴びせた。


「ッ!」


 魔剣を握るレイの手が少し押し込まれた。

 相手を見くびってはいない。

 最初から両手で剣を握り紅姫の攻撃を受けた。

 トカゲ族の戦士が三人がかりでようやく持ち運べる重量を誇る剣である。

 その剣を片手で振り回すことのできるレイが両手で受け止めたのだ。

 それが押し込まれた。


「ニィッ」


 鋭い歯列を見せてアユミが破顔する。

 レイの一瞬の戸惑いを見抜いたのだ。


亡者の腕(グール・アーム)


 その破顔に気を悪くしたレイはムスッとした表情で術技(マギ)を唱えた。

 レイの背後にたくさんの青白い亡者の腕が現れる。

 生者を求め冥界に引きずり込む腕だ。

 触れられれば死よりも冷たい冷気に精神がもたない。


猛爆発(バーストフレア)ァ」


 だがアユミの唱えた術技(マギ)が二人の間に大爆発を起こすと両者ともに反対方向へと吹き飛ばされた。

 壁に激突したレイが地面に落ちる。

 アユミは吹き飛ばされながらも翼を広げ自らに制動をかける。

 転身したことで自身の周囲に高温の障壁を張り巡らせている。

 炎によるダメージはアユミにはない。

 しかしレイもすぐに起き上がる。

 その動きは関節を曲げたりなどせず、直立のままゆっくりと立ち上がる不気味なものだった。


「ったく、本当に気味の悪いヤツね」

「怖い、の?」

「そ、そんなわけないだろッ」


 人形のようなレイと獣のようなアユミが再び対峙する。


「もうやめろって! レイ! アユミィ」


 その時二人を止めようとアマンが声を振り絞って立ち上がった。


「アマン……」

「アマンッ」


 それまで人形のように無表情なレイだったが、ほんの少し悲しそうな顔をした。

 しかしそれ以上に悲しみに襲われたのはアユミの方だった。


「アマン……なんで?」


 アユミの肩が震えている。


「なんでよぉ!」

「な、なにがだよッ」

「あたしよりも先に、黒姫の名を呼んだッ」

「はぁ?」

「あたしより、そいつの方が大事なんだ! うぁぁぁぁん」


 子供のように泣き出したアユミだったが、子供のように泣くだけで終わったりはしない。


「アマンの莫迦ァァァァッ!」


 両手を振り仰いだアユミの直上で黒い炎が剣の形となると轟音を上げて縦横無尽に暴れだした。


「ア、アユミッ」

「危ないです!」


 地上にいたのはアマンとレイだけでなく、六人のハイエルフも同様だった。

 しかしアユミにその声は届かない。


「もうみんなみんな大っ嫌いだァァ!  害なす黒炎の魔剣(レーヴァテイン)ッッッ」


 大きく膨らんだ黒い炎の剣が地面へと突き刺さり爆発した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ